1話ー第6章ールージュクルナの覚悟


目が覚めると懐かしい天井が目に写った。ハルジオン宅で暮らしていた時に使っていた部屋の天井だ。少しだけ記憶が曖昧になっているので、目を閉じて思い出す。ルルナ達と盗賊退治に向かたことは覚えてる。俺が担当した4人組を殺して、みんなの状況を確認しにいこうとしたことも思い出した。セイラの近くに転がる3人の死体と残る1人を捕虜として縛り上げてるのを確認した。リエルも4人既に殺してて、住民の救助に切り替えていることも確認した。ルルナは3人殺してて残る1人に打チ砕ク英雄ノ角を使っているのを確認。あれはまあ大丈夫だろう。何回か練習してるのを見たけどあれは半端ない業だからな。ルルナも問題ない、そう判断しかけた時だった。倒れている1人が手をルルナに向けて伸ばしている事に気付いた。そこから魔法陣らしきものが発生するのを見てルルナに向かって警鐘を叫ぶ。聞こえていないのか?ルルナは業を決めきって敵の絶命を確認している。魔法陣はすでに完成しており、何かしらの魔法やらは発動寸前に見える。身体は自然と駆け出していた。ルルナの身体をはじき飛ばし、こちらに向かって飛んでくる魔法らしきものの軌道から外す。後は俺も避けられれば、そんな事を思ったタイミングで記憶が途切れている。あぁ、避けきれなかったんだな。過去の記憶を思い出し、状況を整理する。身体に痛みはそんなにないのだが、右腕の感覚が少しだけ鈍い。そこで右手に誰かが触れている事に気付いた。顔を少し傾ける。

「起きた?おはよう。」

「おう、おはよう。」

「とはいってももう夜なんだけどね。ごめん、セナス。私が甘かったばかりに、、、」

「いいさ、全員無事だったんだろ?大団円じゃねえか。」

「ううん、結果そうだったけど私のせいでセナスを危険な目に合わせたのは事実。私は反省しなくちゃいけない。」

「次から気をつけるこったな。リエルとセイラは?」

ルルナが珍しく本気でへこんでるので話題を変える事にする。

「セイラはあんたをここまで連れて来るのをお手伝ってくれて、そのまま帰ったわ。リエルはあの場に残って指揮してた。」

「そっか。なあルルナ、少し腹減ったわ。食えるもんなんかあるか?」

「うん、用意してあるわ。持ってくるから少し待ってて。」

俺の右手に添えていた両手を離し、ルルナは部屋を後にする。ルルナにしおらしくされると調子が狂う。かれこれ5年の付き合いになるが、あんな態度は初めてでやりずらくってしょうがない。やがて足音が聞こえてくる。でもこれ1人じゃないな?

「やぁ、セナス君。目が覚めたと聞いて様子を見に来たよ。具合はどうだい?」

「はい、これおかゆね。怪我人なんだから消化にいいもの食べてね。」

「おまたせ、セナス。」

「はい、右腕がすこし気になる以外はすこぶる元気です!」

お義父さんとお義母さんだった。心配してくれる人が多いのは単純に嬉しい。

「そうか。元気なようでなによりだ。」

「ありがとうございます、お義父さん、お義母さん。」

「いいのよ、はやく良くなってね、セナスくん。」

「あんまり大勢でいると落ち着いて食べれないだろうから、後はルルナに任せるよ。」

「ええ、任せて。」

「そうだ、セナス君。汗を流したいなら言ってくれ。その腕じゃあ不便だろう。手伝ってあげるから、遠慮せず言いなさい?」

「ありがとうございます!遠慮なくお願いさせてもらいます!」

そう言い残してお義父さん達は部屋を後にする。シンプルに嬉しい申し出だった。ベッドに長時間寝ていたせいか背中のお汗がすごいのだ。ご飯を食べたらお願いするとしよう。あ?ご飯??俺右利きじゃん!たべにくっ。こぼさないようにしないとな。

