1話ー第3章ーマーガル農園のお手伝い
「セナスくーん!そっちはどーおー??」
「いま半分ってところだ!!」
「おっけー、私こっちそろそろ終わるから、終わったらそっち手伝うねー!」
「いや、こっちは俺だけで大丈夫だから、ジークを手伝ってくれー!」
いま、俺はセイラの家に来ている。ルルナの次はセイラかって?人聞き悪いこと言ってくれるなよ。仕事だよ、仕事!事の顛末を説明しよう。今から3時間前、朝の8時頃だったか?急に呼び鈴がなったんだ。
「はーい、誰ですか?こんな朝っぱらから??」
「おはよう、セナス君。」
「セナス兄!おはー!!」
「なんだ、セイラにジークじゃねえか姉弟(きょうだい)2人でなんのご用事です??」
尋ね人はセイラとジーク。ジークはセイラの5人の兄弟姉妹の1人だ。確か4つ下の弟だったかな。セイラ、モナコ、ジーク、ハルク、キリカだったかな。セイラはそんな大家族の1番上の長女にあたる。
「セナス君、今日はなにか予定はある?」
「んにゃ、飛び込みの仕事がなけりゃ鍛錬でもしようかな、程度だな。」
「よし!ちょうどよかったな!」
「おいこら、人の不景気を喜ぶんじゃねえ!」
「まぁまぁ、そんなセナス君に朗報です!マーガル農園のお手伝いを依頼されてくれませんか?もちろん、お仕事として。」
「え?あそこってお前の親父さんがなかなか厳しくて、外部の人間を雇ってないってことで有名だろ?俺が行っていいんか?」
「うん、そうなんだけど。順を追って説明するね?まずお父さんが腰をやってしまって動けません。お母さんはモナコとハルクの付き添いで遠出中です。そしていまは葡萄の収穫シーズンです。私とジークだけじゃとても終わりません。キリカはまだお手伝いできる年でもないしさ。さあ困りました。でも外部の人間はお父さんが許しません。そこで私はとある案を出しました。『私とジークが認める人間なら外部の人間じゃないでしょう?』色々ありましたが、結局お父さんが折れてこうして依頼に来た次第であります!」
「あります!」
可愛らしく敬礼を決めるセイラ。それに倣うジーク。経緯はわかった。今日の予定も特にない。最大の障害となりえるマーガル父は2人が味方に付いてくれるだろう。断る理由、ないな。
「おう、わかった。準備してくるから少し待っててくれ。」
「さすがセナス兄!」
「じゃあ待ってるね。わかってるとは思うけど、畑仕事だから動きやすい格好で来てね!」
ざっくり説明するとこんな感じだ。という流れでマーガル農園にて葡萄収穫を手伝っている俺なんだが、1ついいだろうか?
「(マーガル父の監視付き&キリカを背負いながらの作業しんど過ぎるんだが!!)」
マーガル農園につくやいなや、マーガル父とキリカによる熱烈なお出迎えを受けた。
「セナス兄ちゃん!!」
「おう、おめえがセナスか。しっかり頼むな。」
「はい、本日はよろしくお願いします。久しぶりだな、キリカ。遊んでやりたいんだが、今日はお兄ちゃん仕事で来てんだ。また今度な?」
「やだ!セナス兄ちゃんと一緒にいる!」
「こらキリカ、わがままいってセナス君を困らせちゃダメでしょ?」
「やーだ!一緒にいるの!!」
「キリカ、仕事の邪魔はしちゃいけねえ。わかるな?」
「キリカいい子にしてるもん!それならいいでしょ??」
「じゃあキリカ、父ちゃんがダメって言うまでだ。キリカがいい子にしてりゃあ父ちゃんはダメとは言わねえ。それでいいか?」
「はーい!!キリカいい子にしてる!!」
というわけで、どうやら『いい子』の基準は俺らしい。その後キリカがおんぶを希望し、今に至るが特にマーガル父からのリアクションはない。キリカは自力でしがみついているだけなので、現状両手は自由に使えている。この状態で俺が作業のスピードを落とさなければいいのだ。いい筋トレだと思えばちょうどいい、まである。頑張るしかないだろう。
「ふむ。おい、坊主!お前今からセイラと一緒に作業しろ。いいな?」
「あ、はい!わかりました!!」
「おいセイラー!お前こいつの面倒見てやれー!!」
「はーい!随分と早い見極めだねえ、お父さん?」
「見ろ、あの状態でここまで出来てりゃ充分だ。あいつなら‘‘いい‘‘。たまには娘と息子の声を聴くもんだな。あと、キリカにダメと伝えてこい。」
「ふふっ、でしょう??はーい。」
なにやら父娘(親子)でなにか話し込んでいる。距離があるし、そこまで大声ではないのでここまで声が届かない。なんなんだ?俺の作業スピードが遅かったからなのか?
