第六話 好況の転生者③

「―――おっさん、一つ聞いてもいいか?」


「なんだね?」


へらへらとした表情でシグサの顔を覗いてくる訓長、しかしシグサは顔色を全く変えずに話をつづけた。


「―――戦闘中に自分の武器が折れてしまった兵士をどう評価する?」


一間置いて、訓長が言葉の意図を読み取る。そして大爆笑した。


「そんなの戦う権利など無い敗者だ!どうせ強い武器だけ貰ったへっぽこな上層民のことだ。戦を完全に舐めているだろう!」


周囲からもシグサを嘲笑する声が聞こえた。戦いに対しての心得も何もない無知な勇者が滑稽だったのだろう。しかしシグサは動じない。逆に心の中からメラメラと燃える自信すら感じた。―――もうすでに言質は取った。

高らかと木刀の先を突き出して、こう叫ぶ。


「無駄な話でそらして悪かった。それでは試合の続きを行おう、おっさん」


俺が唯一面倒くさい事は負けることではない。相手を殺してしまう事だ。


【スキル:相思の勇者を起動します。30回ほど起動したものの、シグマからの応答が無かったためスキルを使用できていませんでした】


『そうか、スキルを使って無くて強制シャットダウンをした。悪かったな。使うつもりなど更々なかったが。しかし今回ばかりは使う予定が出来た』


【1個体からの”想い”を代償にスキルを発動します】


「―――いざっ!」


今度はシグサから距離を詰めた。距離を正確に測った訓長は着地点に向かって木刀を振り下ろした。それをシグサは紙一重で交わすと、わざわざ木刀で相手の木刀を受け止める。今度は逆にシグマが蹴りを入れようとすると肘でガードが入る。シグサが木刀を引き抜くとまたそれをハイペースで突き出した。

シグサの木刀をはじくと、今度は逆に訓長から攻撃を仕掛けた。しかしシグサはなんとかソレを交わす。そしてまた無駄に木刀で受け止める。それをまた避けると今度は相手の木刀を自分の木刀で弾いた。これを繰り返したのちにこれまでループしていた動きから変化する。


「はっ!」


なんとシグサが捨て身でタックルしてきたのだ。体を無防備にする阿呆な技、思わず周りからも声が出た。その攻撃を受けた訓長でさえもシグサを哀れんだ。そしていい御身分が滑稽であると、ニヤリと笑った。

どうにか木刀でタックルされた勢いを制裁しようとした―――――その時、

パキッ!

訓長の木刀が折れたのだ。

ガチーンと木刀とは思えないほどの重量のある落下音が鳴り響く。


「え……」「……何故」「訓長の木刀が折れたぞ!!」「あの木刀何か……変?」


周りからも疑問の声が漏れる。それもそうだ、本来訓長の木刀は特別性で実は鉄が含まれていた。これは新入訓員をボコす一大イベントであり、力での上下関係を示す上の一つの手法であった。もちろん負けるわけにはいかない。イカサマが正当化されたクソ試合である。しかしシグサの使っている普通の木刀は鉄の木刀、そしてクソイベントもろ共割ってしまった。お互いに強く打ち付け合い、耐久が減り、最後には自分から木刀を割ってしまったのだ。


「おっさん、さっきお前が述べていた言葉を思い出してみろ」


「ぐっ……勇者……」


「つまり、お前は身分だけに固執したへっぽこな下等民だ。ゴミにすら見放されて可哀想だな。自らの力で自身の剣を割るとは、無能め」


そう言いながらシグサは訓練場から退場した。するとパーティーの三人が駆け寄ってきた。そして口々に物を言った。


「どうしてすぐにスキルを使って終わらせなかったの?ボロボロじゃない……」

「あんなやつは無視して牢屋に投げ込むのが一番いいですわよ」

「…………怖くて目を塞いでたから何も言えないけど、悪口はちょっと……。」


ナターシャは体をぺたぺたと触ってくる。そしてスーザンはフンっと冷静に対処法を提示してきた。シャリアは別の方面での異議を唱えていた。しかしどれもこれも理由があった上での行動だった。


「俺のスキルはパーティー内でしか共有はしない。そして他の奴にはバレてはいけない。対策されたらそれで終わりだからな。かと言って隠し続けて弱く演じることも、また敵に油断を見せてしまう。だからこそ今日の決闘は受け入れるしかなかったし、堂々とスキルも使用することもしなかった。結果的にはアイツの自爆で物事を片付かせたんだよ。」


初めてのスキル使用時には驚いた。それは簡単に何でも切れやすい事に。最初の一振り、全身全霊で切ってかかったら容易く訓長の首と胴体を乖離させていただろう。


まだ殺す訳にはいかない。しかし守るために目的が出来れば、その時は躊躇なく―――――。





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異世界ルート ~想いをスキルに具現化した主人公~ 九条 夏孤 🐧 @shirahaku

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