第四話 好況の転生者
これといって未練はなかったが、前世では思春期だったこともあり友好関係も全部曖昧なままに終わったことが唯一残念だったことだ。そして恋人にも喧嘩をして以来何も言えずに死んだ。
そんなだから前世では結局、何一つ守れたものなどなかった。
【”相思の勇者”を起動します。―――説明を始めます実験体アルファ】
そして今世では勇者として転生した。シグサは今、一国の王様の前で膝を曲げて忠誠を誓う姿勢を取っている。周りには貴族のような高価な服をまとったもの。そして何百人と並ぶ兵士。大層華やかな舞台だ。その中で唯一王様の目の前にいるのがシグサだけであるという状況だ。
王の演説では「魔王討伐」や「イビルハザード」などのワードが聞こえてきた。
魔王を討伐するなどとファンタジーの世界でしかありえない話をタラタラと王様は語る。しかし馬鹿にしているわけではない。あくまで真剣な声色で魔王の暴虐さを嘆いていた。そして志種は本当に異世界に来てしまったのだと悟った。
【説明を始めます実験体アルファ――――応答なし。通信が遮断されている可能性…無し。 説明を始めます実験体アルファ――――応答なし】
脳内に変な音声が流れ続けてウザい。アルファって誰だよ?俺はアルファではないシグサだ。
【アルファ改めシグマとして通信を受け取りました。それでは説明を始めます】
「そのゆえ、そなたには魔王を討伐してもらいたい。この世界のため、そしてこの国の繁栄のため」
不意に周りから地面が揺れるほど大きな拍手が響き渡り、歌が流れ始める。王の演説が終わり、俺は正式に勇者として魔王討伐という責務を担わされた。そして歌と同時に脳内に大量の情報が入り込んでくる。”相思の勇者”の誕生、この日から世界の歴史は二人の”相思スキル”によって突き動かされてゆく。
【相思の勇者:一つ目、”想い”を代償にすることによって切るためのエネルギーを得ることが出来きる。強ければ強い”想い”を所持しているほど何でも切ることが出来きる。『補足:”想い”とは使用者に対する正の感情の事を指す』二つ目、――――】
【現在約、10000000の個体からの”想い”を所持しています】
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「これからよろしく!」
「お、お世話になります……」
「これから旅路を共にするのですね。仲良くしてくださいな」
勇者を祝うような儀式が終わって、大広間から貴族含め観衆か兵士たちが出ていく。その様子を眺めていると、三人の女子に声をかけられた。王様が言うには、勇者として活動するうえで助っ人になる者らしい。いわゆる勇者パーティーを作ることになる。勇者パーティーはいわゆる国直轄型の機関で、国が色々と面倒を見てくれるらしい。
一人は活発そうな性格の子、もう一人は控えめな性格、そして最後の一人は穏やかそうな性格の人だった。名前は順番にナターシャ、シャリア、スーザン。変わった特徴と言えば、ナターシャには獣のような耳がついており、スーザンには尻尾が生えている事。人間族と他の種族が共存している事、また他種族の共通の敵として魔王が居るのだろう。
「容姿で見てわかる通りねウチ、ナターシャは
「私は……普通の家庭に生まれて……。貴族ではありません……。と、とにかく衝突はしたくないなあって……」
「ワタクシは
それぞれが自己紹介をしている間にまたもや【イビルハザード】という言葉が出てきた。
「あぁ分かった。よろしく。それより気になったのだが【イビルハザード】は何を指しているんだ?」
こう質問をするとパーティー全員の雰囲気が二度ぐらい下がった。その状況を見かねてか、後方にいた王様が告げる。
「それが本題だろう。魔王は他の種族を滅ぼすために、いくつもの大きな災害を起こしてきた。【疫病】に【ジェノサイド】、【捕虜での洗脳殺害実験】、度重なる侵攻を経て、他の種族との均衡を破壊したのだ。今確認されている中でも魔族は100年前より9倍もの領土を広げ、30倍もの不毛な土地が今でも増え続けている。これを放置するなど言語道断。シグサ勇者で三代目となる。今度こそ魔王を討伐してきてくれ」
前世で言う戦争犯罪に含まれるものを積極的に施行しているのだろうその魔王というやらは。他の種族から反感を買う理由はここにある。王様は拳を強く握りながら語っていた。
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