第27話

「昔の文字ですか?」

「うん」


 姫様は彼女の隣に行くように、私に手を振る。たいまつを持って、神殿の中のものにぶつからないように姫様に近づく。


「全部読めるわけではないが、ほら、ここ書いているのは『めがみ』」


 彼女が手で指す符号のところを見る。今の文字の形と大分違うけど、姫様の説明を聞いたら三つの音から構成される単語だと見えてくる。光を今姫様といる側の壁にまんべんなく照らしてみると、文字がある箇所は女神像の台座と同じ高さのところだけある。


 念のため、他の壁はどうなっているかを確認したら、女神像の裏側の壁にはなくて、向かい側の壁はやはり台座高さのところに文字があった。

 姫様も全部読めないだけど、意味がわかる一部の文字から推測すると、この古語で書いた句は女神を謳歌をする物。他のことは書いてなさそう。


「これはワイズマン様に見せたら、きっと解読してくれます」


 古語といえば、姫様古語の先生である司書ワイズマン様の顔が頭を過ぎる。姫様が読めないところはもしかすると別の情報が込めているかもしれないから、全部メモして王都に持ち帰ってワイズマン様に解読して貰うのは上策。


「そうだね。先生なら」

 姫様も頷く。


「ではここと外壁に書いている物は全部メモします。私はメモ用の物持ってきますので、姫様は他にあるかを確認してください」

 たいまつを姫様に渡し、私は神殿から出る。

 荷物を置く場所に行って、セシルと一緒にメモ道具をカバンから取り出す。王都に状況報告のため持ってきた物はまさかこんなところで役に立つとはな。


 セシルに筆記用具1セットを姫様に渡すようにして、私は外壁にある文字をメモする。

 文字と言われても、私から見ればただの符号、文字書く感覚では書けない。幸い外壁にある文字は数個しかないので、絵を描く感じで、文字を一つずつ紙に模写する。風化でちょっと欠損しているし、正しく描けているか正直自信はない。あとで姫様に再確認して貰う方がいい。


「おかしいな、前回みると時こんな変な文字は絶対ないはずだ」


 傍からイワンさんの独り言が聞こえてくる。その口調から聞くと、嘘をついてないようだ。

 でもこの古語が分かる人以外誰も読めない古い文字なんで、突然壁に表すわけがないし、前回調査から今日まで誰かが新しく彫って色を塗るわけもない。


「本当に前回は見なかったですか?」

「俺の名誉で誓ってもいい」

「隊長…違う、ジュンさん、イワンさんは嘘を付くような人間ではありません」


 私とイワンさんの隣にシムスはが来て、私にこう告げる。

 シムスがこのようにイワンさんを言うのは初めて聞いた。この二人はいつからそんなにお互いを信頼している仲間になったのか?そもそも旅の中で会話すら少ないはず。疑問が解決しないまま、疑問がまた増える。

 今はシムスとイワンさんの関係を深追いする必要がない。あとでシムスに聞くとする。


「わかりました。シムスさんがこう言うなら」

 紙に文字を描いたら、筆記道具を片付いて、カバンに戻すようにシムスに渡す。私は紙を持って、また姫様のところへ向かう。

 セシルが隣で光を照らして、姫様は壁にある文字を一つずつ紙に書き写す。外壁にあるものより量が多いが、さすがに古語を勉強したことがある人、私が入った時彼女はほぼ書き終わった。


「姫様、後で私が書き写した分の再確認をお願いします」

「わかった」


 手元の紙を姫様の紙と交換して、彼女が書いた物をさらりと見る。内容こそ読めないけど、いくつか同じ形の文字があることくらいはわかる。

 姫様は私が書いた紙を持って、神殿から出て、外壁にある文字と比較する。

 ほんの少し後、外から姫様が確認終了と伝える声が聞こえてくる。

 セシルと前後に神殿から出ると、姫様が正面で紙を巻いているところを見かける。手元の紙を彼女に渡す。


「一緒に巻いた方がいいと思います」

「あっ、そうだね」


 姫様が先に巻いた紙をまた展開して、私が渡した紙を重ねて、改めて巻くようにする。最後は紐で結んで、一番外に印を付けたら、姫様が持つカバンの中に入れる。

 すべて終わってから、姫様はまた神殿の前で一礼をする。私たちも彼女の後で、女神像に一礼をし、祈りを捧げる。


「この神殿の調査が終わりだね?他に何か発見ある?」

「今のところはありません」

 念のためもう一回レームリッシュを発動させ、神殿の回りを確認する。


「クリスティーナ様、このような神殿は、他にあと五か所あります」

「結構多いね」


 姫様は数を聞いたら、思わず嘆く。

 いくら信仰の山とは言え、この山だけで六つの神殿があるのは、確かに多いな気がする。しかも全部この神殿に似たような物ばっかり。一体誰がグラウべ山でこんなにも神殿を立てたのか。