「ご飯は食べるでしょ?」

「あぁ、スプーンくれ。」

「その腕じゃあ食べにくいでしょう?食べさせてあげるわよ。ほら、口開けなさい?」

「ん、じゃあ遠慮なく。」

相手がルルナだし、正直左手で食ったらこぼしそうなので素直に甘える事にする。

「どお?まずくない??」

「大丈夫。おいしいぞ。ありがとな。」

「よかった。はい、あーん。」

「声に出して言うなや、恥ずかしくなるだろが。」

「これは介護だし、私を庇ってくれたセナスへのお礼も兼ねてるの。こんな美少女にあーんしてもらえる機会なんて滅多にないんだから。噛み締めておきなさい?」

「お前自分で言ってて恥ずかしくないの?いや、愚問だったわ。」

言葉とともに顔をあげるといまにも爆発しそうな程に真っ赤なルルナの顔が見えた。そjんな真っ赤になるなら言わなきゃ良かったのに。

「うっさい!さっさと口動かせ!!」

「はいよーだ。」

少しずついつもの調子を取り戻しつつあるルルナの介護のもとご飯を食べ終えた俺は、お義父さんに汗流しのお願いをしに行く。

「お義父さん、さっき言われてた汗流しお願いしてもいいですか?」

「もちろんだ。少し準備をするから、先に風呂場で待っててくれるか?」

「ありがとうございます!じゃあお義父さん、先に風呂場で待ってますね!」

「ああ、すぐに行くよ!」

そういって俺は浴室へと向かう。

ーanother view(ルルナ Side)ー

「ルージュクルナ。少し話がある。」

ルージュクルナ、私の本名を呼んで話を切り出す時は真面目な話をする時だ。

パパとママが顔を見合わせてうなずきあっている。夫婦の総意ということなのかしら?つい聞き入る姿勢に力が入る。

「なに?パパ。」

「お前はセナス君の事は好きか?それとも好きじゃないか?」

「ちょっ、はぁっ??!いきなりなにー

「真剣に聞いている。お前ももう18になる。結婚を真剣に考えていい年齢だ。ましてや道場の事もある。いずれお前に継いでもらうんだ、早く話すに越した事はない。」

ーセナスなんて、、、、」

「セナス君の事は好きじゃないか。それじゃあ私達に届いているこの見合い願書の中から、適当に結婚相手を見繕っていいかい?」

「え、そんなの来てたの?!」

「来ていないとでも思ったのかい?確かにセナス君がうちにいる時はそんなに多くなかった。でも先月からこの量さ。」

驚くほどの量があった。自分宛に来ているのか、果てさて道場宛に来ているのかはわからないが、それなりの量だ。

「セナス君の自立の理由はもっともだ。18にもなる娘、しかもうちはそれなりの良家だ。見合い話が当時からなかったわけじゃない。だけど私達は断り続けていたよ。なぜかわかるかい?」

私は何も言えなかった。

「言葉が出ないなら続けるよ。私達は気付いていたよ、娘の気持ちに。私達も名実ともにセナスの両親となれる事を望んでいた。どういう意味かはわかるね?」

「いつから、、、?」

「具体的なタイミングはわからないかな。ただただ、いつの間にか気付いたし、それは母さんも同じだった。だから見合い話は断ってきたし、セナス君の自立にも猛反対した。」

「わかりやすいわよねえ、気がついたら視線でセナス君を追ってるんだもの。唐揚げ覚えたい、なんていかにもじゃない?」

「気が付かないのは本人だけ、だなんてよくいった話だよ。」

両親に自分の恋心を知られていたなんて恥ずかしすぎて死ねる。本当に恥ずかしい。

「それで、私にどうして欲しい、っていうのよ?」

「その前に父さんの質問の答えがまだだな。もう1度聞くよ。セナス君の事が好きかい?好きじゃないかい?この後に及んで、人間として好き、だなんて答えはいらないからね。」

逃げ道を防がれた。退路がない。仕方がない、もう公言してしまおう。

「ええ、セナスが好き。大好き。セナス以外と結婚なんて今は考えられない。美味しそうに唐揚げを頬張る姿が可愛くて好き。私の喧嘩っ早い性格を見ても向き合ってくれる所が優しくて好き。負けず嫌いに一生懸命頑張る姿もカッコよくて好き。一緒に剣を高め合える関係なんて理想的過ぎる。遠慮なしに私にぶつかってきてくれるのも好き。これぐらいでいい?」

「、、、、あぁ、思った以上に出てきて驚いたよ。ありがとう。」

「ルルナちゃん可愛いわぁ。」

「恥ずかしさ我慢して言ってるんだから茶化さないで頂戴。それで、私に何をさせたいわけ?」

「あぁ、母さん!そういえばこれから会議に出なければならなかったかな?」

「あらいけない!お父さんったらうっかりさんなんだから!」

「えっ?えぇ?!」

「しまった、セナス君の風呂を手伝う約束をしてしまったのに、もう出ないと間に合わないじゃないか!ルルナ、代わりにお願い出来ないかい?」

「そんな?!」

「頼むよルルナ。父さん達遅刻しちゃうよ?」

「あーもうわかったわよ!行きますやります!やればいいんでしょう?!」

「助かるよ。あ、そうそう会議の後には宴会もあるだろうから、明日の昼過ぎまでは帰って来ないと思うから、戸締りはしっかりセナス君とするんだぞ?」

「ルルナちゃん、よろしくね?」

「ちょっ、えぇっ!?はぁ。行ってらっしゃい!!」

信じられない。年頃の娘が残る家に年頃の男を残して自分達は当日中に帰って来る気はないらしい。しかも今のセナスは1人じゃろくに日常生活も遅れない怪我人だ。お世話をするのは必然的に私になる。いや、セナスの介護なら全然嫌じゃないんだけどさ。

