第16話

 姫様と同行する人選が決まってから、一度顔合わせをしたいところ、陛下直属部隊の方はすでに別任務の関係で王都から離れた。

 顔合わせは半月ほど遅れてタイミングでようやくできた。


 姫様があの場に居なくてよかったと思うくらい、初対面の印象は正直よろしくなかった。


 名はイワン・コーウェン、24歳、セシルと同じくらいの身長と体型で、陛下直属部隊は約4年所属している。ほかの部隊と共同作戦の経験はなく、今回は初めて騎士団の人と隊を組むとのこと。

 とてもできる人に見えるだが、会ってからはずっと不機嫌な顔をしていた。

 セシル、カルバン、シムスと私の順番で今までの経歴を含めた自己紹介をしたら、さらに軽蔑するような感じが顔に出た。


「騎士団の切り札とも言われているほどの人はこんな若い娘なんで、騎士団の未来が心配だわ」

 と、私を蔑むような発言もした。

 騎士団と近衛隊で仕事するようなってから、たまにこういう人と遭遇する。


 大半の人は隔てなく接してくれ、認めてくれているけど、実力と仕事経験を見ずに、ただ年齢と性別で人を見下すような人は一定数いる。まさか陛下直属部隊にもこのような思想を持つ人もいて、さらにこれからは長い期間で一緒に仕事しないといけないなんで、思っていなかった。

 別に私がどう見られてもかまわない、きちんと護衛と案内人の仕事をこなせてくれればいいので、印象はよくないがそれほど気にはしなかった。


 顔合わせの最後、今回の隊長はグラウべ山の調査経験があり、年も一番上の理由で、イワンさんに決めた。

 ただ、隊長と言っても、結局護衛対象である姫様が最終決定権を持っているから、姫様に振り回されるだけの役割になりそうだ。ちょっとお気の毒の役職だけど、イワンさんはまだ姫様の自由さを味わったことがないから納得して隊長役になってくれた。


『ありがとうございます』と、心の中でイワンさんに感謝の言葉を捧げた。

 その後、イワンさんはすぐその場から去った。

 今は悪天気が多い真冬の中だから、すぐにでも旅へ出るわけではない。次イワンさんと会うのは出発前の会合になりそう。


 時間もあるし、セシルの提案で騎士団員がよく集まる王都の店で飲み会することになった。


 久しぶりに入った店、相変わらず賑やかだ。

 人々が会話する声、酒器がぶつけ合う音、店員元気の挨拶、色んな楽しい音色が店を充満する。その楽しさは自然と体に染み込んでくる。これは多分みんなが飲み会好きな原因かもしれない。

 仕事の疲れ、どこか悶々とした気持ちも、この雰囲気と酒の力ですぐぶっ飛んでしまいそう。

 酒が進み、みんなからもざっくばらんに会話し始めた。


「イワンさんって、本当気色悪いっすね」

 目の前のおつまみを一口食べて、酒を豪快に流し込んでから、セシルは不機嫌そうに言う。

「確かに言い方はすこし不愉快です」

「同意」

 あんまり裏で人のことを評価するようなタイプではないシムスとカルバンも、セシルに賛同する。今日イワンさんの態度はそれほど人に不快感を与えた。


「まぁ、仕事ちゃんとしてくれれば、文句は言いません」

 態度が大きいなら、その態度に見合う働きをする。

 気持ち的には嫌悪だけど、能力は公正に評価してあげる。どうせ仕事仲間だけの関係、別に友達になりたいわけではないし。お互いよく思っていなければ、私的に放っておけばいい。

 こういう人達は自分と似た者同士としか交友関係作られないと思う。


「ジュンさんがそう言うなら、俺も気にしないことに!代わりにちゃんと隊長やっているかを監視しまーす」

 酒のせいか、セシルが空になったビマグアを大きく振り回し、明るさとチャラさはいつもより増している。

 なんでタニアがセシルを好きになったのはちょっとわからない。今のセシルはタニアの理想型と大分程遠い。


 そういえば、付き合うきっかけとか、いつから付き合い始めたのはまだ聞いていない。他人の私生活を詮索する趣味はないが、片方は姉のような人、片方は仲のいい戦友、こればっかりはすごく気になる。


「セシルさんはしゃぎすぎです」

 セシルのビアマグを振り回す動作は隣の人の手で止めた。シムスが私より先にセシルの酒癖に耐えれなくなっている。


「久しぶりだから、いいじゃないですか~!っていうか、この座り方お見合いみたいですね」

 手の動きは止まったが、口走った言葉はシムスの言うまま、はしゃぎすぎた。

 店の机は長方形しかないから、片方はセシルとカルバン、片方はシムスと私が座っている。言われてみれば、確かにお見合いっぽい。

 でも、私はともかく、シムスに対しては大変失礼だと思う。とりあえず口も止めてあげて、謝ってもらわないと。


「セシル、言いす…」

「すみません、私に婚約者が居ます」

 シムスは挙手しながらまさかの衝撃発言。声は至って普通、怒っているようには聞こえない。


 すでに婚約者がいるなんで、初耳だ。隊の転属面接でも言ってないし、個人資料にも書いていなかった。けど、綺麗で気配りもいい彼女のことだ、婚約者が居てもおかしくはない。