 一応前回イワンさんたちの調査で発見できなかったことを発見できたので、他の五つも再度調査する時入念に確認しないといけない。

 そもそも、陛下の話によると、先王とそれより前の王たちも多分部隊を派遣して同じ調査したなので、古語文字のことに気づけばどこかに記録は残るはず。それが、ない。以前ルートヴィヒ様の教えからも、そのようなことを聞いたことがない。


 もしかして、この神殿たちも魔物の仕掛けに関係があって、姫様が来ることによって、今までと違う物が出るようになるとか、自然とこのように推測してしまう。ほんのすこし不安になる。

 まぁ、それは他の神殿を調査すれば、いずれ分かるようになる。


 筆記道具を取り出す時一緒に出したグラウべ山の地図を開き、イワンさんを呼ぶ。

「イワンさん、この神殿は概ねここら辺ですよね?」

 昨日泊まる山小屋の位置はすでに印を付けたので、今日歩いた距離と山道の方向を考慮して、今いる場所を指す。


 イワンさんは自分の地図を出して、右手の親指と中指を使って地図で距離を測りながら、私が自分の地図で指す場所が彼が持っている前回調査した時の場所と同じかを確認する。前回の地図もあったから、すぐ分かるだろうと思われがちだが、実際私が持っている地図は新しく制作されたもの。イワンさんの旧地図と異なって、色々と細部が付け加えされている。


 今回の旅でもっと詳細化させるというついての任務をルートヴィヒ様から依頼されている。私は移動しながら、足で距離を測って、目印になるようなものの位置を細々と記録している。将来のことを考えれば、ちょっと面倒くさいだけど、大変有意義な任務だと思う。


「前回記録した場所から少しずれているけど、今回の方があっていると思います」

「了解しました」


 イワンさんの確認は思ったより時間が掛かった。彼の距離基準はわからないけど、彼も私も同じ場所を言うなら、多分大丈夫。

 確認も終わったし、私は地図を折り畳んで、身につけているもう一個小さいカバンの中にしまう。


「昨日も思ったけど、ジュンさんの距離に対する感覚は結構精確ですね」

 珍しくイワンさんから褒めるような言葉を貰って、ちょっと驚く。


「そうなんですか?」

「前回調査隊数人の体感距離から平均して得た結果と、君一人で測った距離とほぼ同じですから」


 距離感覚は人それぞれだけど、毎回移動する時自分の歩幅、歩く速度を把握すれば、割と精確な距離がわかると思う。今回は位置をきちんと記録したい意図もあるから、私はいつもよりそれを意識して歩いている。


「ジュンさんは昔から得意ですよね。魔物との距離とかすぐわかりますし」

 隣で私とイワンさんのやりとりをずっと見ているセシルは突然割り込んでくる。


 魔物との距離がわかるのは今が言う距離を測るとちょっと違う、それはレームリッシュによる物。でもこの探知能力をセシルたちに明かしていないので、説明ができない。いい方向に誤解されたままはむしろ好都合だから、敢えて訂正しない。


「私の話はさておき。もう暗くなりましたし、今日はもう野営しましょう」

 木々が日を遮って、どれくらい沈んだかはわからないが、回りは暗くなって、セシル手元のたいまつの光はさっきより明るく感じる。今日ここまで来る道のりは思ったより険しいせいで、みんなの疲れが顔にも出ている。イワンさんはみんなの様子をみたら、私の意見に賛同する。


 神殿からちょっとだけ離れたところで、カルバンとセシルは野営用の物をカバンから取り出し、支度し始める。姫様、シムスと私は焚き火用の枝を収集する。

 木から比較的に細い枝を折りながら、隣にいる姫様に明日の予定を伝える。


「明日はここから一番近い神殿を調査しましょう」

「了解」


 姫様の返事はいつもよりすこし元気はなかった。やはり今日は疲れたと思うので、これ以上の体力労働は彼女にさせない方がいい。

 ぽきっといくつかの枝を折って地面に置く。


「私が持ちますので、姫様はもう休んでください」


 姫様手元に集まった枝に手を伸ばす。彼女から一瞬驚いたような表情をしたが、反抗せず「うん」と軽く頷いて、私に手元の物を取らせる。その後、私はたくさんの枝を抱えて、姫様と一緒にみんなのところに戻って野営の準備をし、夜を過ごした。


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