第3話 出立


 誰にでも、譲れないものというのは一つくらいはあるものである。


 例えば、テアドラにとっては自身の武に対する誇りであり、ライルにとっては村を支える者としての矜持だったり、ルージュにとっては母として大切に育ててきた二人の子どもだったり、だ。


 当然、ジオにだって譲れないものはあった。

 村を統括する者として、何十年もの間、愛する妻を失いながらも、村の未来を何よりも優先的に考えてきた。

 しかし十八年前、一人の赤子と出会い、再び大事な家族ができた。

 その子は人には言えない秘密を抱えており、本人さえも知らない事実として、ずっとジオは一人で抱えてきた。


 竜によってこの村に託された子、それがアクトなのだ。

 何度も告げようかと悩んだことはあったが、いつも一緒に走り回るマリアや、自分たちの子どものようにアクトを世話してくれているライルとルージュを見ると、その口は固く閉ざされてしまう。


 このかけがえのない毎日を、自分の言葉で崩してはならない。

 そんな思いがジオの中には確かにあった。


 アクトとマリアが八歳の頃、西の集落で魔物の退治を請け負っている武人に弟子入りしたと聞かされた。

 強くなることはいいことだが、あそこまで傷だらけになった二人を見た時、居ても立ってもいられず、その武人の下まで賭けて行き、勢いそのまま詰め寄ったこともあった。


 それでも二人はその武人、テアドラの修行を受けたいと主張してきたのだ。

 一種の親離れだったのかもしれない、寧ろ子離れできていない自分の方が間違ってきたのかもしれないとさえジオは思った。

 そう思い込んで、無理矢理自分を納得させたのだ。


 修行が日常になり、アクトもマリアもどんどん強くなっていった。

 テアドラの教えは効果的で、その教えに忠実な二人が成長するのは至極当然だった。

 次第に、ジオ自身も二人の成長が楽しみになっていった。

 一つできることが増えると、二つできないことにぶち当たる。

 何度壁にぶち当たっても、二人は辞めなかった、諦めなかった、逃げ出さなかった。


「あんなに小さかった二人がのぉ、大きくなったもんじゃ」

 

 自然とジオの頭の中に、たくさんの記憶が蘇ってくる。

 怒鳴ったことも、喧嘩したこともあったはずなのに、その記憶に映る彼らは皆、楽しそうに笑っていた。


「村長、あの子たちがいなくなるのが寂しいんだろ? そりゃ俺たちだって大事な娘が旅に出るってんだ、寂しくないと言えば嘘になるけどさ、それだけ成長してたってことだろ、嬉しいってのが大きいぜ、俺は」

「アクトだって、私は息子だと思っていますよ。最後まで母とは呼んでくれませんでしたけどね、ふふ。あの子たちがあんなことを考えていたなんて、私も喜ばしいことだと思ってしまいますよ。本当は二人が結婚するのかと期待したりしていましたが、子どもというのは親の期待なんて簡単に超えていくものなんですね」


 二人とも心の底から楽しそうに思いを告げた。

 その内心には、当然心配もあるだろう、反対してそばにいてほしい気持ちだってある筈だ。

 それでも、この二人はジオに笑って未来に期待するのだ。


 ジオにだって、二人の言いたいことは理解できる。

 そうして気持ちよく送り出したい気持ちだってある。


「村長、横から口を挟むようで済まないが、あの二人の旅路、俺が共をしよう」


 ずっと黙っていたテアドラが遂に口を開いた。

 そして口にしたのは思いがけない提案だった。


「テアドラ、お主がついて行くというのであれば、確かに少しは安心できるというものじゃが、それはお主の望むものではないじゃろ」

「いや、この十年アクトとマリアに修行をつけてきて、二人とは少なくない時間を過ごしてきたが、いつの間にか俺にも情が湧いていたのだろうな。二人がこれから経験するものを最後まで見届けてみたいと思った、どうだ?」


