第19話
道中は魔物と遭遇せず、所々で休憩を挟んだとはいえ、10日以上の長旅なので、みんな多少疲れが溜まっている。当初の予定を少し変更し、いったんウルムで三日ほど休んで、必須品を補充してから山に入ることになった。
ウルムはグラウべ山ふもとの町。
カルデンほどではないが、一般的な村よりは大分大きく、町全体もちゃんと城壁で囲んでいる。市場の品揃いもよく、他にご飯を食べられる店もある。ベシュヴェーレンの南側がにあるから、北の王都と違って、すっかり春になった。町から眺められる景色も山の麓らしく、緑いっぺんで、とても爽やかな綺麗さ。
11日目のお昼くらいでウルムの町中に着き、まずは宿探しから始まるが、イワンさんは前回の調査任務でこの町で泊まったことあるため、宿もイワンさんのおすすめに決めた。丁度三人部屋が二つあり、部屋分けに困らず済んだ。
部屋はそこまで広くないが、必須品が揃って、清潔感もある。窓からもグラウべ山が見えるから、泊まり心地は良さそう。
イワンさんの指示で、初日は各自荷物を整理して、二日目買い出しに行く時補充すべきものリストを作ってから担当を振り分ける。正直リストなしなら、セシルと姫様がウルムで面白いものばっかり買って、必須品一つや二つ忘れる未来が見える。あの二人、ちょっと適当なところがあるから。
イワンさんこういう計画的なところがとても良い。初対面の印象はあんまりよくないが、旅に出る前の会議でのテキパキさと旅途中で適切な指示から、やはりきちんと仕事をこなせる有能な人と思う。
長旅でようやくウルムに着いて、気が緩めたせいか、みんなはとても疲れた顔をしていた。夜ご飯は宿近くの店で簡単に済ませたら、全員揃ってすぐ部屋に戻って休んだ。久しぶりのベッド、とても気持ちよかった。
翌日朝、宿の1階で朝食をとる時、イワンさんから買い出しの振り分け表が渡された。
セシルとカルバンは野営用の道具と重い物、シムスと姫様は保存の効く食料品、イワンさんと私はまず今後のことを打ち合わせたら、男性陣と女性陣と合流して、私的に買い物を担当する。
昨日は一応小隊としての必要品リスト以外、各自が欲しい物のリストも出している。今回の旅はお金に困らない程度の金銭を持っているが、隊としてはやはり計画的に使いたいので、イワンさん統一に管理するため全体の会計もやっている。
今考えると、イワンさんに仕事やらせすぎではないかと思い始める。
「ジュンさん、山に入ると魔物が出始めるので、小隊の戦闘役割分担を決める必要があります」
「そうですね」
朝食後、姫様たちが買い出しに行ったら、イワンさんと私は朝食で使っていたテーブルに座って、打ち合わせる。
正直、イワンさん以外は全部私の小隊隊員だから、役割分担なんで決める必要はない。セシル、姫様と私がいるし、いつも通りであれば大概な状況が対応できる。
ただ、イワンさんの戦いまだ見たことないから、彼をどこに置くのは決めづらい。本人は攻撃が得意の前衛と自己紹介しているが、私は自分の目でみたいと信じない。何せ姫様と同じ立ち位置にいる人は、何か変な動きして姫様に飛び火したらただじゃすまない。
「俺的に、カルバンを姫様の護衛に、魔物の対処は残りに人がすれば問題ないかと」
なんかさっきの話と違う。役割はどこに行った?私たちの戦いを見たことないのに、臨場の指揮ですべてを解決しようとしているの?