「わりいな、セイラ。俺が不甲斐ないばかりに手間かける。」
「ううん、そんなことないよ。それよりキリカ?」
「なあに、セイラ姉ちゃん?」
「パパからキリカにお手紙。ダメ、だってさ。」
「ぶう。セナス兄ちゃんまた後で遊んでくれる?」
「あぁ、キリカがいい子にしてたらな?」
「わかった!!約束!!!」
キリカがマーガル父に連れられて家に帰っていく。セイラと2人取り残される。
「流石セナス君だよね。私たちのお墨付きっていう色眼鏡込みだとしても、お父さんに合格貰う人初めて見たかも。」
「え?あれ合格っていみなのか?いや、てっきり逆なんかと思ったわ。」
「わかりにくくてごめんね。お父さんね、見込みない人には誰も付けないのよ。見込みなんてないから、自分達が進めたほうが早い、っていう結論ね?でも、私を付けたってことは、この人は育てれば使える、って意味になるのよ。よかったね?これからはうちから定期的に依頼が来るかもね!今までも何人か志願してきたけど、全員ほったらかしにされて見込みなし判定だったの。」
「すげえ人だな、、、」
心からの感想だった。
「ま、とりあえず続きしよっか?」
「そうだな。」
「セイルパルラ流葡萄収穫の極意を教えてあげましょう。」
「それは大変助かりますな。よろしくお願いしやす!」
セイラの言葉を皮切りに仕事を再開させる。ハウワー領の葡萄は結構有名な名産品だ。メイヤード王国の最東端であるこの場所は山と海に囲まれたいわゆる田舎町というやつだ。そんな町ではやはり農業や漁業が盛んになる。マーガル農園はその農業を一手に支える農園だ。葡萄に始まり林檎や苺、蜜柑の栽培、牛や豚、山羊などの酪農もやっている。これらを使った氷製菓『マーガルソフト』は王都にも知れ渡る程に有名らしい。その仕事を手伝えている事は知り合い特権込みかもしれないが、結構嬉しかったりする。そんな事はさておき、セイラに極意を聞いてその指示通りに動いていく。いくらか動きが効率化されていると実感できる程だった。背中からキリカが離れたこともあるだろうけど。しばらくお互い無言で集中して収穫に没頭していた。
「ねえねえセナス君。」
「なんだよ、セイラ??」
突如セイラが沈黙を破ってしゃべりだす。それでも葡萄収穫の手は止まってないのだから、俺も手を止めずに耳だけ傾ける。
「昨日はルルナちゃんと何してたの??」
「え?飯食って稽古して飯食って帰ったぜ?後は免許皆伝祝いに正装貰ったぐらいか?」
「あら、驚くほどにいつも通りね。」
「俺にとっては実家に帰るようなもんだ。普通で1番だろ?」
「ちぇ、何かしら進展があると期待してたのにな。つまんないの。」
「よくわからんけど呆れられてるのはわかるぞ。」
「この朴念仁め。まぁルルナちゃんもルルナちゃんか。」
「なんて??」
セイラめ、最後だけ小声でしゃべりやがって。何を言っているかまったく聞き取れなかった。そこでふつりと会話が切れる。収穫に没頭しているセイラの顔は真剣で、これ以上聞き入る事は躊躇われた。俺も仕事に戻る。そこから日が暮れるまで、お昼休憩を挟みつつ無事に収穫を完了させた。
「せっかくだし、夕飯一緒に食べってってよ。」
仕事終わり、セイラからの誘いを受けて気まずいながらも初めてマーガル家での夕食に同席した。マーガル父は俺に気を使ってなのか、自室にて夕飯を取るようで、ある程度の気まずさは感じずに済んだのは幸いだった。普段から料理しているらしいセイラの料理はお世辞抜きにうまかった。
「自立して自分で飯作るようになってから思うんだけどよ。こんな綺麗に上手く飯作れるってすげえよな。尊敬する。」
「んー、毎日作ってればこれぐらいできるよ。セナス君もこれから頑張っていけば大丈夫じゃないかな??」
「今度セイラとルルナに飯の作り方でも教えてもらうかな。」
「ん?ルルナちゃんにも聞くの?」
「そーそー。昨日帰ったって話ししたじゃんか?俺の好物唐揚げじゃん?お昼ご飯に出してくれてさ、お義母さんが作ってくれたと思ってたんだけど、実はルルナが作ってたらしくてさ。結構俺好みのうまい唐揚げだったのよ。」
「(お、なんだなんだ進展してるじゃん)」
「???」
セイラが俺に聞こえない音量でしゃべるから聞き取れない。
「ま、そんな事があったから、あいつも料理の知識持ってるはずなんだよ。いつまでも甘えてばかりじゃいられないからな。」
「んー、甘えていいと思うけどな?結構嬉しいもんだよ?自分が作った料理を美味しいって言って食べてもらうの。」
「そーいうもんなのかねえ?」
「そーいうもんなのです!」
とまあこんな感じで賑やかな食事をマーガル家で過ごした。せめてものお礼に、と皿洗いをしてから帰ろうとしたことが良くなかったかもしれない。
「キリカ、セナスお兄ちゃんとお風呂入る。」
キリカのワガママがまた始まってしまった。こうなったキリカはもうなかなか止まらない。セイラもジークも説得するけど効果はない。頼みの綱であるマーガル父はもう自室にて休んでいる。
「ほんとにごめんね、セナス君。お願いできるかな?」
「まあ、懐いてくれてるのは嬉しいしな。構わないよ。」
「ありがとう~助かる!私もできる限りサポートするからさ。」
「できる事ほぼないだろ?いいよ、今日くらい。」
なぜか俺は年下から好かれる傾向がある。リエル曰く『面倒見のいい性格と威圧感のなさ』らしい。
「セナスお兄ちゃんとお風呂入るの楽しみ!」
「ありがとよ。さっさと入るぞ!」
「うん!」
道場のチビっ子たちを風呂に入れる事がまああったので、こーゆーことは慣れている。5歳のチビっ子なんてこんなもんだろ?