「いいんじゃねえか? 村の警護はテアドラの考案でかなり効率的になったし、戦える者も増えたわけだしな。そのかわり、しっかり守ってくれよ?」

「あら、守ってもらってばかりじゃ二人が成長できないでしょ? たくさん悩んで、多くのことを経験し、また元気に帰ってきてくれたら、それでいいの。私は二人がしたいと思ったことを応援したいのよ」


 答えは出たようなものだった。

 テアドラの提案が決め手になったのは事実だが、ジオ一人ではライルとルージュは反対意見に寄ってはくれないだろうし、潮時だった。


「約束せい」

「ん?」


「必ずまたこの村に帰ってくると、約束してくれんか。何も成し得なくとも良い、いつでも帰ってきていいと心の何処かに留めておいてくれ」

「……うむ、承知した」


 大人が四人、二人の子どもの未来を本気で考えて話し合う。

 それはとても恵まれたことなのかもしれない。

 当の本人たちは、すっかり夢の中に誘われているのだけれど、大人たちがどれだけ真剣に考えてくれているのか、完全に理解するにはまだ時間がかかるだろう。

 それこそ二人に大事な存在ができて、その者の門出を見送る日が来たら、少しはわかるのかもしれない。




 翌朝、アクトとマリアが目を覚ますと、すぐに食卓に呼ばれた。

 外はどこまでも見渡せるような澄んだ青色で、雲ひとつない快晴だった。


「よかろう、お主らの旅は許可する。じゃが条件を二つ付ける」


 二人が食卓へ入ると、ジオは開口一番そう言った。

 奥の方、台所ではライルとルージュが朝食の準備をしていて、二人にとっては日常のありふれた音が聞こえてくる筈なのに、この時の二人には全く聞こえていなかっただろう。

 昨日の晩、唯一反対していたジオが真っ先にその言葉を口にしたことに、アクトもマリアも驚きを隠せないでいる。

 

「一つ目の条件は、お主らの旅にテアドラがついて行くことじゃ」

「え?」


 きっと、アクトとマリアの声は重なっていただろう。

 二人は旅に出ることをテアドラにさえ言っていなかった、それはテアドラがいなくなるということがこの集落にとって、どういう意味なのかを理解しているつもりでいたからである。

 だから二人だけで旅に出て、数人の冒険者パーティというものを組んで、世界中を周るつもりでいたのだ。

 本音を言えば、アクトもマリアもテアドラを誘いたかった。

 十年もの間、毎日修行をしてくれて、自分たちの成長に誰よりも尽力してくれた恩師なのだ、これから先も自分たちの隣で成長を見せたいと思うことは、至極自然なことである。


「テアドラは一度帰って、昼過ぎにもう一度ここに来るそうじゃ。その時に詳しく本人から聞くといい。して、もう一つの条件じゃが……この村へ、いつの日か帰ってくることじゃ」


 ルージュが朝食を運んでやってくる。


「もう、村長? 昨日たくさん泣いたのに、また泣いちゃうんですか?」


 ジオは、揶揄うルージュに文句を言いつつ、乱暴に目を擦る。

 ルージュは微笑みながらも、逃げるように台所へと戻っていった。


「じっちゃん、ありがとう」

「礼はいらん、その代わりわしが生きとるうちにまた帰ってこい」

「じゃあ、じっちゃんには長生きしてもらわねえとだな!」


 ライルとルージュも食卓に混ざり、賑やかな朝食となった。

 アクトにとっても、マリアにとっても生まれた時から当たり前だった光景。

 ライルとルージュがご飯を作ってくれて、ジオを含めた五人で笑ったり怒ったり、騒がしいけれど楽しい空間。

 

