第28話 張り込み
数日後……………………
とある民家の裏で康隆と蒙波が座って見張りをしていた。
「結構出入りが多いな」
康隆たちが見張っているのは盗賊団『穴昆田』が根城にしていると言われている倶楽部『錦蛇』である。
倶楽部というのは酒を出して踊ったり歌ったりして遊ぶ店で、楽師たちが良く行く居酒屋スタイルである。
元は鳥人たちが歌って踊って楽しむためのお店で、鳥人文明時における社交場であったのだが、昨今においてはいささか不穏な連中のたまり場となっている。
「倶楽部は無頼漢が良く出入りすると聞くけど、これは酷いな。半分以上、脛に傷持ちじゃねぇか」
「鬼瓦の現助、埼玉の芋造、茨城の権六……界隈の悪い奴が出入りしてんじゃねぇか」
倶楽部『錦蛇』の前には度々悪い奴が集まっていた。
そんな彼らの様子を見てため息を吐く康隆。
「それはそれとして、ここで何杯のお茶を飲んでいけば良いんだろうな?」
「毎日毎日飽きるよな」
張り込みは二十四時間体制の見張りなので根気が居る。
そのお陰で順番にも色々気を遣う。
「蒙波。そろそろ代わるぞ?」
「すいません。お願いします」
次の番の慎之介が来たので素直に変わる蒙波。
彼もまた、今回の盗賊団討伐の依頼に参加していた。
慎之介が来たので蒙波はこれからひと眠りして次の番まで待つ。
慎之介が大きなあくびをする。
「動きはどうだ?」
「大分激しくなってますね。どうやらそろそろ動く頃のようですよ。ただ……」
頻繁に人の出入りが激しくなっている。
ただ、気になる点と言えば……
「一向に穴昆田の火流(かる)炉(ろ)の姿が見えないところが気になりますね」
「そうだよなぁ……」
そう言って穴昆田の火流炉の人相書を見る二人。
この時代は人相書きが主流なので、これで判別するしかないのだが、『錦蛇』には近在の無頼漢が集まっては居るのだが、一向に本人は姿を見せない。
「首領である火流炉が出てこないことには御用するわけには行かないね。まあ、悪党自体は捕まえられるだろうが、首領を逃すと再び結成しかない……」
「だから泳がせておくってことですね……」
慎之介の言葉に顔が曇る康隆だが、心の中ではほっとしていた。
この仕事を受けたは良いがかなり根気のいる仕事で長丁場になる。
なので他の依頼がこなせなくなりそうだから最後に回したのだが、正解だったようだ。
と思っていたら……
「おい見ろ。ようやくお出ましだぞ?」
「あ、ほんとだ」
人相書きに書かれてある火流炉と同じ顔をした男が倶楽部『錦蛇』に入っていく。
一緒に入る男たちの動きからして、相応の地位にあるのは間違いない。
「こいつはぁ、いよいよだなぁ……」
「そろそろ動きそうですね……」
おそらくは強盗の準備が出来たのだろう。
「康隆。お前と蒙波はもう終いだろ? お頭に連絡してくれ」
「わかりました」
そう言って康隆は蒙波を呼びに行く。
蒙波は下の部屋でゆっくり休んでいたところに声を掛ける。
「おい行くぞ」
「どうした?」
「首領が現れた。お頭を呼びに行くんだ」
「わかった」
「俺は先に行ってるから」
そう言って、康隆は先に急いで外へと出る。
「……(じろり)」
倶楽部『錦蛇』の前で見張りをしている連中が訝し気に康隆の様子をうかがうのだが、怖そうに眼をそらしてそそくさと去る康隆。
(いま、厄介ごとは御免だからな)
ここで大暴れしては首領に逃げられる恐れもある。
慌ててその場を離れて路地の角で曲がる康隆。
「ふぅ……」
一息つく康隆。
「怖い連中が集まってんなー。怖い怖い……」
そう言ってそそくさと去っていく康隆だが……
「だーれだ♪」
後ろから可愛い声が聞こえてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます