第8話
代々の王しか知らない王家の秘密。
陛下が発した言葉はあんまりにも衝撃すぎた。
王にしか知ってはいけない秘密は、こんな王家以外の人、まして私のような身分が低い人にも話していいだろうか。
「我が国は遷都したことがあると、みんなは知っているだろう」
陛下は数百年前の遷都から話しを切り出す。
数百年前ある、この国は魔物の大量増殖によって、危機に陥った。
その魔物たちは一気に増殖したではなく、数年掛けてじわじわと増えていた。最初は騎士団をあちこちに派遣して、ギリギリまで対処できたが、その後魔物が増えすぎて、民の生活に影響を及ぼすことになった。さらに、旧王都まで魔物の大群が襲い掛かってきた。
国は全力を挙げて魔物と対峙し、のち国の王になり英雄と呼ばれる当時の第一王子ガッラントの指揮と奮闘の末、魔物との総力戦に勝利した。
その戦いで、数多く民の家が、畑が、そして町が破壊された。それだけではなく、魔物たちが攻撃を仕掛ける中心地帯である旧王都の被害が一番酷かった。旧王城はその戦いでほぼ全壊した。当時の王はこのことから、王都を別の場所へ移動すると決めた。
国の中心からかけ離れ、ほとんど魔物の危害を食らってない北の地にした。それが今の王都だ。
旧王都の民も、一緒に新しい王都へ行きたい人なら、王家と一緒に移動するようにした。旧王都に残りたいなら、国からできるだけの材料調達をし、お金も出して、民の家の再建に手助けるようにした。
ここまではほぼみんなが知っているような話。
「この話は、紛れもなく真実であるが、真実でもない」
真実だけど、真実ではない?なにごと?
多分執務室にいる人、みんな私と同じ、陛下の言葉を理解できていない。
「第一王子が王都で戦っていたら、他の王子はどうなっていたか?なぜ魔物たち最後は増え続けなかったか?」
陛下は問う。
その歴史の中に、他の王子や王女は登場していない。
王族たるものは、かの大戦で一緒に戦って何か功績はあるはずだが、何も残されていないのは、確かに変。陛下に言われるまで、気にすることもなかった。
「あの時、第二王子も戦っていた。ほとんどの国民が知らないところで、魔物の災害が酷くなり始める前から。自らの命を落とすまで戦って、魔物を弱め、異常な増殖を封じた」
「父上、そんなことができるのですか?!」
アルフリート様は驚きを隠せない。彼は思わず席から立ち、陛下に向かって大声で質問をした。
そんなことができるのなら、民はもっと安心して生活できるはず、そして騎士団の苦労も半減できるはず。
もし陛下がその方法を知っているなら、なぜ動かずにしたか。かの第二王子は命まで落としたから、危険であることに違いない。
しかし、危険だけなら入念に準備して挑むならできなくはない。きっと何か別の理由がある。
私は浅はかな考えをしながら、続きの話を待つ。
陛下はアルフリート様の質問を直接に回答せず、執務室の窓に身を振り返る。外を眺めながら、口を開く。
「我が国に三か所魔物を発生させる仕掛けがある。どのような仕掛けかはわからないが、ハルモの湖、グラウべ山とレーベンの森にそれぞれある。レーベンの森はバルト国の領土になったから、もう我が国ではないが」
「魔物を発生させる仕掛けですって?」
今度は団長が立ち上がる。
魔物が出るのはここベシュヴェーレン王国と隣のバルト国だけ、範囲が限定されておかしいとは思った。
魔物を発生させる仕掛けがある、それに概ねな場所までわかる。見つけ出して破壊すればいいというシンプルな考えが頭をよぎる。
脳筋生物である団長も、さすがここまで考えたか、あの「俺が潰しに行く!」気満々な姿勢と表情から、やはり今すぐでも破壊しに行きたいみたい。
「場所までわかるのであれば、見つけ出して破壊すればよろしいのではないでしょうか?」
ルートヴィヒ様も、団長と私と同じ思惑だ。でも、口に出した途端、ルートヴィヒ様は何かを思いついたように、補足をする。
「そうか、第二王子様がその仕掛けを見つけ出して何かをされたのことですね。命を掛けても破壊することをしなかったでした。それは破壊は難しいでしょうかね…」
先ほどの第二王子の話を思い出せば、この結論に至るのは当然かもしれない。
そう簡単に破壊できるものなら、とっくに魔物の害から解放されている。
しかし、この国は千年以上も魔物に害されていて、終わりが見えない。
「破壊できなくても、精確な場所が分かれば、何かあった時はすぐに駆けつけて対処できると思った。だから、私の直属部隊から数人を選んで、まずはグラウべ山を調査した」
「さすが陛下、我らが知らないところですでに動き始めましたー」
「何も見つからなかった」
「……何も、ですか?」
「調査隊の人は山中人が到達できそうな場所全部調べたが、生物と魔物以外何もなかった」
陛下の直属部隊、護衛はもちろん、ほか色んなことも対応できる少数精鋭の部隊と聞いた。そこからさらに人を選んで、グラウべ山を隅々まで調べても何もみつからないのは、もう調べようがないを意味するくらい。
仕掛けの精確な場所もわからなければ対処するすべがない。完全に行き止まりだ。
「先王も、先王の前の王たちも、多分私と同じことをした。無駄を繰り返していた」
「そうなりますと、第二王子様はどうやってそれを見つけて、さらに何かをしたのでしょうか?」
「我が国遠い昔の王妃の力で、その仕掛けの魔物発生力を抑えている」
アルフリート様の時と同じ、陛下は直接に回答しようとしなかった。そして、口から唐突に遠い昔の王妃様が登場した。
「魔物発生させる仕掛けだのう、それを抑えるかの王妃様の力だのう、非現実的ことが一遍に来て、俺はもうわけわからない」
「無理もない。先王からこの話聞かされた時、私も信じられなかった」
武器を持って生身で魔物と戦う騎士団員の立場からすれば、今陛下の話はなんかの冗談に聞こえる。
魔物の発生装置を抑える力、それなら魔物も抑えるだろう?あるなら騎士団全員に与えて欲しいわ。
それに、場所が分かっても、そんな王妃様の力でも破壊できないほど強力仕掛け。
あれを仕込んだ人、この国に対し余程恨みがあるでしょう。
「かの王妃様の力は、第二王子がどうやって仕掛けを見つける話に何か関係でもありますか?いきなりすぎて、私は付いていけなくなりました」
ずっと黙って話を聞く王妃様は今二つの話の関連性が気になり、すこし急かすような口調で陛下に尋ねる。
「それは……」
陛下はもう一回姫様を一瞥して、なんか決心したような表情で理由を告げる。
「かの王妃様も、戦死した第二王子も、赤い目だった」
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