第七話 私は子犬の「ライバル」だそうだ
第21話
変更後の行程通り、四日目私たちはウルムから離れグラウべ山へ向けて出発する。三日ほどの休憩を貰ったから、みんなの顔から疲れが抜けたように見える。
イワンさんの事前情報によると、グラウべ山の真下に小さいな村がある。
グラウべ山にちゃんと整備した登山路はあるが、馬車移動はさすがに無理になる。馬も一部のところまでしか到達できないため、登山と山の中での移動は全部徒歩と決まっている。それでまず村に行って、馬と馬車を村に預けてから山に入る。
ウルムから出てすこし距離を移動したら、その村に着いた。山を背にして、いっぺんの小麦畑が数軒の農家を囲むような形にした村だ。
イワンさんの後ろについて、馬小屋のある農家の前で止まる。
「村長、イワンです!」
イワンさんは馬から降りて、ドアの前で大声で家主を呼ぶ。どうやらここは村長の家だ。
ガチャっとドアが開ける音と共に、頬髭を生やしているがたいのいい強面の中年男性が現れる。服を着ていてもわからる筋肉の形からみると、よく体を鍛えているみたい。
「おおーイワンくん、ようやく来たな!手紙で書いた予定日より大分遅れているけど、どうした?」
「長旅なので、ちょっとウルムで三日間休憩を取りました。ご連絡できず大変すみません」
「そうか、よかった!何もなけりゃいい!」
イワンさんと村長の会話から聞くと、結構前イワンさんは村長宛に私たちがこの村に到着する予定の日にちを伝える手紙を出したよう。彼は私に一言も言ってなかったので、全然知らなかった。まぁ、事前に色々手配してくれたことには感謝する。
イワンさんと村長が話している間、姫様とセシルも馬車から降りて、村長家の前に集まってくる。村長には、イワンさんから私たちを簡単に紹介した。もちろん嘘を交えて、ただちょっと大きい家のお嬢さんが山で遊びたいわがままに付き合わされた的な感じで。
その後、馬車から必要の荷物を降ろし、いくつか背負う用のカバンに詰め込む。馬5匹と馬車本体は村長の家に一旦預かって貰う。そういえば荷物下ろす時で気づいたけど、イワンさんは村長へのお土産も王都から持ってきたみたい。見かけよらず、律儀で思いやりがある人と改めて思う。
「準備もできましたので、我々はそろそろ入山します」
荷物の詰め込みが終わって、馬と馬車も村長に預かったことで、イワンさんは村長に別れを告げる。
「この山に何が面白いのはわからんが、とりあえず楽しんでこい!」
「はい」
「戻ってきたら宴でもやろうぜ!」
「ありがとうございます!」
まだ出発すらしてないのに、村長はもう帰りの宴まで考え出した。気が早いな。でも短い会話からもわかる、村長はとても豪快で気さくな方であること。
「では、またかえ…」
「村長!村長!!」
村長はまだ別れの言葉を話している途中、ちょっと遠くから焦燥と不安を感じる女性の呼び声がした。声の方向を見てみると、30代くらいの女性が小走りで走って来る。私たちの目の前に着くと、息が上がったままで、村長に話を掛ける。
「もう丸一日経ったのに、ミケルはまだ戻ってないの」
「なんだと?!」
女性が村長に話した内容によると、息子のミケルは山で生まれた子犬たちを見に行くため、昨日午前中家から出て山に入った。子犬たちと母犬は山に入ってちょっと距離のある場所にいるので、行く時は午前中、帰りは大体夕食前くらいになるが、昨日は日が暮れても家には帰ってこなかった。
最初は多分暗くなって歩くのが怖いから、山小屋で一晩過ごして、朝になったら家に戻ってくると思ってたが、もうすぐ昼なのに相変わらず息子の姿が現れない。それで心配し始めて、村長に助けを求めて来たところ。
「私一人じゃ探せる範囲が狭いので、村長が何人か呼んでくれて一緒に探せたらと思って…」
不安を隠せない女性は頭を下げ、村長の答えを待つ。
「何人と言っても、今みんなウルムに売り出しに行ってるので、村に残る人は殆どいないな」