「改めて、俺たちこの村を出て、いいんだよな?」

「お母さんとお父さんも、いいって言ってたもんね?」


 先程のジオの発言は二人の出立を認めるものだったけれど、ライルとルージュからももう一度聞いておきたかったのかもしれない。

 二人は、もっと反対されると思っていたのだろう。

 子煩悩な三人の愛情を溢れるほどに受けてきているのだ、村を出ることすら困難なのではと思っていた。


 しかし、実際のところはライルもルージュも一度も反対しなかった。

 ジオも反対から始まりはしたものの、一日経てば二人を後押ししてくれている。

 順調過ぎると、却って不安になるのも仕方のないことなのかもしれないけれど。


「おう、俺たちはお前たちの旅に賛成だ。テアドラもついて行くみたいだしな、少しは安心できる。お前たちが健康で元気にこの世界を巡り、いつかまたこの村に帰ってきて、見てきたものや感じたこと、出会った人たちのことを俺たちに語ってくれたらいいさ」

「そうね、私たちはいつでもこの村で、あなたたちの帰りを待っているから。思うままに旅を楽しみなさい」


 ライルもルージュも快くアクトとちの旅を応援してくれる。

 拍子抜けというべきかどうか怪しいところではあるけれど、事実としてアクトたちは無事旅に出ることができそうなので、素直に喜ぶのが普通なのだろう。

 

「ありがとう皆、俺もマリアも必ずこの村に帰ってくるから。もっともっと強くなって帰ってくるよ」

「アクトのことは私がしっかり見ておくから安心して。それにテアドラさんも一緒に来てくれるなら、無茶はしない筈だから安心して」


 別れが確定し、日常に終わりが来ることを全員が理解した。

 今生の別れではないとはいえ、旅が安全な保障などどこにもないわけで、皆どこか不安を抱えつつも、笑って見送ろうとしてくれている。

 本当に愛されているのだと、二人は実感できたことだろう。


「さて、テアドラが来る前に旅の準備も済ませとけよ。俺とルージュはこの後少し出かけるから、留守番頼むな」

「そうじゃな、あやつが来るのは昼過ぎじゃ。まだ少し時間がある、今のうちに支度を済ませるといい」


「え、でも俺たちいつ出るとか言ってない筈だけど……」

「馬鹿もん、できることならすぐにでも出たいのじゃろ。聞かずともわかるわい、何年一緒におると思うとるんじゃ。テアドラが来たら、そのまま旅に出るといい」


「お父さん、お母さん……本当にいいの?」

「いいのよ、マリア。前にも話したけれど、私たちだって昔、旅をしてきたんだから。二人の気持ちは理解してあげられるわ。それにね、早く行かないと村長があなたたちを引き止めちゃうわよ? きっと今だって見栄を張っているだけでしょうし、ね?」


 ライルとルージュが笑い、ジオがいじけたように文句を並べる。

 二人が大好きだった日常、それらに別れを告げなければいけないのは、アクトとマリアも同様に寂しいのだ。

 笑いながらも溢れてくる涙を、マリアは大事に拭った。

 

 朝食を終え、ライルとルージュはどこかに出かけていった。

 ジオも一度家に帰り、昼過ぎにまた来ると言い出ていってしまった。

 残されたアクトとマリアはそれぞれ自分の部屋に戻り、旅の支度を始めた。


 アクトは小さい頃から、この家で生活していた。

 ジオは村長という役目のため家を空けることが多く、幼い子ども一人に留守を任すわけにいかず、ライルたちと話し合った結果、アクトはライルたちと同じ家で過ごすことになったのだ。

 

