第25話 神様の信仰

「そういや、前から気になってたんだけど、妖神を崇拝すると何でああなるんだ? 妖怪化の意味が分からんのやけど?」

 

 不思議そうにする康隆に真尼は答えた。


「私たちが普段使う技術体系は使よ。例えば、使使

「えっ? そうだったの?」

「お前……知らんかったのか?」


 驚く康隆に呆れる蒙波。


使使。私が陰陽術を使えるのもあくまでも蟲王の神官だからであって、同じように竜王神官は気功術を使えたりするわ。と言うよりもこういった技術は元々神様の奇跡の一部だったのよ」

「へぇー……知らんかった」

「そこは俺も知らんかった」


 あっさりと答える二人。

 康隆が一つ尋ねる。


「でも法術は誰でも使えるのは何で?」

使

「へぇー」

「ちなみに今言われている陰陽術とか気功術は全部法術との組み合わせで生まれたものよ。だから神官でなくても使えるのよ」

「なるほど」


 色々とややこしい制約もあるのだ。


「基本的に蟲人を生み出した蟲王様は蟲人全般に恩恵を与えてくれるのだけど、例えば太陽と月の至高双神である天道様、影道様、三界神である大空様大地様大海様の神官なら、その系統の祈祷術が使えるじゃない? それが亜人だったとしても?」

「そうなるな……あ、そういうことか!」


 言いたいことがわかった康隆はぽんっと手を打つ。


使!」

「そういうこと。例えば私が妖人になると蟲人の神官であって同時に妖神の神官にもなるから、両方の術が使えてより強くなれるのよ」

「なるほどねぇ……」


 うんうんと頷く康隆。

 そこで蒙波があることに気づく。


「でもそれだと、何で妖神の信仰がダメなんだ? 別に強くなるんなら良いんだろ?」


 この世界では妖神の信仰は全て禁止されているが、それにも理由がある。


「そもそもなのよ」

「乗っ取り?」

「ええ」


 真尼は苦々しく答える。


「一言で言えば彼らは異界の邪神でこの世界を乗っ取りたいだけ。今の神様を追い出して自分たちの世界に変えたいって思ってるの。だからこの世界の住人は全部邪魔なだけよ」

「皆殺し前提かよ!」


 あまりの恐ろしさにゾッとする蒙波。


「与える力が他の神様に比べて大きいのは、この世界を混乱させてその隙に眷属を拡大したいだけ。そりゃ乗っ取りたいだけなんだから、その世界で不満に思ってる人たちに変な力だけ与えるわよね」

「言うなれば、敵国の一揆に高価で強い武器を与えるようなものか」

「そういうことね」


 あっさりと答える真尼。


「魚人文明を滅ぼした旱王、魃王なんかがわかりやすくて、砂漠神沙場羅さばらは自身の眷属である『器物きぶつ』にとって命あるものは全て邪魔だったから人が住めない砂漠に変えようとしていたわ。だって、絡繰り妖怪の神様にとって人間なんて何一つ必要な要素なんてないもの」

「恐ろしい妖神だな」


 流石に震える蒙波。


「彼らが海を干上がらせたのは命を育む上で欠かせないものだから。それぐらい彼らにとって私たちは邪魔な存在なのよ」

「勝手すぎるだろ……」


 あまりの思い切りの良さに怖さを感じる康隆。


「そうなると、光延は何の妖神を信仰したんだろうな?」

「流石にそれはわからないわ。どんな妖怪になったのかわかる?」


 それを言われて渋面になる康隆。


「さあ? どうやったやろうなぁ?」

「よくはわからないけど、そういった妖神の眷属である魔王が復活したかもしれないんでしょ? だったら対処法は知っておいた方が良いと思うわ」

「それもそうだな」


 言われて納得する康隆。


「そう言えば次の依頼は火盗妖怪改方の依頼だったな?」

「そうだ。確か盗賊団『穴昆田』の討伐だったな」

「鬼平様に聞こうかな?」

「直接は教えてくれんだろ? でも部下の人なら教えてくれそうだな」


 蒙波が爪楊枝で歯を掃除しながら答える。

 真尼が何か言おうとすると康隆が先に言った。


「今回は一緒に付いてきたら駄目だからね」

「何でよ!」

「盗賊団の調査もやるから。だからかなりの長期の仕事になる」

「うー……」

 

 不満そうに唸る真尼だが、蒙波が笑って答える。


「安心してくれ。改方は男ばっかりだし、今回は多人数での仕事だからそんなに危険はない」

「そうそう。さすがに強盗団の成敗となると、御公儀もやる気出すからね」


 力を見せつける機会が少ない太平の世の中ゆえに、強盗団の成敗は腕の見せ所でこういったことにはやる気を出す。

 首を挙げるチャンスなので頑張ってくれるのだ。


「そんなわけで、明日はお留守番ついでに江戸の町を観光してまわったら? 何かと見どころも多いし」

「わかったわよ……」


 真尼は頬を膨らませて渋々承諾した。


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