第27話 光延
井関は静かに光延の恐ろしさを語る。
「流石に危険と気づいて逃げ始めたのだが……時すでに遅し。大量の鵺が現れて、僧侶たちを蹂躙し始めてな。阿鼻叫喚じゃった……………………」
「鵺?……」
遠い目をする井関と鵺が大量に表れたことが気になる康隆。
「わしはそこの平蔵と剣術の修業をしていた故に、何とか鵺を数匹倒して脱出出来た。あとから討伐に来たときはおびただしい数の僧侶の死体が動く屍人になっておった。奴らは法力を使って攻撃してきたそうじゃ」
「うげぇ……………………」
顔を曇らせる康隆。
屍人とはゾンビのことで動く腐乱死体である。
生前の能力を引き継ぐので厄介なのだ。
そこまで話すと鬼平が話始めた。
「わしはこの井関の通報を受け、即座に討伐隊を編成して寛永寺を攻めたのだが、返り討ちに遭った。何しろ僧侶の屍人は法術を使って攻撃してくるし、大量の鵺もおった。とても倒しきれるものではなかった」
苦々しい顔になる鬼平。
「孤立していた将軍様を何とか救出したものの、幕府の威信を大きく傷つける所業に許せるものではない。討伐軍が即座に編成されたが、光延が恐ろしく強くて中々倒せなんだ……………………」
苦々しい顔の鬼平。
「最終的に光延を倒したのは横綱級傾奇隊『六松』でな。多大な犠牲を払いながらも何とか倒せた」
「なるほど……………………」
恐ろしい被害を出したことだけはわかった。
わかったのだが……………………
「それで、結局光延はどういった妖術を使ったのでしょう?」
最大の本題を尋ねる康隆だが、これを聞いた鬼平と井関の顔は渋い。
「それがのぅ……………………結局わからんままなのだ」
鬼平が困り顔で答える。
「わしが鬼の剛体で切り付けても斬ることが出来なんだが、何故かクナイは刺さった。それもかなり深々とな。薙刀で斬りつけても金棒で殴りつけても槍で刺しても弓で当てても、傷一つ付けることが出来なかったのにクナイだけはやたらと効いたんじゃ……………………じゃからクナイや手裏剣で総攻撃して何とか倒したんじゃよ」
「あれは本当に不可解じゃった……………………」
鬼平の言葉に首を傾げる井関。
「それはまた……」
康隆も不思議そうに首を傾げる。
通常、クナイや手裏剣が効くような相手には刀はもっと効く。
また、斬ることは難しいが金棒で叩くのは有効な敵も居るし、その逆もまた多い。
だが、両方効果が無いのにクナイだけ刺さるというのは不可解だ。
また『斬る』と『叩く』は効果が無くても『刺す』は効果があってもおかしくはない。
既存のまともな武器では一切効果が無いと言うのは不可解だ。
「その後、珊瑚の世から生きていると言われている神人や元人に聞いても『今までに見たことも聞いたことも無い』とも言われてのぅ……………………結局不明のまま終わったんじゃ」
「それはまた……………………太古の文明から生きている神人や元人でもですか?」
この世界には神人や元人と呼ばれる永遠の寿命を持つ種族も居る。
当然ながら太古の昔より生きている時代の生き証人でもあるのだが、そんな彼らでも見たことが無い妖怪とは如何なることだろうか?
鬼平は続けて言った。
「彼らが言うには『新たな妖神が現れたのではないか?』とのことだ」
「……………………えっ?」
顔が蒼白になる康隆。
「そもそも妖神は最初からこの豊葦原世界に居たのではない。魚人文明を滅ぼした砂漠神
「……………………では、いま暴れている妖人の神様とは?」
「恐らくは新たに異世界より来た妖神であろう」
康隆も蒙波も顔が青ざめた。
まったく未知の神様では対処のしようがない。
この世界の技術とは神様に紐づいたものである。
技術=神様の世界なので新たな神様は当然ながら新しい技術を持っている。
八百万と言ってもいくつかの神群に分かれており、
魚の神様を中心とした波流神群
木と虫の神様を中心とした陰陽神群
竜の神様を中心とした気功神群
鳥の神様を主体とした聖歌神群
獣の神様を中心とした変化神群
仏を中心とした仏陀神群
に分かれている。
邪神は邪神で別の小規模な神群を作っているのだが、彼らは個別に別の技術を持つ。
となれば、全く未知の不可解な技術を持つ妖神が暴れるのだから対処法も全くわからないのだ。
昨晩の話でそれを聞いたばかり……と言うかその対処法を知るために聞きに来たのだから、二人の顔が青くなるのも仕方がない。
鬼平ががはははと笑う。
「すまぬな。魔王を討伐したいと言ってきたのに力になれなくて」
「「あはははは」」
困り顔で愛想笑いを返す康隆と蒙波。
((そんなこと言ってねぇよ! ただ聞きに来ただけだよ!))
身の安全の為に聞きに来ただけなのに、いつの間にか討伐をしたいという話に変わっていた。
とは言え、幕府のお偉いさんなのでツッコむことも出来ない。
鬼平はぽんぽんと康隆の肩を叩く。
「ひょっとすると、お前さんはうまぶきの利平治の生まれ変わりかもしれんなぁ…」
「…うまぶきの利平治ですか?」
聞きなれない名前に首を傾げる康隆。
「昔、俺の部下にそういう奴が居てな。わしの不注意で死なせてしまった……ひょっとすると、お前はそいつの生まれ変わりかもしれんと思ってなぁ……」
「はぁ……」
何だか悲しい話になってきて困惑する康隆だが……
(だったら、ちゃんと話を聞けよ!)
(不注意で死なせた部下の生まれ変わりに、不注意で魔王討伐させようとしてないか?)
矛盾する鬼平の話に困惑する康隆と蒙波。
すると、井関が苦笑した。
「平蔵。それでもう五人目だぞ? 何人生まれ変わりが居るんだ?」
「そうだったか? がははは!」
豪快に笑ってごまかす鬼平。
((適当にそう言っときゃいいと思ってないか?))
平蔵のいい加減さに呆れる康隆と蒙波。
井関は更に笑う。
「大体、利平治が死んだのは5年前だろう? 計算が全然合わんぞ?」
「それもそうか! がはははは!」
「「ははははははは」」
豪快に笑う鬼平に合わせて康隆と蒙波も笑うが、心の中ではこう思っていた。
((ツッコミてぇ!))
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