第28話

 次の日、私たちは予定通り、まず昨日調査した神殿から一番近い神殿へ向かう。

 イワンさん前回の調査によると、残りの神殿は基本山道に沿って存在しているが、大体道から離れたところにある。一日の移動距離を考えると、全部見終わるまで多分五日間掛かる。一応一週間分の食料は持ってきたし、山で色々調達もできるから、数日山にこもっても大丈夫そうだ。途中で魔物出なければ。


 また、昨日イワンさんが自分の名誉で誓うまで、以前は神殿で変わった文字を見たことないを言い張ることにずっと引っかかってる。別にイワンさんを疑っているわけではないが、やはりあの古語の文字は案外目立つだから、見えてないってことは、十中八九赤目王家の人ー姫様ーに関係がある。でも、どう証明すればいいかな。


 道中私はずっとこのことを考えている。

 姫様が居なければ、古語の文字が見えないそう。なら、姫様が居ない時私たちが先に神殿を確認して、姫様と合流した後何か変わったかを探せば万事解決だ。とても簡単なこと。

 でも、今回の真の目的を知っているのは姫様と私だけだ。理由なく他の人を先に神殿に行かせるのはできない。そして、私は姫様の護衛で来ているので、彼女を後にして先にどっかに行ってしまうなんで、護衛失格だ。セシルたちは信頼できる人だけど、私自分自身で彼女を守らないと安心できない。


「何を考えている?ずっと黙って」


 聞きなれている声が耳元でささやく。最近彼女はたまにこういう至近距離で息を吹きながら耳打ちをする。

 息が耳に掠って、すこし痒く感じる。思わず手で耳を触った。

 声の主が離れたとわかったら、私は顔を彼女の方に向ける。好奇でもなく、心配でもなく、ただ普通に平然とした顔で私を見ている。


「あの古語のことです」

「気になる?」

「はい、イワンさんは前回みたことないとおっしゃいましたので」


 大人しく姫様に昨日私とイワンさんのやりとりとさっきまでずっと考えていることを告げた。他の隊員に申し訳ないけど、一応隊員たちが聞こえないくらい声を小さくした。真横にいるシムスは私と姫様のことを気にしていないような様子だし、多分聞こえていない。


「まぁ、まずは深く考えず、私よりみんなが先に見ればいいと思うよ」

「それもいいですね」


 確かに姫様の言う通りだ。変わるかどうか、変わるだとしても条件とかも判明していないので、とりあえず一番実現しやすい方法でみてみるのはあり。神殿もあと数個あるし、なんなら戻って一番目から見直すのもできる。

 そう決めたら、私は面倒くさいことを脳から追い出して、別のことに精力を振る。


 さすがに間の距離が一番近いということがあって、昼ちょっとすぎくらいで二番目の神殿に着く。姫様の意見を組んで、みんなが神殿近くで荷物を置く時、私は荷物を背負いながらまず神殿外回りを確認することにした。



 一番目のと同じ開放式で、神殿ほどと言える大きさではない。同じ穹窿式の天井だが、神殿ごとに違いを出したいか、所々微妙に装飾が異なる。そして昨日外壁で文字を確認した高さの壁と回りを見ると、古語らしき文字は見当たらない。確認範囲を外壁全高さにして、一週回っても、やはりない。

 外にないけど、内壁にいっぱいあるかもしれないと思い、すぐたいまつを作って神殿の中に入った。たいまつの光で壁を細々と確認をしたけど、外壁と同じ結果になった。


 これは、姫様に登場して貰う必要が出てきた。彼女がいるかいないかは前回との違いだから。

 神殿から出て、たいまつを正面の地面に挿したら、私はみんながいる場所へ向かう。この神殿の真正面は斜めになって、平地があんまりないため、荷物置き場兼集合場所はちょっと手前にある平のところにしている。

 集合場所に戻った時、丁度姫様は一人で水を飲んでいたので、すぐ彼女の傍に行く。


「古語とかありませんでした」

 小声で姫様に調査結果を報告する。そうすると、彼女の目が突然光って、ワクワクとした感じが顔に出る。


「私の出番だね!」

「あっ、はい」


 魔物の仕掛けにつながりそうだから、彼女がちょっと興奮したかもしれない。

 昔の記録は残されておらず、調査を繰り返しても手掛りがみつからない状況は、彼女の登場によって打開される未来が見え始める。

 姫様にとっても、この国にとってもいいはずだが、私はどうしても彼女のようにワクワクなれない。モヤモヤとした、はっきりと説明できない複雑な心境。でも、私としては姫様より優先する人もこともないので、彼女が嬉しいであれば正直他はどうでもいい。彼女を危険に晒したくなければ、私はいつも通り常に最悪の状況を想定して対処すればいい。


 水を飲み終わった姫様は水袋を荷物ら辺に置き、私に「早く行こう」と催促する。はいはいと返事しながら、私は彼女と一緒に神殿に向かって移動する。

 姫様が近づくに伴って何か変化があるかを、常にレームリッシュで確認するようにした。壁の文字さすがに無理だけど、回りに何か変のことがあるかくらいはすぐ分かる。


「ないですね」

 姫様と神殿の外に立て、壁を確認した。さっきと何も変わりがない。


 でもきっとまだ何かがあるはず。前回姫様は他に違うことをやったのか、一生懸命に頭で回想する。どんな繊細なことでもいいから、手掛りになりそうなことが欲しい。ふっと彼女がやったあることを思い出す。