「すみません、言い過ぎました」

 セシルはすぐ自分の失言を気付き、真面目にシムスに謝る。こういうところはちゃんとしているから、信頼できる。

 シムスは頭を縦に振って、セシルの失言を許す意思を示す。


「俺もタニアがいるから、こんな軽口を叩くべきじゃなかった」

 さりげなく自分も彼女がいるアピールをする。口調はチャラく聞こえるが、顔は真剣だ。

 4人の中にすでに2人が独り身ではない、もう一人の状況を突然気になる。自分はまさかやってはいけないことをやってしまったのか。


「まさかカルバンも?」

「いいえ、僕は独身です」

 ちょっとほっとした。いや、それもあんまりよくないな気がする。

 私の推薦で、婚約者と彼女から長期間離れないといけないことになる。お二人にはとても申し訳ない気持ちになった。


「セシル、シムスさん、申し訳ないことをしてしまいました。すみません」

「何が?」

「こう…恋人と離れないといけない…」

「大丈夫っす!そんなの気にしないでください。あのクリスティーナ様と一緒に旅できるって、楽しみですから」

「私もそう思っています。だから、隊長は胸を張ってください」

 二人の温かい言葉と笑顔は、眩しく見える。

「ありがとうございます」


「隊長って、意外とそういうところ気にする人ですね」

 今度は言葉数の少ないカルバンから、話掛けて来る。場の雰囲気を緩和したいと思っているだろう。

 私は本当にいい隊員たちに恵まれている。


「私だって普通な人間ですから、当然気にしますよ」

 カルバンの話に乗ってあげて、話題を変える。

 姫様に言われる日からずっときになっていたこと、酒場で聞くのは一番いいと思った。酒の力を借りて、思い切ってセシルに聞く。


「そういえばセシル、いつからタニアと付き合い始めたのですか?私、全く知らなかったです」

「ジュンさん何を言っています?俺話してましたよね?」

 そんなこと、聞いていない。先日セシルとの会話から初対面まで記憶を遡っても、そのような話を思い出せない。

 でもセシルは嘘をついているように見えない。


「えぇ?いつの話?」

「前回クリスティーナ様と一緒にケーテンの討伐任務終わったあと、帰り道で話しましたよ」

 ケーテンは王都近くの村、たまに魔物が出没する。出た時は基本王都の騎士団が討伐しに行く。前回ってもう四か月前くらい。けど、本当にそのような記憶がない。


「全く覚えていません」

「まぁ、あの時ジュンさんずっとクリスティーナ様の方見ていたから、俺の話はうんうんとしか言ってないっすからね。てっきりタニアからもう聞いたと思いました。耳に入ってないのはさすがに想定外っす」


 なんか思い出した。

 あの日の帰り道、臨時に私の小隊に入った別小隊の人がずっと姫様に話を掛けているから、ちょっと気になって様子を見ていた。セシルは隣でずっと話しているのは覚えているが、内容までは…


「本当にすみません」

 大事な話を聞いてないなんで、素直に謝る。


「もう過ぎた話だし、大丈夫っすよ。しかし、ジュンさんがクリスティーナ様回りにいる人に向ける視線、たまに怖いです。ね、カルバン」

「わかります」

 カルバンは頷く。そしてビアマグを口に付け、酒を少しすする。

 視線が怖いって、私そんなに警戒心を剥きだしていないと思うが。


「姫様の護衛ですから」

「それにしても怖すぎです。クリスティーナ様を見ている時はめっちゃ優しいのに。あとクリスティーナ様とのやりとりは、見ていると心が和むっすね」

 セシルは目を閉じて、何かを味わいているような。


 他人の目から見る姫様と私の様子、初めて知った。心を和ませるようなやりとりはあんまりないと思うが、きっと私が姫様に振り回され、彼女に言い勝てないところが面白かっただろう。


「それは、ちょっと見てみたいです」

「シムスさん??」

「隊長は年下なのに、完璧で立派すぎて人間味がないと思っていました。もちろん笑ったりはしていますが、なんというか…」

「それもわかります。僕も昔同じこと思っていました」

 カルバンは再び賛同の意を示す。


 シムスの言葉と一緒に私へ重い一撃をした。ダメージは相当大きい。

 人間味がないという評価は初めて聞いた。自分への評価は基本的に気にしないが、これはさすがに心にくる。

 私は一人の「人間」として「生きろ」としている。

 でもカルバンは過去形と言っていたから、今はそう思っていない。ダメージは少し回復する。


「クリスティーナ様と一緒にいる時ジュンさんをみたらすぐ印象変わりますよ。人間味溢れます」

 セシルは私の落ち込みを見抜いたようで、笑いながらシムスに向かって言う。冗談のような口ぶりだが、私はそれを一種のフォローと思いたい。


 思い返せば、姫様といる時、確かに彼女の一挙手一投足、一顰一笑に、心が動かされている。時に喜ぶ、時に驚く、時に心配、時に呆れる、過去の自分にあんまりない様々な感情を味わう。

 それはセシルが感じた私の人間味なのだろうか。よくわからない。


「それは楽しみです。というか、もっと詳しくです!」

 シムスはセシルの話にすごく興味が湧いて、思わず前のめりの体勢になって、もっと話聞きたいとセシルを急かし始める。

 頑張って止めようとしたが、無駄だった。


 その後はセシルとカルバンから尾ひれを付けられた私の話で盛り上がって、遅くまで飲んでいた。

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