第6話 記憶の魔女

 名取はタバコに火を付けた。

 煙を吐き口を開く。


「何が聞きたい?」

「私が猿夢を殺した事を知っている理由、その報酬の意味、私に危害を加える気があるかどうか。まずはそれくらいかな」

「なるほどね」


 名取は無造作に札束をテーブルに置くと、つらつらと話出した。


「その質問に答えるには一個、望月さんに前提知識を持ってもらう必要がある。私達の組織についてだ」

「株式会社何とかクリーニングだったっけ?」

「そうだ」


 違うでしょ。


「調べると実際に出てくる企業だ。その一事業として件の猿夢なんかを殺す仕事をやったり発注したりしてる組織なんだが、これは秘密裏に国から請け負ってる仕事なんだよ」

「それで?」

「ポンとこんな大金が出てくるのは国が関わってるからだな。それに色んな情報が集まってくるのも国が関わってるからだ」

「夢の中の出来事まで偉い人は知ってるって事?」

「そうらしい。いや、詳しくは知らんが、そういう力を持った人間はどこかしらにはいるだろうさ」


 力か。今の私には納得できてしまう単語だ。


「報酬ってのは何? 猿夢を殺したからって私が貰う理由はないでしょ」

「それにはスカウトの意味が込められている」

「スカウト?」

「望月さん、猿夢を殺したんだろ? ならあんたは力を得たはずだ。その力を買いたい」

「⋯⋯断ったら?」

「微妙なとこだな」


 名取は眉をひそめて首をひねる。


「うちにも派閥ってもんがある。過激な所も穏健な所もな。今の所、私が個人的に調べて望月さんに行き着いただけだが、この事は確実に奴らの耳に入る。そうなった時、望月さんが断り続ける事ができるかはその時次第だな。ただ奴らの中には平気で子供に危険な仕事を振るヤツもいるし、その結果死人を出した事もあるってのは言っておくよ」

「⋯⋯そういうのも引っくるめて断ったらいいんじゃないの?」

「ハッ、人が人に行動を強制させる方法なんていくらでもあるんだよ」


 いやに眼力のある眼差しだ。


「ま、私は悪いようにはしないよ。あんたも、あんたの友達もな」


 夏帆ちゃんのこともしってるのか。


「それを言われちゃ従うしかないね」

「オーケー。じゃあそれ、貰ってくれ。多分五十万ある」

「多分て⋯⋯」

「今日の所は解散だ。何か連絡があったら名刺に番号が書いてるから、間違ってなかったら私につながる。じゃ、そういう事で」


 てきとうな人だな。


「いや、待ってよ。まだ聞きたいことがある」

「なんだ」


 息を吸って吐き出す。今の私だと緊張する質問だ。


「あなたのカップ数はいくつですか?」

「は⋯⋯⋯⋯⋯⋯? バカが」


 最後に軽蔑の感情を叩きつけられた。

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