第4話 記憶の魔女

「猿夢?」

「はい。まあ、というよりあの世界に影響されて身についた力、と言った方が近いと思いますけど」


 それが、コインの裏表を操る力?

 あまり脈絡がないように思えるけど。


「まず、これは仮説なんですけど、あの猿が死んだ事で猿が持ってた力が私に移ったんです。もしかしたら望月さんにも移ってるのかもしれないですけどね」

「⋯⋯まあ、さっき見せてくれた不思議な現象を起こす力を、どこで手に入れたかって考えるとそれが妥当に思えるね」

「はい」

「でもそれで得た力にしては関係性がなくないかな」

「それは多分勘違いしてます。今やったのはあくまで力の一部で、実際の力というのは『夢を現実に変える』という力です」

「夢を現実に⋯⋯?」

「望月さんが夢の中でナイフを作り出したのと同じです」

「あーそういう⋯⋯」


 納得したふりをしつつも、整理しきれてない。


「私の場合、何でもかんでも創り出したりはできなくて、不確定要素のあるものを確定させる事ができるっぽいです」

「それでコインか」


 多分、自分の認識する範囲内の、という枕詞がつくんだろう。私視点でコインが表だと確定させても、後になって裏になっていたのがその証拠だ。


「私も何かやったらできるのかな」


 試しにこの前やったナイフを出すヤツをやってみよう。

 一連の流れを試みる。


「ん。できないね」


 現実ではできる気がしない。


「殺したのは望月さんだったのに」

「というかどうやって裏表を操作できるって事を発見したの?」

「偶然です。お金を手に握った時、何となく裏か表か当ててみようって発想が出てきて、何となく裏にも表にもできるって思ったんです」

「感覚か」


 第六感のような何か。自分にやれる事を知らずにやれると理解できる仕組みのようなもの。てきとうに言葉にしてみても体験してみない限りピンとはこないな。


「夢のホストが夏帆ちゃんだったから私には宿らなかった、とかね。想像ならいくらでも仮定できるけどあんまり意味ない気がする」

「別の形で力を使えるかもしれないし、気長に待てばいいと思います」

「ま、そうだね」

 

 軽い表情でそう言った。

 それにしても夏帆ちゃん。いつもより少しだけ明るい気がする。いつも、なんて言える程の付き合いはまだないけど、ちょっとだけ陽気になってる感じだ。


「ふふふ」

「? なんですか?」

「いや、なんか楽しそうだなって」

「私が?」

「うん」


 夏帆ちゃんは少し考える素振りをする。


「人にない能力を手にしたから、だと思います」

「特別感みたいな?」

「そんな感じです。一応もう高二ですから、将来の事を不安に思ったりするんです。でも自分に備わったこの力の事をもっともっと知っていけばこれで食べていけるレベルにもなれる、そう思った時初めて将来に対して希望が持てたんですよ。望月さんもゲーム配信をしてそんな風に思った事ないですか?」

「あるよ。私の場合、安心が強かったけど。会社を辞めてすぐに気まぐれで始めたんだけど、たまたま初心者にしては数字が出て嬉しくなったのを覚えてる。というか今もそうだしね。まあ、もっと早くに始めてたら、とかも思うけど」

「私達、勝ち組ですね」

「うーん」


 人生はそんなに甘くない。嫌な事ばかりで、そこから逃げても立ち向かっても苦しみは続く。

 でも、この苦しみは現代社会にのみ存在しているように私は思う。だとするなら夏帆ちゃんのように現代社会から外れた所から力を得たのなら、もしかすると本当に勝ち組になり得るかもしれない。


「そうかもね」


 そうであってほしい、と心から願った。

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