第2話 電車の夢

 幸せな夢を見た。かわいい女の子がいて、身体を寄せ合って少しばかりの話をした夢。そしてその女の子は現実にいるかもしれない。

 私はその女の子と再会するべく身支度をする。向かうのは北高。本当にいるかはわからない。いたとして私の事を覚えてないかもしれない。それでも会いにいく。

 一目惚れ、もしくは非日常の特別感。動機はそんな所か。

 ともかく家を出よう。そろそろ放課後だ。


 


 北高の来客用駐車場。

 車のエンジンを止めて私はそこで待機していた。

 玄関を見ればちらほらと生徒達が出てきている。

 そろそろか。妙に緊張する。まあ当然か。本人にも学校にもアポをとってないからね。言ってしまえば今の私は不法侵入者だ。夏帆ちゃんが私を認知するまで、そして認知して尚拒絶された場合はそうなる。

 

「ん⋯⋯?」


 見つけた。出てきた。

 近くまで来るのを待つかこっちから玄関まで行くか。ちょっと勇気が出ないので待つ。

 とぼとぼと、目線を落とし小さくなりながらこちら側に向かって歩いてくる。肩に掛けたスクールバッグの持ち手を守るように両手で掴んだ姿が愛おしい。

 やっぱりこっちから行こう。周りの目なんて関係ない。ここには私と夏帆ちゃんしかいないんだ。そんな世界もあったっていいだろう。

 エンジンキーを回す。丁度よく夏帆ちゃんは隅を歩いていたので車を動かしやすかった。

 徐行して近づく。停車する。目を伏せたままの夏帆ちゃんが車から距離を取る動作をしたのでパッシングした。

 目を丸くした夏帆ちゃんは運転席に座る私を見る。その驚きが意味するところは何だろうか。解明するべく、助手席側の窓を開けて手招きした。


「だーれだ」


 寄ってきたので問うと、


「⋯⋯望月さん」


 掠れた一声。

 私は内心テンションが上がりまくっていた。学校にいて一日中喋らなかったんだろう。夢の時とは少し聞こえ方に違いはあったけど、同じくらいかわいい声。


「いや、かわいいとはまた違うか。愛しい、そんな感じ」

「何言ってるんですか?」


 不思議がるというより少し軽蔑の混じってそうな眼差しに嬉しくなりつつ、腕を伸ばし助手席のドアを開ける。


「今朝ぶり、かな? 送って行くよ」

「いや、私自転車通学なんですけど」

「あ」


 失念していた。どうやら舞い上がりすぎていたらしい。


「そっか⋯⋯」

「でも、乗せてってください」


 夏帆ちゃんはほんの一瞬笑みを浮かべて車に乗り込んだ。

 車を発進させて思う。私はこの子の笑顔が見たかったのだと。飾らず作らず心からのささやかな笑み。その為に頑張れた自分を少し誇りに思えた。

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