第4話1803日目 ギルドのE級ダンジョン実習2

 あくまでも指示役と割り切っているギルバートは「狼の牙」の後衛に位置し、ダンク達はいつもの陣形で30階のゴブリンジェネラルがいるフロアに侵入した。ちなみにこの30階の下に続く階段はゴブリンジェネラルがいるフロアの奥にあり、このフロアのボスであるゴブリンジェネラルを倒さない限りは30階の転移陣も本来は使えないものだった。その為、今回ダンジョン実習に関しても、本来であれば転移が可能なのは29階では無く、20階からの攻略になるので筋であった。


 ゴブリンジェネラルはフロアにダンク達が侵入してくるや否や、すぐに短い叫び声を上げると、配下のゴブリン達が10匹以上現れ、ダンク達を取り囲む。前回の対戦時ではこの段階で慌ててしまっていたダンク達だが、前回を踏まえた上で今回はギルバートのアドバイスもあり、戦略の優先順位が明確になっていた為、まずは粛々とゴブリンたちを倒していく。 

 

 その間にも指示を出そうとするゴブリンジェネラルには、ラックとトッドの男性コンビが交互にターゲットをとる事で、攻撃をあえて彼等にさせる事で、配下のゴブリン達に指示を出させないようにしていた。ギルバートはあくまでも戦況を見つめるのに終始し、時折隙が出そうな所に声をかける事で、「狼の牙」の面々の負担を軽減させて冷静に戦局を進めていた。順調にゴブリンを倒しきったダンク達にギルバートは指示を出す。


「今です。次に配下を呼ぶまでに5分あります。ここでなるべく体力を削りきりましょう!!」

「応!!」

 

 それまでのリズムから一変して怒涛どとうの勢いで襲い掛かるダンク達の勢いにゴブリンジェネラルは鬱陶うっとうしそうにはしていたが余裕をもって対応していた筈がどんどん追い込まれていった。本体だけではD級にも及びかねない「狼の牙」の攻勢に対応できなかったのである。


 そしてきっちり5分後にようやく配下達を叫び声で召喚する時には、ゴブリンジェネラルは少なくない傷を負った状況で体を休ませようと後方に下がっていった。この時を見逃すほど甘くないギルバートはダンクに声をかける。

 

「ダンクさん、今ならあなた一人でゴブリンジェネラルと打ち合える筈です。他の4人にゴブリン達は任せて、ターゲットを取ってもらってもいいですか?」

「ギルバートさん、あんたが言うならやるしかないな。任せろよ!」

「お願いします」


 ほぼ無傷でここまでゴブリンジェネラルとの戦闘をやってこれたのが、誰のおかげか身にみて分かっていたダンクは1人でフロアボスに追撃をかけにいった。本来であれば、このタイミングで体力を回復する予定だったフロアボスの体力はタンク1人とはいえ、手傷を負った状態ではうまく対処する事は出来ずに少しづつ攻撃を食らってしまい、ほぼ回復する事が出来なかった。


 それからこのパターンを4回繰り返した時には、ついにゴブリンジェネラルは崩れ落ち、息絶えた。5人は息を切らしながらもあくまでも疲労があるだけで、ほぼ無傷のまま倒してしまえた事に達成感よりも、驚きを前面に出しながらギルバートを見た。ギルバートはそんな少し呆けた様子の5人を笑顔と拍手で讃えた。


「おめでとうございます。無事にゴブリンジェネラルを討伐できましたね。ほぼほぼ予定通りに安定して皆さん役割を果たしてらっしゃったと思いますよ」

「ありがとうよ、ギルバートさん!!あんたのおかげで無事に倒せたよ!!」

「いえいえ、皆さんにはゴブリンジェネラルを倒すだけの実力があって、それを今回うまく引き出せただけですよ」


 笑顔でギルバートはそう言うと、ゴブリンジェネラル達の素材や魔石を取るように促す。一般的にはフロアボスがいる10階ごとには宝箱が出る為、素早く素材類を集めた5人は辺りを見回し、宝箱に罠が無いか入念に確認してから開けた。そこにはちゃんとした金貨だけでなく、ガラス瓶に入った液体や何かの草花が入っていた。明らかな武器や防具類が無かった事に、少し残念がる表情を浮かべながらも彼らは楽しそうにしていた。そんな歓喜と興奮が支配する雰囲気が一段落するのを見計らってから、ギルバートはパンパンと手を叩く。


