第5話
***
「えぇ、ジュンさんもう練習場に来ていいんですか?!」
騎士団練習場に顔を出した途端、練習場から出ようとしている背の高い灰色髪の団員が私を見かけて、驚きを隠せない。
「あぁ、セシルお久しぶりです」
「お久しぶりです」
「軽く運動しに来ただけ。七日もベッドで寝込んでいたので、体が鈍っているです」
目覚めてから十日が過ぎた。
倒れてようやく目覚めた後、意識が回復したとはいえ、毒は完全に抜けていないから医官の命令でまた三日ほどベッドで安静した。
神経を刺激するような痛みを抑えるために、解毒剤と共に鎮痛剤も処方してくれた。時間通り飲めば、日常生活に支障が出ないくらい痛みが緩和される。ついてに、矢に貫通した腕の地味な外傷痛にも効く。
ありがたい。
毒は体から全部抜けるまであとどれくらい掛かるか、医官も言えない。
痛みが完全に引けば終わりの感じとは言った。ここ数日必要の薬量もちょっとずつ減ってたので、もうそろそろではないかと。
国の一大行事で魔物出たり、姫様がどこぞ知らない人に狙われたり、この後何が起きてもおかしくない。こんな状況で何もせず待つのは私には耐えがたい。だから、薬頼りでも早く感覚を取り戻して、仕事に復帰しないと。
幸い、祈神祭の後王都では大きな事件は起きてない。半分は安心できる。
騎士団も団員を軍に派遣して、王都の警備を強化している。街中をいつもより高頻度で巡回するようにして、城門と城壁の衛兵人数も増やしたらしい。
この話は全部タニアから聞いた。
姫様の専属メイドであんまり王城から出ないのに、なぜ街中の動向にこんな詳しいのは疑問だ。軍になんかコネでもあるのか。
そういえば前、彼女は儀仗隊に私を推薦する話も言ってたな。
あれは冗談ではなかったのか…
どうでもいいことを考えながら、騎士団練習場5周くらいゆっくり走った。
体が温まって、素振りしようと、練習場備品である木剣を手に持つ。
木剣って、本物の剣より軽いイメージだが、ここ騎士団の木剣は何か特殊処理が施されか、いい木材を使ったのかわからないが、重さは本物と近い。そのおかげで、感覚狂わずに練習や手合わせができる。
「やっぱここに居るのか!」
まだ十回くらいしか素振りしていないのに、遠くからタニアの声を聞こえた。
「あなたが一人でここに来るなんで、どういう風の吹き回しですか?」
息が上がったままで目の前に来たタニアに、軽口を叩く。
私がおかしいと思うのも無理もない。
タニアは基本的に騎士団の練習場なんかに来ない。姫様が来る時だけ、たまについて来るくらい。
彼女曰く、民と街を魔物から守ってくれる騎士団団員には尊敬しているが、魔物魔物しか脳にない筋肉馬鹿たちは生理的に厳しい。
タニアが思っている騎士はもっと高潔で紳士的みたい。女性団員に失礼だと、私は言い返しただが。
他国の騎士団はどうなっているか知らない。この国の騎士団は魔物討伐に力入れすぎたせいか、確かに団員は体格も精神も一般より若干斜め上に鍛えられている。
「クリス様の命令であなたが部屋に大人しくいるかをかん…確認しに行ったら、いないではありませんか」
なんかさりげなく、「監視」って言おうとしていないか、タニアは。そして私に敬語を使っている。身の危険を感じ始めた。
「それは…すみませんでした」
「待っても戻ってこないから、探すしかないではありませんか」
「はい、お手を煩わせてしまいすみません」
「クリス様は先日休んだ古語の授業を受けるために、今日は司書様のところにいます。それを知らないあなたは書庫に行くはずがないので…」
「姫様が古語の授業を休んだですか?」
年初姫様が書庫に行った時、司書であるワイズマン様から古語の話を聞かされた。それ以来古語を趣味で勉強し始めた。とても好きのようで、週に一回の授業を欠かさず受けている。
彼女が古語の授業を休むなんで珍しい。
「色々あってね。クリス様の授業話はさておき、あなたを探す話まだ終わってません」
「はい、すみません」
「クリス様のところではないなら、もう騎士団か近衛隊のどちらにしかいないと思いました。とりあえず近衛隊に向かっている途中、セシルくんとばったり会って、で、ここに来ました」
「セシルくんって…」
セシルは私の2歳上、タニアと同い年だ。セシルくんで呼ぶのもおかしくないが…
あのタニアが同い年の男性、しかも生理的に無理って言った騎士団員を「くん」って呼ぶなんで、興味深い。
「セシルさんとばったり会いました」
「はい、わかりました」
「大体あなた、毒も完全に抜けてないし、腕の怪我も治ってないし、こんなところに来てどうするつもりですか?」
「体が鈍って、感覚を取り戻そうと、運動しに来ました」
「運動…あなたを心配している人達の気持ちもっと考えていただきたいですが?」
「……すみません」
私が何かをやらかした子供みたい、タニアの言葉に謝ることしかできない光景はさぞ面白いだろう。練習場で訓練している団員たちの動きが止まっている。みんな興味津々に私とタニアのやりとりを見ている。
メイドに責められばっかりで、何も言い返せない私だが、こう見えて一応騎士団では隊長格、近衛隊でも席を設けてくれている。この身に過ぎると思う。
こんな私がタニアに怒られること実は珍しくない、姫様以外の人に見られるのが珍しい。
昔から私は姫様の色々な冒険について行くこと対し、よくタニアに怒られている。お姉さんのような彼女は私たちのことを心配して怒るから、私はその怒りに感謝している。
今回も全般的私が悪い、多分。
「はっは!そこのメイドさん、その辺にしてあげてくれ」
豪快な笑い声が私とタニアのやりとりに割り込む。左目に大きな傷跡がある、熊のようなごっつい男が私たちに向かって歩いて来る。
「ヴォルフラム様、ご無沙汰しております」
「おっ、タニアさんではないか。久しぶりだな」
さすがにこの男を前にして、タニアも私に対する言葉責めを辞めて、挨拶をする。
ヴォルフラム、騎士団長にして、アルフリート様、姫様と私の剣術の師匠でもある。左目の傷跡は若い時巨大トカゲの魔物に負わされた勲章と、本人は言っている。
「ジュンの気持ち、ここに居る野郎どもみんなわかる。騎士団の人は守りたい気持ちが人一倍だからな」
「団長、私は野郎ではありません!」
男性より少し高い声が団長の言葉部分的に否定した。練習場で訓練している女性騎士の一人、先月から私の小隊に転籍して来たシムスだ。
「すまんすまん、シムスくん」
「おわかりいただけてありがとうございます!」
「ぷっ」
「ガハハハッーーー」
訓練場が団員たちの笑い声に溢れる。
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