「アクトー? 私は準備終わったけど、そっちはどう?」

「ああ、こっちももう終わってる。にしても今日このまま出発か……」


「そうだね、いざとなったらこっそり抜け出そうとしてたけど、そうならなくてよかったね」

「本当だな、こうしてちゃんとこの村を出る方がいいに決まってるもんな」


 二人はそれぞれの荷物を玄関に置き、皆の帰りを待つことにしたようだが、その時間はすぐに終わった。


「アクト、マリア……俺だ」


 玄関のドア越しに、テアドラの声が聞こえた。

 アクトもマリアも急ぎ玄関を開け、テアドラを迎え入れる。


「もう準備はできているようだな、既に聞いているとは思うが、俺もついていくことになった。邪魔にはならんようにするが、これからは対等な仲間だ。遠慮などするなよ?」

「師匠がついて来てくれんなら、最高だよ。もともと俺もマリアも誘いたいって話してたんだ……でもこの村を守る人がいなくなるからって、誘えなかったんだ」

「この村はお前たちが思っている程ヤワではない。俺がいなければならないということはないさ……」


 テアドラは家に誰もいないことに気が付き、今のうちにできることをやっておこうと提案する。


「計画?」

「そうだ、自由気ままな旅とはいえ、最初の目的地くらいは決めておこう。この村から最も近いのはエスプ・ヴィレという多種族が共存する街と、その手前に、確か……オブリエという美しい景観の小さな村があった筈だ。これからの旅の拠点としてはエスプ・ヴィレの方が相応しいと思うがどうだ?」


「テアドラさん、相応しいって何でですか?」

「そうだな、昨日お前たちは冒険者になると言っていたな。それにはギルドで手続きをしなくてはならん。オブリエにはギルドがなく、エスプ・ヴィレにはギルドがあるというだけだ」


 アクトもマリアも、納得した顔でテアドラを見上げる。

 最初の目的地が決まったようだ。

 タイミング良く、ライルとルージュ、ジオも戻って来たようで、遂にその時がやってきた。


 アクトたちはそれぞれの荷物を背負い、村の入口に向かった。

 当然ジオやライル、ルージュも一緒に向かっている。

 道中、空気が重たくなることもなく、いつも通りにしてくれているのは、きっと彼らの優しさなのだろう。


 入口に着き、アクトとマリア、そしてテアドラは村の方を向き、その景色を目に焼き付ける。

 ジオたちはアクトたちと向き合うように立ち、その瞬間を待った。


 自然と皆口を閉ざしかけたが、ライルは一歩前に出て豪快に声を上げた。


「アクト、マリア……俺が伝えたいことは一つだけだ。たくさん学んでこい!」


 ライルに続き、ジオが三人を見送る。


「そうじゃな。儂からはこれを三人に贈ろう、護石じゃ……御守りくらいにはなってくれるじゃろう」


 その手に握られていたのは、護石と呼ばれるものであり、本来は結界を張る時に媒介として使用するのだが、ジオが差し出したそれはネックレスに加工されており、結界を張るには小さすぎるけれど、お守りとしては確かに効果がありそうだった。


「儂は、この石を通じてお主らの安全を祈り続けておる、気をつけていくのじゃぞ」


 ジオの目には涙が滲んでいたが、それを言うとまた怒り始めるので、今回は皆空気を読んで触れないことにしたらしい。


 そして、最後にルージュが口を開いた。


「テアドラさん、二人のことよろしくお願いします。これ、何かの助けになれば……」


 ルージュがテアドラに手渡したのは、中級回復薬だった。

 この村では滅多にお目にかかれない高級品である。

 完成品はおろか、その素材さえこの村では貴重なのだ。


 しかし、流石は元冒険者。

 ルージュは昔採取して保存していた素材と、この村でわずかに取れる素材を合成し、三本の中級回復薬を準備してみせたのだ。


「これはありがたい、大事に使わせてもらう」


 これにはテアドラも驚いたようで、素直に感謝していた。

 ルージュは軽く微笑み、アクトの前へと移動した。


「……アクト、大きくなったわね。体に気をつけて、これからの旅を精一杯楽しんできなさい。アクトにはこれを」


 ルージュはアクトに短剣を渡した。

 一見、普通の短剣だが、ルージュが渡したそれは手入れが行き届いており、切れ味だけで言うのであればテアドラが持っている大刀にも匹敵する程のものだった。


「アクト、素材を剥ぎ取る用の短剣欲しがってたでしょ? お母さんからのお祝い、どう? 嬉しいかしら?」

「……ああ、ありがとう! 大事にする、でもこれどうやって?」


「ふふ、ライルと一緒に作ってたのよ。私もライルも鍛治のスキルはそこまで高くなかったから、必死で練習してたのよ、久しぶりに自分のスキルを鍛えるなんてことをしたわ。でも、それが大事な息子の為だと思えば、楽しかったわ」

