第22話 八手パンダ

「ダメじゃ! あっちを見ろ!」

「あっち? どわぁ!」


 慎之介は月婆に言われた方向を見て驚いた!


「八つ手のパンダ!?」


 慎之介の視線の先には八本腕のパンダが居た!


 大きさは5mぐらいあるだろうか?

 二階建ての小屋ほどの大きさで、白黒の模様の入った大きな熊だ。

 その太い腕は八本あり、鋭い爪も長く伸びている。

 その様子を見て千穂ははっとする。


「そういや寛永寺には明から献上されたパンダが居たわね……」


 白黒の模様をした熊を幕府に送られたことがあったのだが、その熊は寛永寺で面倒を見ていた。

 それがどうも妖怪化したらしく、腕が八つになっていた。

 どこにあったのか大きな木槌を二つ持っており、巨大化もしていて凶悪だ。

 康隆が朦朧としながらも声を上げる。


「慎之介さん……………………上の男は眠りの砂糖をばらまきます……とりあえず下から離れないと……」

「そうだな……むむっ!」


 慎之介が眉を顰めて八手パンダを見る。

 

 ちょうど、


 こうなるとこいつを倒さないと屋根の下から逃げにくくなる。

 そして、どうもそれを狙っているように見えた。


「……知性があるのか?」


 冷静にパンダの様子を探る慎之介。

「千穂! とりあえず二人を寺の中へ入れろ!」

「わかったわ!」


 千穂は肩を貸しながら康隆と蒙波の二人を一部が崩れ落ちている廃寺の中へと入れる。

 一方、寺の屋根では……


「手ごわいのぅ……」

「厄介ね……」

 

 屋根瓦という不安定な場所での戦いに真尼と月婆は苦戦していた。

 法術を無効化する砂糖を撒くので真尼の術の大半が通用せず、月婆の金棒攻撃も壺で弾かれてしまう。

 だが、月婆は静かに言った。


「そろそろ大丈夫です。姫様おさがりください」

「わかったわ」


 そう言って辺りを警戒しながら下がっていく真尼。

 月婆は金棒を構えなおす。


「さてと……そろそろ終わりにさせてもらおうかの」


 そう言って月婆は金棒を振り上げて砂糖男に向かっていく!


すっ……


 砂糖男はいつものように壺を前に掲げて受ける態勢をとるのだが……


ぐしゃぁ!


 月婆の金棒は砂糖男の下の屋根を攻撃する!

 

 ぼろ……


 屋根は崩れてしまい、砂糖男は空いた穴に下半身が埋まってしまう!

 しかもそのせいで壺を上に掲げる形になってしまった!

 月婆は再び金棒を振り上げて言った。


「まだ詰めが甘いのぅ……」


ボグシャァァァァァ……


 月婆の横薙ぎの一撃で砂糖男の胴体が吹っ飛んだ!


ぽんっ……ころころ……


「おっと……」


 砂糖男の首を拾う月婆。


「一応、首は残しておかんとな……」


 妖怪の首はお金になるので、こういうところはしっかりしている月婆。

 一方、下の状況はと言われると……


ぶぉぉぉん……


 八手パンダの振るう槌が空振りする!

 慎之介は飄々とパンダの攻撃を避けていた!

 慎之介の刀は煌々と理力の光で輝いており、気功術で切れ味が増していることがわかる。

 

 


 地面にはパンダの手が6本転がっており、慎之介の顔にも余裕があった。


「すごい膂力なんだけど!」


ザシュッ!


「ふごがぁぁぁぁぁ!!」


 慎之介の一撃を食らい、更に腕が減るパンダ!

 なんとも言いようのない苦悶の咆哮を上げて苦しんでいる!

 

 ごろごろ……


 持っていた大木槌も地面に落ちてしまう。


「ごばぁぁ!!」


 少しだけ吠えて一本だけになった手で木槌を取ろうとするパンダだが……


ザシュッ!


「ぼごぉぉぉぉ!!」


 慎之介の容赦のない一撃で右足を切り落とされてしまう!

 こうなると大きくてもどうしようもなく、ひたすらに苦悶の声を上げてのたうち回っている!

 だが、それも少しの間だけで、八本の腕があった場所からは大量の血が流れており、出血の多さですぐに動けなくなってしまう。


「俺が居なかったら勝てたのにな……」


 そんなことを言いながら、慎之介はパンダの首を切り落とす!


ザシュッ!


 ごろん……


 パンダの首は綺麗に落とされてしまい、力なく地面を転がる。


「ふぅ……」


 汗を拭って上を見ると、あちらも決着がついたようだ。

 改めて寺の中へと入る慎之介。


「うわぁ……………………」


 寺の中は屑妖が大量にひしめき合っていた……

 そんな中、康隆と蒙波は……


「糞……」

「いつもなら簡単なのに……」


 朦朧としながらも近寄ってくる屑妖を撃退していた。

 そして、千穂はと言うと……


「迅雷発願!」


ばぢぢぢぢ!!


 同じように屑妖を大量に退治していた。

 入ってきた慎之介に気づいて千穂が悲鳴を上げる!


「終わった!? 流石にこれ以上は無理!」


 いくら弱くてもこれだけ大量に居れば万が一も起きる。

 それを知らない慎之介ではない。


「もう大丈夫だ。早く逃げるぞ!」


 そう言って三人を連れて慎之介は逃げた!


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