第三話 ベシュヴェーレンの秘密

第7話

「失礼いたします」


 陛下の執務室に入った時、王妃様、アルフリート様、姫様だけではなく、ルートヴィヒ様もすでに部屋に集まっていた。

 身分の一番低い私が最後で到着なんで、不敬の極まりだ。すぐ全員に向かって謝罪をする。


「遅くなって、皆様にお待たせてしまい、大変申し訳ございません」

「許す。お前より遅い人もいる」

「お許しいただきありがとうございます」

 ここに居る方以外、まだ誰かが来るみたい。


 しかし王家に宰相様、この国で一番高貴なお方たちの集まりに、私も召集されるって、自分の場違い感がすごい。とりあえず姫様が座っているところへ移動し、後ろに立つことにした。


 姫様が座ったままで私に振り返り、手を振った。私に何かを話したい様子なので、彼女が耳打ちできるくらいの高さまでしゃがんで、耳を傾ける。


「ごめんね、時間間違って伝えちゃった」

 姫様がすごく申し訳ない口ぶりで私に謝る。昨日一緒に夕食を食べる時、彼女がこの時間だと教えてくれたが、どうやら言い間違ったみたい。


「陛下からお赦しもいただいたので、お気になさらず」

 姫様に言葉を返し、私は立ち姿勢に戻る。


 今日陛下が話そうとしてことはなんだろう。てっきり祈神祭の事件のことかと思ったが、このメンツだと、話の内容が見えなくなってきた。


「陛下、まだヴォルフラムを待ちますか?」

 私が入ってから数分経って、最後の方はまだ来ない。時間が惜しいのか、ルートヴィヒ様が陛下に意見を伺う。なるほど、私より遅いのは団長だった。


「あいつのことだ、騎士の訓練で時間忘れただろう」


 さすが陛下、団長のことをわかっている。

 団長直々指導する訓練は厳しくて、よく予定より時間かかってしまう。指導する相手がアルフリート様と姫様だって、例外はない。

 昔姫様と剣術の指導を受けた時も、最初はあんまりの辛さで後半からほぼ動けなくなっても、その日で予定した練習内容が終わらないと帰られない。


「ですがー」

 ルートヴィヒ様が何かを話そうとした途端、ドアが乱暴に開けられる「ドン!!」の音と共に、団長が部屋に入った。


「遅くなりました!」

 豪快に謝ったあと、団長はすぐ着席した。彼の頭にまだ汗が付いている。多分急に時間を気づき、走ってきただろう。


「ヴォルフラム、陛下の前でもう少し丁寧にできないか?」

「すまんすまん。ちょっと時間忘れて急いで来てね」


 怒るとか嫌味とかの感じはなく、ルートヴィヒ様が平然とした口調で隣に座った団長に文句を言いつける。

 このお二人は宰相と騎士団長の関係でたまに言い争いもあるが、昔からの友人でもある。


「人が揃ったな。では、ルートヴィヒ、君が先に話そうか」

 陛下がルートヴィヒ様に話を振る。ルートヴィヒ様は席から立ち、陛下に一礼をしてから机に置いてた紙を手に取って、真剣な表情で喋り始める。


「先日の祈神祭で、王都から突然魔物が現れた事件がありました。ここにいらっしゃる皆様の殆どがその現場に居ましたので、事件のこと今日は省略します。」


 祈神祭で前代未聞の事件が発生して、王家の人の命まで危険を及ぼしかけたのに、ルートヴィヒ様はその日のことは詳しく話すつもりがないみたい。

 ますます話が見えなくなる。

 私が寝込んでいる間調査が進んで、知らない情報いっぱい聞けると期待していたが、どうやら違う。


「王都中心部に魔物現れるのは初めてのことで、まだ詳細を調査していますが、実はー」

 ルートヴィヒ様の眉間にしわが寄せ、そして少し悔しそうな表情に変わった。

 一回歯を噛み締めて、続きを言う。


「祈神祭の数日前、我が国辺境地の町でも、街中に魔物が現れた報告を受けました」

 部屋にいる人の大半がこの言葉に驚き、「なんだと?」の声が上がる。


 それもそうだ。郊外から城壁のある町を攻撃するでもなく、自然豊かな村近辺から現れるでもない。

 王都の事件と同様な、今までの魔物出現条件と合わないパターンが、実は数日前すでに発生した。祈神祭が控えていた中、そのような報告を受けたなら、普通はその異常に注意を払うべき。過剰警備でも、騎士団にその話を通し、警備の要請を出すべきだった。

 いつも慎重ですきがないルートヴィヒ様がそのようなことを失念したなんで、とても信じがたい。


「異常事態だとわかっていますが、駐在の騎士たちが対処してくれましたし、辺境地のことでもあり、王都に影響を及ぼすことはないだろうと思い込みました。私としては、とんでもない失態をしてしまいました。祈神祭が終わった後、騎士団に調査隊の派遣を依頼する予定でした」

 ルートヴィヒ様は深々と頭を下げ、謝罪をする。


「なぜ俺のところに報告来ていない?駐在の騎士が対応したら、その報告は俺のところに来るはずだが?」

 団長が一番納得をしていない。本来は席に深く腰を掛けて座っていたが、今は手を膝あたりに置き、すこし前傾姿勢になっている。


「報告が上がった日、君は王都にいないから、私のところに転送された」

「にしても、俺が王都に戻ってから一言も言わないなんで、感心しないな」

「その節は本当に申し訳ないと思っている」

「俺に謝っても困る。今回はジュンがいたから大事に発展しなかったが、万が一王家に、バルト国の王子様に何があったらお前はどうすんだ?」


 団長はルートヴィヒ様の謝りを全く受け付けず、どんどん責める。団長が話せば話すほど、怒りが増しているように見える。


「もうよい、ヴォルフラム。今日はルートヴィヒを非難するための集まりではない」


 誰にも口を挟めない空気を打破したのは陛下の声だった。

 理は団長にあるが、彼の頭に血が上ったらどうなるか正直わからない。怒りが爆発する前に陛下が割り込んでよかったと思う。

 眉間のしわを伸ばすように何回か手でこすって、陛下は続きを言う。


「この件は祈神祭の翌日ルートヴィヒから報告を受けた。ジュンのおかげで大事に至らなかったし、そもそも辺境の件と王都の件はまだ関連性がみえてない。今回は不問とした。もう異論は受け付けない」

「陛下のご決定なら、承知しました」

 団長は不服そうな顔をしながらも、ルートヴィヒ様への追及を諦める。


「ルートヴィヒ、今回は大目にみるが、二度とこのようなことがないように」

「承知しました。ご容赦いただきありがとうございます」

 ルートヴィヒ様はもう一回深く頭を下げ、陛下にお礼をする。


 団長も陛下の言葉で問題追及から引いたので、ルートヴィヒ様の件はこれで終わり。次は本題のどう調査とどう対応することに入るだと思う。

 でも、こんなことは団長を通せば騎士団が自然と対処することになるが、王家ほぼ全員に出席させる必要はあるだろうか。


「前振りは終わり、ここからが本題だ。私から話そう」

 今度は陛下が本題に入る宣言をする。陛下は執務席から立ち、姫様に一瞥をした。そして、ゆっくりと言い始める。


「これからの話は、我が国代々の王にしか言い伝えられていない王家の秘密だ」

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