「あれ?お兄ちゃん背中どーしたの??お怪我でもした??」
「ああ、これな。そ、お兄ちゃん昔怪我しちゃったっぽくてな。」
「えぇ〜、痛そう、、、大丈夫?」
「大丈夫だよ。ありがとうな。」
小さな頭をポンポンと撫でると、顔をくしゃっと崩してキリカが笑う。キリカが心配してたのは俺の背中に昔からある痣のようなものだ。昔の記憶が抜け落ちているからどういった経緯で付いたものかわからないんだが、ひとまず俺がお義父さんに拾われた時から付いているらしい。当初から今に至るまで痛みはまったくないので、自分ですらほぼ気にしていないという現状だ。キリカの頭をシャンプーで泡立ててワシャワシャと洗っている。
「セナスくーん?キリカはいい子にしてるかな??」
「おうよー。これで頭洗って身体洗うところだー。」
「ありがとー!キリカー、セナスお兄ちゃん困らせちゃダメだからねー。」
「はーい!!」
元気な返事を皮切りに身体洗いを続行する。頭と身体の泡を落として、リンスを髪に馴染ませたらキリカは終わりだ。後はキリカを湯船に浸けている間に自分を終わらせればミッション・コンプリート。の、はずだった。急に扉が開く。
「はいセナス君、タオル使って?」
「あぁ、ありがとうセイラ。え?セイラ?!?」
「セイラお姉ちゃーん!」
なぜか風呂場にセイラが乱入してきた。ショートパンツに半袖という薄着ではあるが、服は着ているから目のやり場には困らない。受け取ったタオルで腰下を隠せばこちらは一応大丈夫だ。それでも何故入ってきた??
「いや、色々キリカの面倒みて貰っちゃって悪いじゃん?せめてお背中流そうかな、て思いまして。」
「だからと言って普通するか?!」
「キリカもお父さんもいるこの家でえっちなことは出来ないという思考、そしてそもそも私の信じるセナス君は合意なしでそーゆー事はしないという信頼に基づいて動いてます!それともセナス君は私達を裏切るような事をする人なのかな?」
「合意があればするのかよ!」
「私はセナス君だったら嫌じゃないよー?」
「反応に困るからやめてくれ!!」
「ふふっ、あー楽し♪」
ルルナより1つ年上にあたるセイラ。年上らしい大人っぽさを備えつつ、時折魅せるお茶目な性格は俺もルルナもリエルも好ましく思っている。けれどもたまにこのような突飛のない行動に出ることがあるのがたまに傷、というやつだろう。 俺を揶揄って楽しんでいるセイラはひどくご機嫌で、鼻歌を歌いながら俺の背中を流していく。弱すぎず、強すぎず、ちょうどいい力具合なのがセイラの器用さを物語るようだ。
「かゆいところはございませんか〜?」
「それは頭洗うときに言うセリフじゃないのか?」
「身体だけじゃなくて頭も洗って欲しいと?仕方ないなあ〜」
「洗ってくれるならお願いしよーかなー?」
「おお、反撃してきた。御所望とあらば喜んで。」
反撃の仕方を間違えたかもしれない。余計にこの時間を増やしてしまったようだ。言質をとったセイラは俺の髪の毛まで洗い始めた。たわいも無い髪質の話なんかを喋りながら時間は過ぎる。どうやら頭も洗い終えたようで、俺の許可をとってシャワーで泡を落としていく。むずむずとする違和感はあったが、悪くなかったな。
「はい、終わり!」
「ありがとな、セイラ。」
「セナスお兄ちゃんとセイラお姉ちゃん仲良し!!」
「おう、お兄ちゃん達は仲良しだぞ!キリカともな!」
「じゃあ仲良しのセナス君に、最後にちょっとだけサービス。」
セイラの言葉と共に背中に柔らかいものが当たる。それが何であるかはすぐにわかった。わかってしまった。一気に心拍数があがる。
「はい、サービス終わり!どうだった?」
しばらくして、セイラは身体を離して立ち上がって俺の顔を覗いてくる。すると風呂用の小椅子に座る俺を立ち上がったセイラは上から見下ろす形となる。セイラの顔がニヤニヤと笑っている。タオルの下で『どういう反応をしているか』がわかってしまったんだろう。流石にあれだけされて無反応ではいられなかった。
「ふふっ、セナス君もやっぱり男の子、ってことだね?ゆっくり上がっておいでー!」
俺を見下したセイラはそう言い残し、楽しそうに風呂場を出ていくのだった。
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