第26話 火付盗賊妖怪改方
火付盗賊妖怪改方とは、早い話が江戸の町でやべえ案件だけを専門に取り扱う場所である。
奉行所はあくまでも市役所兼警察署兼消防署兼裁判所なのだが、その中でも特に凶悪な犯罪だけを取り締まるのがここである。
北町奉行の遠山金次郎、南町奉行の大岡越前、火付盗賊改方の鬼平と言えば、江戸の町を守る三英傑として有名である。
そんな鬼平の仕事を二人は受けたのだが……
「中々見どころのあるやつらではないか。教えてやろう」
あっさりとご本人が教えてくれた。
鬼平こと長谷川平蔵は鬼人の武士で額には二本の角が生えている。
荒事専門ということもあって、あらゆる種族の中で武闘派である鬼人である彼には適任と言える。
目と顔つき自体は細いのだが、筋骨隆々としたマッチョで康隆よりは背は低いものの、190㎝はある長身の大男である。
康隆と蒙波が火盗専門の傾奇寄場にある受付所で光延の情報を聞いていたら、本人が教えてくれることになり、奥の部屋に通されたのだ。
この部屋は簡素な造りでおそらくは会議などをする場なのだろう。
じゃらり……
首からぶら下げた二重の金のネックレスをならして、どっかりと畳に座る鬼平。
ちなみに康隆と蒙波は畳に正座して畏まっている。
「あの光延というのはわしもかかわりがあってな。元は知り合いの住職から救難要請から始まった……」
そう言って、光延について語り始めた。
「元は寺の前に捨てられていた赤子でな。住職がかわいそうだと育てたのが始まりでな。類まれな才能に恵まれて大層な法力を持つ法師になった……」
静かに話しをしていると、一人の法師が入ってきた。
「平蔵。邪魔するぞ」
「おお! 井関か! 良いところに来た!」
大男の法師が入ってきたので嬉しそうな鬼平。
男は大柄で身長は220はあるだろうか? 黄緑色の髪をしているが、前に赤紫の流星が入っている。
何故か額に鬼灯の入れ墨をしているのだが、中々かっこいい男だ。
水色の袈裟に黒の法衣という簡素な僧侶服を着ており、アップバングにした髪とよく似あっている。
そんな男がどかっと座って静かに言った。
「光延の話をしていると聞いたのでな。わしが必要かと思った」
「この男が先ほど言っていた住職でな。名を井関と言う」
「一応、光建と言う法名があるんだが?」
「固いこと言うな」
そう言って軽く笑う鬼平。
「この男は今でこそ安寧寺の住職だが、その前は寛永寺で修業しておってな。その時に光延と一緒に修業しておったんじゃ」
「わしが素浪人として諸国を放浪して虚しさを感じて寺で修業を始めた時、奴は既に緑色の袈裟を着けておった」
そう言って自分の水色の袈裟を手に見せる。
「若くして7級の僧侶だ。だが、奴は法力こそ優れておったが心の方はまだまだでな。他の僧侶と度々衝突を繰り返しておった」
遠い目をして語る井関。
「そんなある日のことじゃ。寺の不忍池から呪術の道具が出てきてな。将軍を呪うような文言が書かれておって大騒ぎになったんじゃ」
「呪術の道具ですか?」
康隆の顔が曇る。
魔法のようなものがある世界において呪術は文字通り呪術である。
人を遠隔で狂わせる危険な魔法なので禁止されている。
「寛永寺は歴代将軍の菩提寺であるので、かなり本格的に調査された結果、光延が怪しいと言われ始めたんじゃ」
「うーん……何と言うか……苛めっぽいと言うか」
「怪しい策謀の匂いがするな……嵌められたか」
康隆と蒙波が苦笑する。
やったかどうかは関係なく、元から嵌める為に仕掛けられたのだろう。
「夜中に池に何かを捨てていたという証言も出てきた。そうなると一層怪しくなってきて、事もあろうか奴は雲隠れしおったのじゃ」
「うわぁ……」
「これはまた……」
最大の悪手ではあるが、このままいても確実に冤罪を着せられて死罪は免れなかっただろう。
幕府としても何かしらの犯人を出して処罰しなければ面目が立たない。
「元々、寛永寺の次の住職の跡目争いもあったからのぅ。何しろ将軍の菩提寺じゃ。僧侶同士の権力争いも激しかった。特に奴は現住職の養子にして、類まれな天才法力僧。やっかみも人一倍強かった」
残念そうに眼を伏せる井関だが静かに言った。
「そんなある日のことじゃ、将軍様がお参りに来られている時に、ふらりと光延が戻ってきおったのじゃ。ライバルじゃった僧侶がここぞとばかりに『この裏切者め! 成敗してやる!』と言って法術で攻撃してきたのじゃが……それが跳ね返ったんじゃ」
「……跳ね返った?」
怪訝そうな顔になる康隆に井関が軽く印を結んで経を唱える。
「……光源創造発願!」
ぼう……
4人の目の前に軽い光の珠が浮かぶ。
『光源経』の法術で光を放つ珠を作る。
そして、すぐに別の次のお経を唱える。
「……法力消失発願!」
しゅん……
あっさりと光の珠が消える。
井関は続けて言った。
「このように法術を打ち消す『消失経』はあるが、跳ね返す経は無い。『劫火経』を唱えたその僧侶はあっという間に焼死体になった……」
「「……………………」」
異様な話に顔を顰める康隆と蒙波。
ちなみにこの世界では法術はお経を読んで放つ。
「出てきた僧侶が次々と法術を放つが跳ね返ってしまう始末じゃ。次は僧兵が出てきて薙刀を振るったんじゃが……………………奴はそれを素手で受け止め、刃を破壊した」
「化け物じゃねぇか……」
蒙波の顔が青くなる。
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