今日朝ウルムから出る時、いつもより賑やかと思ったら、半月に一度の自由市場が開催すると宿の人に教えて貰った。ウルム周辺の人達は売りたいものを持って行って、一日限定の露天市場で商売をするちょっとしたイベント。
「うぅ…」
女性も村長の言葉から今人を集まることの難しさを理解したようで、不安から泣きそうな表情に変わる。
「ねぇ、ジュン」
耳元から姫様小さな呼び声がした。
彼女は自分の口元と声を遮るように、片手を私の顔の近くに立ち、こっそりと尋ねる。
「今のジュンなら、移動しながらどれくらいレームリッシュ使える?」
「ずっとだと無理ですが、休憩を挟めばなんとか持つと思います」
「了解。いいよね?」
「はい」
何がいいよねと聞かずとも、姫様が私に確認したいことはわかる。きっとミケルくんの探しに手伝うことに名乗りを上げるだろう。
今の私なら、もう移動しながらでレームリッシュを使えるようになっている。あの中毒事件以降、ある日訓練時突然動きながらでも使えることに気付いた。そしてさらにうっすらと気配の良悪もわかるようになった。
だた、多分頭で処理しないといけないことが多いから、精神と体への負担が大きくなっている。一定時間で維持すると、私が全く動けなくなるくらい疲れてしまう。だから、姫様は私がどれくらい持つかを確認した。
ミケル君を探すには、私のこの謎能力は正にぴったりである。
「イワンさん、私たち丁度山に入るので、ミケル君探しに手伝おう!」
やっぱり。
まぁ、私の能力がなくだって、姫様は絶対に名乗りするし。彼女はこういうのを放っておけない人だから。
「しかし…」
「困っている人がいるのに、手助けしないのは、私の家名に泥を塗ろうとしているのか?」
イワンさんはまだ乗り気ではなく何か反論を言おうとした様子だから、姫様はすこし不快な表情をしながら、威厳のある声でイワンさんに問を掛ける。こんな彼女見るのは結構久しぶり。
いや、こんなところで本当の家名を言ったら色々と面倒なことになるけど、と心の中で彼女をつっこんだ。
「そのようなことは決してありません」
「なら決まりね」
「承知しました」
イワンさんは恐れ恐れと姫様の言葉に答える。いつも威張っているから、こんな彼を見るのは初めてかも。
正直イワンさんはあくまで姫様の護衛任務を優先していて、任務遂行の観点からみると彼は悪くない。ただ、彼は姫様の性格を知らない。姫様が大事にしていることと、誇りと思っていることを意識できなかった。
「村長さん、私たちに手伝わせていただきます」
村長と女性の前まで歩いて、姫様は彼たちにそう告げる。
「それはとても心強いこと!ありがとう、お嬢ちゃん」
「ありがとう…ありがとうございます」
姫様の話を聞いて、村長と女性は共にお辞儀をして、感謝の意を姫様に伝えた。
それと同時に、カルバンは大きい野営用の荷物を背負って、私の隣に来た。カルバンなりにいつでも出発できるの合図だと感じ取った。
実は昔、セシルとカルバンも姫様と一緒に討伐任務に行く時道に迷って危うく魔物に襲われそうになる子供を保護したことがある。セシルとカルバンも、姫様と同じくらいこのようなことを放っておけない。
「では、俺も一緒に行く。パルマ、大体どこら辺かわかる?」
「ミケルは山に入って最初の山小屋の近くだと言ってた」
「なるほど、わかった。その近辺で探してみる」
村長はパルマと呼ばれる女性にミケルくんが居そうな場所を確認して、私たちの元へ合流してくる。ざっくりな場所がわかったので、その近辺でレームリッシュを使えば、すぐ見つかりそう。
「お手を煩わせてすまない。もう昼近くなので、とりあえず出発しよう。俺が案内する」
姫様とイワンさんに向けて、村長はもう一回お辞儀をして、出発の催促をする。
確かにもう昼近くだし、移動の時間を考えると、日が暮れるまでミケルくんを探せる時間実はそう長くない。そろそろ出発しないと。
セシル、イワンさんと私は武器を腰に付け、荷物を背負って、姫様たちと村長と山に入る。
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