「だから最近二人とも帰りが遅かったのか?」


 ルージュは照れたように笑い、同時にそれは答えを示していた。


「簡単なものだけれど、ちょっとした効果を付与してるから、楽しみにしてなさいっ」


 アクトは短剣を大事にしまい、もう一度感謝を伝えた。

 最後はマリア、ルージュにとってもライルにとってもかけがえのない娘である。


「マリア、アクトとテアドラさんのこと、しっかり守ってあげなさい。それと忘れないで……マリアが何を得ようと、何に失敗しようと私たちは変わらない。あなたが私たちの娘であることは変わらないの。今日までも、そしてこれからもずっとあなたは私の誇り、自慢の娘なんだからね? みんなの帰りを楽しみに待ってるからね。はい、マリア……欲しがってたやつ、貸してあげる」


 マリアはルージュが口を開いた時には既に泣いていたが、母から託されたものを見て、更に涙が溢れてくるのを止めることができないでいた。

 マリアが受け取ったのは、ルージュが冒険者時代に使っていたと言っていた長杖だった。

 神聖な力を感じ取ることができそうなそれは、マリアが回復魔法に目覚めた時からねだっていたものであり、ルージュはずっとそれを断り続けていたのだ。


「お母さん、ずるいよ……」

「あら、あげるなんて言ってないわよ? 貸すだけ、ちゃんと返してよね? でも、自分のことを最優先にして、この杖を守るために無茶なんかしないで、いい?」


 ルージュは優しくマリアの頭を撫でて、そのままアクトの方を見る。


「アクト、おいで」


 アクトは言われるがまま、二人の側に歩み寄るが、いきなり引っ張られてしまう。

 

「二人とも、いってらっしゃい。愛してるわ、私をあなたたちの母親にしてくれてありがとう。二人の成長が何よりも嬉しい、二人の笑顔が何よりも大事なの。お母さんはこの村であなたたちを待ってるから」


 ルージュは二人を抱きしめながら、涙を流し綺麗に笑った。

 小さい頃から、何度もこうして抱きしめられていた。

 褒められた時も、怒られた後も、ルージュは二人を抱きしめて笑っていた。


「……行ってきます、ありがとうお母さん」

「ええ」


 マリアはルージュの胸で声を出して泣いている。

 アクトの目にも、溢れそうなほど涙が溜まっているけれど、アクトは泣くまいと上を見上げて堪えている。

 しかし、アクトにも伝えたいことが山ほどある。

 ライルに対しても、ジオに対しても。

 今はまだ恥ずかしくて伝えられそうにないけれど、ルージュに抱きしめられているこの状況なら、ルージュにだけは伝えられそうだと思ったのかもしれない。

 アクトは遠慮がちに口を開いた。


「あ、……ありがとう」

「ええ、どういたしまして」


「俺も母さんの子でよかったって思ってるから……」

「え?」


 アクトは初めてルージュを母と呼んだ。

 目から流れる涙のことはもう気にしていられなかったのだろう、それよりも目の前の大切な人に自分の気持ちを伝えたかったのだ。

 そして、ルージュも不意打ちを食らってしまった。

 まさかここでそう呼ばれるとは思っていなかったのだろう、嬉しさで涙も笑みも自然と溢れてしまう。


「もう、アクトに泣かされる日が来るなんて!」


 もう一度、ルージュは二人を強く抱きしめた。

 照れるアクトと楽しそうに抱きしめるルージュ、泣き続けるマリア。

 紛れもなく愛に溢れた親子の形だった。


「もう行くよ、絶対また帰ってくるから」


 アクトは三人の顔をよく見て、力強く宣言した。


 見送る三人は、皆笑ってくれていた。


「いってらっしゃい」

「いってきます!」


 旅立つ者と、見送る者。

 涙はあれど、彼らの表情は明るい。


 アクトとマリア、そしてテアドラの旅はこの日、遂に始まったのだ。

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