仕方がない、パパとママの為に頑張るか。そう決めた矢先だった。

「そうだ、ルルナ。」

「なによ、パパ?」

「そこに袋があるだろう?きちんとつけるように。」

「はやくでてけぇ!!!!」

もっと信じられない。そうなる事を望んでやがる。娘の純潔を軽んじ過ぎじゃない?いや、パパとママからしたらどこぞの馬の骨より大事に育てた義理の息子であれば万々歳なのか?そういうことか。よし、ルージュクルナ・ハルジオン。頑張り時だ。覚悟を、決めた。

心を決めたら事はすんなりだった。

袋を一応持って脱衣場に行き、服を脱いで折り畳む。下着だけは可愛い物を用意してきた。少しは可愛く見られたいじゃない?こんな性格でも一応乙女なので。タオルはハンドタオルのみ持っていく。こんなものじゃ大きくなった身体は隠せないのは承知の上。ドアの前に立って深呼吸を1つ。足りなかったからもう1回。

ドアを開けてせんじょうへ。

「お義父さん、遅いです、、、は?ちょ、お前!なんでこんな?!」

狼狽えてやがる。いい気味だ。私なんかの身体で狼狽えてくれるなら少し余裕が出てきた。相手が狼狽えてると自分は落ち着く、みたいな話は本当らしい。

「パパが急な用事ってんで、出掛けちゃったのよ。だから、私はそのかわり。」

「いや、だからって裸はおかしいって!身体洗うの手伝うだけならセイラみたく服着たままでもいいじゃん!」

「ふーん、セイラとそんな事してたんだ?」

「なんで怒られてんの?!」

前までだったらそうでもなかったんだろうけど、認めた今となっては話が違う。ちょっと対抗心が出てきた。セイラ、もしそうなら負けないからね。

「どうせだったら私も一緒にお風呂済ませちゃおうと思ってね。リエルんとこ程じゃないけど、うちもお風呂広いし2人で入れるでしょ?」

「じゃあお前先に済ませろ!俺は上がる!あがったら教えてくれ、、、

「なんで逃げるの?私の身体、見苦しい?確かにリエルやセイラみたく女の子らしくないかもだけど、、、

「違う!お前が魅力的だから我慢出来ねえ、って事!言わせんな、恥ずかしい。いくら身内同然のお前といえど、俺だって男なの!」

「なら良かった。お世辞でも嬉しい。私はセナスなら、いいわよ。好きな人に身体を求めてもらえるって幸せじゃない?」

「は?お前今何て言った?聞こえなかったわけじゃなくて、信じられなくて。」

「簡潔に言うとあんたの事が好き、っていったの。じゃなきゃ裸なんて見せない。」

「い、いつから?!」

「さぁ?私もわかんない。自覚したのはホントに今日。けど、間違いないわ。」

そう言って私は立ちすくんでいるセナスの顔を胸に抱き寄せた。

「そうじゃなかったらこんな音しないわよ。」

「俺、いますぐに答えがだせない。真剣に考えてもいいか?」

「当然よね。多分今まで家族として見られてただろうしね。私もいますぐ答えを求めるつもりはないわ。けど今は、私を惨めな女にしてほしくないかな。」

「ホントにいいんだな?止まれないからな?」

「いいよ。来て。」

そういった私はセナスの顔を離して、目を瞑って上を向く。

私はこの日、ファーストキスを迎えた。

ーanother view endー

昨日は沢山のことが起こった。

ハウワー領に侵入してきた盗賊をリエル、セイラ、ルルナと共に退治して。ルルナを庇って右腕を負傷して。最後にはルルナからの告白とキス、更にその先まで。ベッドに腰掛け、眠るルルナの髪をそっと撫でる。俺はどうやら単純らしい。昨日の今日で隣に眠るルルナがこんなにも愛おしく思う。時刻は午前9時。お義父さん達が帰って来るまでもう少し時間がある。昨日の行為の後片付けはもう済ませてあるので、ゆっくり寝かせてあげよう。

「ん、セナス??」

「わり、起こしちゃったか。身体、大丈夫か?ダルかったりしないか?」

「んー、少し違和感があるくらいかな?大丈夫よ、ありがとう、、、」

お腹を摩りながらルルナがぼやく。最後の方は昨日の行為を思い出したのか、ルルナの顔がみるみるうちに赤くなる。

「片付け、してくれたんだ。ありがとう。手伝えなくてごめんね。」

「いいよ、トイレに起きたついでだったから。まだ8時だから、もう少し寝ててもいいぞ?帰ってくるのお昼過ぎなんだろ?」

「ん、ならそうさせてもらおうかな。」

そう言うやいなやルルナは起きあげた身体を倒して、俺の膝に頭を乗せて来る。

「いつも借してるんだから。イヤだ、なんて言わせないわよ?」

「言わねえよ。」

そう言ってルルナの頭を撫でる。

「うむ、くるしゅうない。」

「何様だ、お前。」

なんて他愛もないやり取りをかわしながら過ごす時間は、とても幸せに感じた。


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