旧首都カースス

「荒れているな。」


「はい、もう数百年、誰も訪れていません。私も今まで来たのは数回のみです。」


 ハウスとイスネは旧首都カーススに来ていた。物件の下見である。

 イスネも当時の魔王がいた頃に何度も訪れていたので、場所を覚えていたが、繁栄を極めていた昔とは真逆に様変わりしていた。

 建物は限界を留めているものは少なく、殆どの建物は遺跡にと化していた。

 生き物の気配をしないこの土地は何らかの力で生物を拒んでいる様に見えていた。


「勇者達に封印された魔王ルシファー様の呪いによってこの地は大抵の生き物が住む事が出来なくています。」


「だろうな。あの人の力は強欲だからな。それにしてもこれは呪いより暴走だな。」


 土地の状態を見たイスネはハウスが言っている呪いではないと判断した。

 この状態は正常に機能していた土地に対して使われていた力がルシファーの封印によって力にエラーが生じてしまったものだと思った。


「この首都が栄えていたのは豊かな土地だったからだ。活気が動物も、植物も、土地も、道具にまで満ちていた。それはルシファーさんの力によって精気や元気など活気の根源になるパワーを徴収して全てのものに還元していたからだ。それがコントロールにして人が居なくなったんだ。還元できず、重税に設定されて残ったこの現状は死の地になるのは自明の理だろう。」


 ハウスからしたら初耳のことばかりだった。

 自分自身はルシファー封印後に産まれた世代の事もあるが、激しい戦争で当時含めた以前の記録が紛失及び魔王城に残ってしまっている現状で大半が後世の伝説や仮説が飛び交っている状況だった。

 この地もかなりの実力者じゃないと半日も持たずに死ぬと言われている地であり、ハウスですら通常日帰り、最大一泊2日が限界だった。


「流石、ルシファー様と同じ時代を生きた堕天使です。私達程度の知識とは次元が違いますね。」


「俺の知識なんてトゥムに比べたら無知蒙昧も良いところだ。」


「それは相手が悪すぎるでしょう。メントゥム様は全知と言われている方です。あの方の前で全ての生き物が愚かになってしまいます。」


 メントゥムはイスネと一緒に堕ちた天使の一人であり、引き篭もって実験ばかりしている堕天使だった。


「アイツらの職場もあそこにあるんだろう。」


「はい、そうされています。」


 イスネに聞かれたハウスだったが、魔王城内部の事までは詳しく知っていなかった。

 魔王城はカーススの中心にあり、中心に近づく程徴収率が増大する為、ハウスは魔王城に入った事がなかった。


「イスネ様の部屋もあると言われています。」


「そうなのか?要らないと言っていたんだがな。」


 イスネは昔を懐かしむ様に魔王城を見ていた。

 退職してからずっと復帰を勧めてきては断ってきたのに相変わらずのルシファー上司に呆れていた。


「それじゃあ、此処からは俺一人で行くから。1週間ほどしたらまた来てくれ。」


「承知しました。」


 イスネは内見を開始した。

 中心部までくまなく見るにはハウスは邪魔な為、ハウスがまとめた資料だけ貰って後、自分一人で見る手筈になっていた。

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