第三話 不利な転生者③
(あばら骨を犠牲にするなんて聞いてないって!)
普段支えられている部分が抜け落ちており、他の骨に負担がかかってさらに痛かった。今更だが後悔すら覚えるほどの痛さだ。
「
目の前の女性は苦虫を噛みしめるような声で呟いていた。魔壊病にかかった者は薬を買える経済力があれば生き延びることが出来て、無ければ死を待つだけのこと。どう必死に対処しようと結局は薬の有無で生死が決まる。しかしそんな理不尽な現状を逆上する思いが”相思の薬師”とオメガを結び付けた。
「できます。―――飲ませれば―――治すことできますよ」
千香良は手元にあるポーションを目の前の女性に渡した。さらっと揺れる透明な液体に光が差し込み幻想な雰囲気を作り出している。彼女はまず、目を驚かせるような反応をする。そして少しの間をおいて、手段が無い事を悟り、意を決したようにそのポーションを傾け、衰弱した男の子の口に注いだ。
周りはシンと静まり返り、ポーションをごくごくと飲む音だけが響き渡る。周りにいる他の大人たちも手を合わせて祈るような姿勢を取った。しかし緊張したのも束の間、飲み終わると直ぐに男の子の体に異変が起こった。
「ね、熱が引いてる!」
驚くような声が周囲に響き、それと同時に女性の安堵感が周囲に漂い始めた。苦しい表情から段々と和らぐ様子が見て取れた。周囲は歓喜に震える。””相思の薬師”は千香良の願いを見事叶えたのであった。
「はあ良かった……」
そう気が抜けた瞬間の事だった。力が抜けて、くたっと横たわると意識がいつの間にか飛んだ。体を代償にすると相当負荷がかかることを身をもって感じた。最後に聞こえたのは孤児院の大人たちが駆け寄ってくる足音であった。
『”サーラからの想い””病弱な者からの想い””孤児院の想い”、以下三つを獲得しました。三つの想い、そして”普通の石ころ”を代償にして【
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「えーと、、、いいんですか?こんな店なんて貰って……」
「構わないわよ。チカラ君だったら絶対にその技術を世界に広めて元気にさせられる」
場面が変わって、今は孤児院の二階にあるリビングに居た。僕は古めかしいソファーにピシッと座りながら孤児院のサーラさんと話をしていた。サーラさんとは先ほどまで病弱な子供を交え対話していた相手のことだ。
話を戻すがサーラさんから千香良に対して提示する内容は、『生活を安定させるために店舗を貸してくれる』といった物であった。行く当ては無かったのでこの上なくありがたいお話であった。
かと言ってここまで優遇されてしまうと流石に気味悪く感じてしまうのも事実。千香良はただ自己満足の為だけに薬を作った。前世で自身が無力なためショーンを死なせたことを悔いている偽善者だ。それなのに意識が覚めた時からここまで快く歓迎してもらっている。もちろんそんな心構えであるから、物品のお礼を全て断っておいた。対価なんて必要ない。
そんな事を考えながらオドオドしていると、緊張していると勘違いしたのかサーラさんは顔を綻ばし首を傾げてニコッと笑って見せた。クリーム色のポニーテールが揺れる。そして、心の内を吐くように優しく語り掛ける。
「この街での【薬師】は誰もが国の機関から支援を受けて成り立っているの。だからね、一人の幸せより全体の幸せを優先する。その結果、私たちのような貧困層は簡単に見捨てられてしまうの」
続けて口を開く
「でも、チカラ君はまた違う。欲も無くて人を救いたいという意志だけで【薬師】を担っている。だから国ではなく孤児院を後ろ盾にすればもっとチカラ君の”想い”を伸び伸びと発揮できると思っているの。これが私の本音よ」
簡潔に言えば弱者を救う【薬師】が欲しい。だから孤児院、そしてサーラさんは千香良に店を提供したい。この意をくみ取ってから、千香良には判断を躊躇する理由は在りもしない。
「――僕は、孤児院の支援を受けながら【薬師】を全うしたいです」
「ありがとう!」
先も見えない日常に一筋の光が差し込んだ。
そして待ってましたと言わんばかりにサーラさんは勢いよく千香良に握手をした。水仕事で冷たくなった手だが、何故か温かくも感じた。優しさの在処に気付いて、千香良は安心した。
「あと、アシスタントもつけないと。孤児院に今年入ってきた子が丁度手が余ってるからその子に頼んでくるわね」
だんだんと現実感が増してくる開業に安心感から一転して不安感が漂ってきた。
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