それに、姫様に戦わせないことは絶対彼女から強烈な反発を食らう。イワンさんはまだ知らない、我々の護衛対象はどれだけ強いのか、見るだけのことをどれだけ嫌がっているかを。
「イワンさん以外、姫様含めて全員私の隊員ですので、ここは私に任せていただけますか?」
とりあえず、相談を切り出す。相談と言っても、口調はすこし硬めにして、反論を受け付けない雰囲気を出す。
私の言葉はイワンさんの隊長権威を挑戦したみたく、彼の顔から明らかに不快な表情が浮かび上がっている。そんな顔見せられても、みんなの命が関わっているから、一歩も引く予定はない。
譲らない鋭い視線を送り返す。
「わかった。では、ジュンさんのお手並みを拝見させてください」
言葉からは嫌味を丸出ししている。
決定権を手に入れ、目標達成のところで、嫌われていても別に気にしない。
「ありがとうございます。ほかのことがなければ、私は姫様とシムスを探しに行きます」
打ち合わせの最初はとても普通だったけど、最後の最後はお互いちょっと不愉快な感じになった。長く居ても気まずいので、早くこの場から離れたい。
「了解。俺も出る」
簡潔に打ち合わせを締め、イワンさんと私はそのまま分かれて別行動にする。
姫様とシムスに合流するまでまだ時間があるため、私はウルムでぶらぶらして、軽く散策する。
昨日ウルムに着いてから、宿の回りしか歩いたことがない。初めて来た町、色々見て行くと、とても新鮮で楽しい。
南とはいえ、山の麓だから気温は高くないと思うが、建物は見るからには保温性あんまりに気にしていない。人々の服装も北方面と違って、南特有の柄や色合いが多い。黒基調の服を着て街の中で歩く私はすこし浮いている。
「おや、そこのお姉さん、外から来た人?」
ウルムの街並みを楽しみながら適当に回っていたら、見知らぬ人から声を掛けられた。
声の主を確認したら、アクセサリーを売っている露店のおじさんだった。何か買わされそうだけど、せっかく声掛けてくれたから、一応見ておくと、露店の前に移動する。
「はい、王都から来ました」
店主に答えながら、店で売っている品々をみる。大きくない露店だが、ネックレス、ブレスレット、指輪とピアスなど一通り物が揃っている。デザインもなかなか王都ではみない感じのものばっかり、店主のセンスを感じる。
元々アクセサリーに興味ないけど、15歳誕生日の時姫様から片耳用のピアスを送られてきたから、それ以来はピアスを付けるようにした。実際姫様本人もそんなにアクセサリーに興味あるわけではないのになと思って。
「王都か。通りでしゃれったピアス付けていると思った」
さすがアクセサリー店主、すぐ客の物をチェックする上、ちゃんと品定めもしている。
姫様から貰ったピアスは小さいけど、彼女の象徴であるかりんの花の台座が一つ私があんまり知らない透明な宝石を包むような形になっている。ぱっと見あんまり特徴がないけど、詳しく見て行くと色々とこっているとわかる。
頷いて店主に感謝の意を伝え、また露店に並んでいるものを眺める。すると、南にしては珍しい形のものが目に入った。
「このブレスレットについているのは、かりんの花ですか?」
かりんは涼しい場所を好むので、基本ウルムでは生息しないはず。ここでこんな形のアクセサリーを作るのは、原型の花探すのは大変かも。
かりんの花といえば、姫様の顔が頭に浮かぶ。
「そうそう、ウルムじゃ見ない花だよ」
「手に取ってみてもいいですか?」
「どうぞ」
このブレスレットのデザインも面白い。花は平にして、一つの花びらの両側を細々としたチェインのようなもので繋いで、枝状短い棒を円のパーツをくぐることにブレスレットの止めにしている。個人的に結構好き。
顔に気持ちが出たのか、店主はさらに推してくる。
「姉さんに気に入ったみたいね。かりんの花は好きか?」
「あっ、はい」
「優雅の花言葉もあるし、姉さんにぴったりだね」
それは私ではなくて、彼女にぴったりだと思う。でも、このブレスレットは確かに買いたい品。
「これ買います」
小隊のお金はイワンさん管理だけど、万が一のため、自分はちょっとした私財も持って来ている。ブレスレット買ったくらいで、まだ余裕がある。
「ありがどう!ちなみに、ここの物は全部俺が丹精込めて作った唯一無二の物、刻印だってできる」
「刻印ですか?」
「そうだ。花の裏に好きな文字を刻印できる。みんな大体送りたい人や大切な人の名前を入れるね」
ふっと、彼女の顔がまた私の頭に浮かんで来る。
『大切な人』という響きと彼女の顔が、自然と紐づいてしまう。理由はわかる。彼女は私にとっては何をしても守るべき相手だから、大切に決まっている。だが、その理由以外、自分の中でもわからない何か別の温かい気持ちも混ざっている。
「クリス…」
「クリスだね。了解」
思わず口からいつも言うことを避けている名前の愛称を出した。書き方は一種類しかないので、店主はそれを聞いたらもう道具を手にして作業にかかり始める。
「ちょっ、ちょっと…はぁ…」
店主の速さに負けた。もう手遅れだ。
大人しく諦めて、無力なため息をつきながら、店主テキパキの作業を見つめる。
もっと長くかかると思ったけど、さすがアクセサリーを作った本人、作業自体も想像より大分早く終わった。
店主が刻印した後のブレスレットを小さい布の袋に入れてから私に渡す。
「ありがとうございます」
「もっと客紹介してくれてねー」
店主には言葉を返さず、ただ頷いてから、露店から離れた。
ブレスレットを買ったけど、あの名前を入れたせいで付けるのがとても恥ずかしくなった。もう鞄にしまって、王都に戻ったら部屋に置くしかない。
そう思いながら、姫様とシムスと合流する予定の場所に向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます