第2話
「国王陛下、王妃陛下、アルフリート殿下ご一家、クリスティーナ殿下のお出ましーーーー」
衛兵が王城の正門を開け、王家全員が王城から外出して式典に向かうことを王都の民に告げる。
王城から女神像のある祭壇までは少し距離がある。
国王陛下と王妃様、アルフリート様ご一家と、姫様はそれぞれ用の馬車で女神像の近くに移動し、その後は民とふれあいのパレードをしながら歩行で祭壇へ行く予定。
来賓たちはパレードに参加せず、王城から直接式典会場へ行くことになっているから、バルト国の王子殿下は先に移動した。
私は馬に乗って、姫様が乗る馬車の隣で護衛しながら一緒に移動している。
普段は軽装で馬を乗ることが多く、今日みたいにマントを羽織った状態で乗るは非常に違和感を感じる。その微かな不快を感じつつ、私は五感を澄まして、回りの状況を細かく確認する。
この国の民は王家に対し、基本は好意的。正直ここまでピリピリしなくてよい。
よく思っていない人はもちろんいるが、式典を邪魔しに来て、まして王家の方に危害を加えるほど勢力にはなっていない。
一人や二人的のものなら、近衛隊はみんなに察知される前に対応できるはず。そして、個人的な勘だが、本当に何か起こそうだとしたら、式典真っ最中か、終わりかけるところが一番怪しい。
私ならそのタイミングでやる。
結局私の予感通り何事もなく、馬車は想定の時間くらいで祭壇近くの集合地点に到着した。
私は先に馬から降り、馬車のドアを開けて、姫様に手を差し伸べた。姫様は私の手を取って、ゆっくりと馬車から降る。
「ありがとう、ジュン」
律儀に感謝の言葉をかけてくれた姫様に話を返そうとしたところ、前の馬車から先に降りたアルフリート様が姫様のところに歩いて来た。
「わが妹今日はやっぱ一段と美しい」
「兄上、さっきもう聞きました」
「それでも言わせてくれ」
アルフリート様の姫様への溺愛ぶりは相変わらずだ。
不敬罪に問われるかもしれないが、この12歳も離れた兄妹の微笑ましいやりとりはたまに私の癒しになっている。
アルフリート様と姫様が他愛のない話をしながら、陛下と王妃様と合流して護衛の部隊と一緒にそのまま祭壇に向う。
***
「女神よ、我らの国と民に豊かな恵みを与えたまえ。穀物の豊穣、平和と繁栄を願い、我らの道を照らし導いてください。我らは汝の恵みに感謝し、永遠の忠誠を捧げます。」
パレードの時の大歓声と対照的、今王都中心部は針が落ちる音も聞こえるような静かさに包まれている。陛下が女神像の前で捧げた祈りの言葉ははっきり街に響き渡る。
これまでより回りの状況を注意しないといけない時が来た。
私は祭壇右階段の一番上に立っている。姫様のみならず、会場全体を見渡せる一番いい位置。
『レームリッシュ』
意識を集中して、私が認識している空間の中で怪しいものないかを確認する。
これを魔物討伐以外意図的に使うのは初めてだ。実際この能力はなんなのか、私もわかっていない。
子供の時ある日突然、回りの生き物と物・建物はそれぞれの位置を相対的示してくれたような簡略図が私の頭に浮かび上がった。見えてなくても、特定の空間範囲内のものなら全部わかる。最初は発動タイミングをコントロールできないが、自分の意識で発動ように気長く練習したら、結構使えるようになった。ただ、動きながらでの使いはまだできていない。
この能力について、姫様にしか話したことがない。「レームリッシュ」も、自分の意識で発動したいなら、暗示のような言葉を付ければより発動しやすいという理由で、姫様がつけてくれた。
回りに特に変なものはない。一安心した私は能力を解除し、祭壇に注意を戻した。
式典自体はそう長くはない。予定では陛下が祈りの言葉を捧げて、バルト国の王子殿下を紹介して、最後は収穫祭開始の宣言をしたら終わり。
今はちょうど来賓の紹介が終わって、次に進めようとしたところ。
「キャーーーーま、魔物!!!」
祭壇近くに集まる民の中から上がった悲鳴が会場の静寂を破れ、広場は一瞬で混乱に陥った。魔物を怖がり、人々はその場から逃げ出し始めた。
右側だ。私はすぐ声の方向を確認し、黒いオオカミような姿の魔物が2匹、中型くらいの大きさ。
先ほど会場回りを確認した時、右側は確かに犬しかいなかったはず。なぜ突然このサイズのオオカミ魔物が現れたか、見当もつかない。
オオカミが人混みから突き抜けて、祭壇の真下で禍々しい低い遠吠えをした。
「なぜこんなところにオオカミの魔物?!」
祭壇下にの近衛兵は魔物の接近に慌てている。近衛隊は対人戦闘に長けているが、魔物との対戦は殆どやったことがない。
魔物退治は騎士団の案件、中型オオカミ2匹なら騎士団五六人の小隊組んで臨むくらいが安泰。今まで王都に魔物出たことがないため、今日の式典もこのことを想定していない、もちろん騎士団も全く配備していない。
魔物また人混みの中に突っ込んだら、大勢の人があいつらの獲物になり、怪我して最悪命まで落とすことになる。もしそのまま祭壇に上がってきたら、今度は王家と来賓の方に危害が及ぼすかもしれない。
遠吠えの後、魔物は動かず、荒い息をしながらただ鋭い視線を祭壇に向けている。
民を守るためであれ、王家を守るためであれ、とりあえず近くの近衛隊を機能させないといけない。
「狼狽えるな!右の近衛兵、輪を作って魔物を囲め!」
まず魔物をその場から移動できないように囲んで、退避する時間を作る。
「中央と左の近衛兵、広場の外周から防衛線を張って、民を守れ!隊長、指揮をお願い!」
魔物が動いても、民に接触できないように最大限に防衛のクッション空間を設けてあげれば、その後はこちらの数で何とかなる。
「うあぁぁぁぁ」
魔物の1匹は動きだして、2人の隊員を押し倒し、突破口を作って囲む陣形を崩した。
まずい。
王家が祭壇にいるから、私はここから離れたくない。しかし、魔物が囲みを突破した時点でいつでも祭壇に上がられる。
躊躇している場合ではない、私が直接下で魔物を仕留める方が影響が少ない。
「姫様、剣を!」
「ジュン…待っ…」
決心した私は腰につけている剣を鞘ごと外して、近くの姫様に投げながら、階段から下に飛び降りて行く。
剣を受け取った姫様が私に何かを話していることは分かったが、内容までは聞こえなかった。
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