「はい、では皆さん。お楽しみは一端ここまでにして、転移陣の部屋で反省会をしましょう」


 5人はそのまま素材類をまとめて持ってきた袋に入れて、隣の部屋へと移動する。部屋の中ではまずは全体を見ていたギルバートから総評があり、その後に個々の動き方、コンビネーションについても本人達が思っていたよりも細かく修正点を上げていった。「狼の牙」からすればゴブリンジェネラルを倒した満足感を上回るだけの伸びしろを提示されたようで、自然と自信が沸いてきていた。その後、個々人の動き方とコンビネーションのチェックをした後で、5人にギルバートは声をかける。


「では今度は僕抜きでもう一戦いきましょう。先ほどの修正が出来れば皆さん余裕を持ってゴブリンジェネラルくらい討伐出来ますよ」

「「「「はい!!」」」」

「では、移動を…っと、先客かな?」


 ダンジョン攻略ではよくある事だが、2つのパーティーが同じフロアに来た場合、先にそのフロアに来た側が優先的に戦いを挑む権利が与えられる。今回「狼の牙」が転移部屋で話し合いをしている最中に、別のパーティーがゴブリンジェネラルのフロアに入ってしまったため、彼らが攻略するか、またはそのパーティーがやられた後でしか入れない状況だった。まだゴブリンジェネラルがリポップするには早いものの、別のパーティーはそのフロアに待機しており、間違いなくゴブリンジェネラルの討伐目的と分かった為、ギルバートは少し考えた後に解決策を「狼の牙」に示す。


「しょうがないですね…。ではこれから「狼の牙」の皆さんには少しだけ僕の秘密をお見せしますが、他言しようとするとそれなりの制約が与えられる事になりますが、よろしいですか?」

「ギルバートさん、あんた急に何を言ってるだ?」

「いえ、早々にゴブリンジェネラルの討伐に慣れてもらいたいのは、僕のエゴなので口止め程度の制約になりますから」


 先ほどまでと変わらないテンションで、話すギルバートに少し怖さを覚えるも冒険者らしく頷く「狼の牙」の5人。


「分かりました。ではこれからゴブリンジェネラルの討伐を何度かやっていきましょう」


 ギルバートは朝と同じように右手を壁に向けて前に伸ばす。するとさっきまで間違いなく壁だった所に通路が出来、その先にはゴブリンジェネラルが待ち構えるフロアが見えていた。「狼の牙」の面々は驚き、ギルバートを見るも「さっき言ってた修正点を忘れないで下さいね」と軽い一言で、落ち着かない5人をゴブリンジェネラルが待つフロアに送り出した。


 彼らとしてはそのギルバートの軽さで、逆に冷静になれた為、落ち着いてゴブリンジェネラルに挑んでいった。初戦とはギルバートの指示がないだけの違いがあるものの、先ほどの話し合いで自分らの修正点が分かっていたため、2回目は多少のミスがあったが3回目からは初戦以上に完封してゴブリンジェネラルを倒した。その後も30分も間を置く事も無く何故かゴブリンジェネラルがリポップする謎の部屋で5回ほど討伐の周回を終えると彼らを嬉しそうにギルバートが出迎えた。


「うん、3戦目以降は完璧じゃないですか?これなら安心して30階以降も行けそうですね。31階からはゴブリンジェネラルも普通にフロアに出てきますからね」

「ギルバートさんのおかげで、だいぶ自信がついたよ。ありがとうな」

「いえいえ、皆さんのお力になれたらな良かったです。では、他に何かなければ地上に戻りますが、よろしいですか?」

「ああ、ギルバートさん。良ければでいいんだが、C級冒険者であるあんたならどうやってあいつを倒すのか見せてもらえないだろうか?」

「私がですか?あまりソロの戦い方は参考にならないと思いますが…」

「いや、ただC級のあんたならどうするか見たいだけなんだ」

「分かりました。少しだけ上のランクの冒険者がどんな感じで対応するか知っておくのは大事な事ですからね。お見せしましょう」


 そう言って何事もないようにギルバートは部屋へと向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る