「姫様、壁を触ってみてください」

「こう…なのか?」


 姫様は戸惑いながらも、私の言う通りに外壁を触ってみた。昨日彼女は神殿についたら、すぐ壁を指でなぞりながら回ったから。

 彼女の指が壁に触れたところも、昨日みたいに何か文字が浮かぶことはなかった。

 行き詰まった。


「やはりただ私の考えすぎです」

「そんな顔しないて、また探せばいいよ」


 自分今はどんな顔しているかわからないけど、姫様の言葉から察せば、多分ちょっとしょんぼりしているかも。早速手掛りが出るかと思ったら、世の中はやっぱ甘くないと再認識した。


「ありがとうございます。とりあえず姫様は念のため中もご確認ください」

「うん、わかった」

 元気な声を残してくれて、姫様は神殿に入る。


「やっぱないじゃないですか」

 姫様が中に入ると共に、隣の人はイワンさんに変わった。彼昨日が言ったことが本当だと、ちょっと嫌味のある声で私に話を掛ける。

「疑ってすみませんでした」

 素直に自分の過ちを認め、頭を下げてイワンさんに謝る。



「もういいです。ここはないってことは、昨日のやつは誰かが新しく作りましたよね」

「そう考えてもおかしくないですね」

「ジュンさんって、まだ私を疑っていますか?そんなに人を信じたくないなら証拠を出してください」

「いや、私はそういうつもりではないです…」



 私の言葉はどうやらイワンさんを不快にさせたようで、彼は私に問い詰める。

 昨日見た物は結構古いので、心の中は確かにまだ納得していない。この気持ちを表に出さないように普通にイワンさんの話を同意したつもりだけど、私が隠し切れなかったのか、彼はただ私に因縁をつけたいのか、どっちにしても、彼の反感を買ってしまった。

 ここ数日彼は隊長としての権威が色々挑戦されていたから、不満を蓄積してもおかしくないと思って、できるだけことを小さくおさめるように全部自分の非にして、再度頭を下げる。


「こむすが」

 こんな露骨に嫌われて、蔑むような言葉を聞くのは久しぶりだ。まぁ、言われても気にしない人間なので、適当に聞き流す。

 イワンさんが離れて、私は謝る姿勢から立ち姿勢に戻る時、視線の隅に神殿の壁が入り、何かの符号があることを気づいた。

 すぐさま外壁を再確認すると、やはりさっきまでなかったの文字が現れている。しかも、形は一番目のと結構違うな気がする。


「あぁ!!!」

 思わず大声を出す。


「ジュン!!!」

 一番最初に私の大声に反応したのは、まさか神殿の中にいる姫様。


 彼女はすごい速度で神殿の中から走って来て、両手で私の肩を掴み、恐怖まみれの顔で私を見る。私の名前を呼ぶ声もすごい震えている。

 こんな姫様を見るのは初めてだ。怖い物知らずの彼女をこれまで恐怖の気分にさせたなんで、神殿の中にきっと何かがある。


「中に何があったのですか?」

「どこか痛む?気持ち悪くない?息ちゃんとできる?辛くない?」


 私の質問に回答せず、姫様は逆に沢山私の健康状態を心配するような質問を投げてくる。

 私たちの声を聞いて、みんなが回りに集まって来て、心配そうに私たちの様子を見ている。

 肩が痛いほどさらに強く掴まれ、そして肩から腕に下がって行く、その手の冷たさは服越しでも感じられる。姫様は顔を上げて私の様子を確認する時、彼女の瞳孔は大きく開くことも見えた。極度の緊張と恐怖からの慌てぶりは本当に彼女らしくない。

 なんで私を心配するのは後にして、今はとりあえず彼女を落ち着かせないと。


「私は大丈夫ですよ。超が付くほどの健康体です」


 元気な声で返事する。

 力は私の方が断然上だから、腕を掴んでいる彼女の手を握って、剝がす。そして昔私がされたのように、優しくゆっくりと彼女の背中をさする。

 普段の私なら絶対このようなことはしない。ただ、今の姫様の様子はあんまりにもひどい。


 ちょっとだけ時間を経つと、姫様は状況を理解して普通に戻った。

「ごめん、ジュンが大声出したので、変に取り乱した」

 彼女は謝りながら、私と距離を取る。


「なるほど、こちらこそすみませんでした。壁に例の文字が現れましたので、思わず」

「中の壁も出たよ」

 内外共に出たのは、大きな突破だ。


「姫様は何をしたのですか?」

「何も?壁を触っただけ」

「それもまた変ですね。でも、一歩前進した気がします」

「そうね。次のところでまた試してみよう」

「わかりました」


 姫様をあんなに怖がらせた本当の理由はきっと別にある。私を心配させてたくないから、彼女は嘘を付いた。

 本当はとても心配だけど、とても知りたいけど、深追いするとまた彼女をあの顔にさせてしまいそうなので、私は自分の疑問を心にしまっておいた。

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