第23話 焼肉屋


「ありがとうございます……」

「本当に助かりました……」

「い、良いのよ。たっちゃんを助けるのは婚約者の務めよ……」


 そう言って居酒屋の畳に頭をこすりつける康隆と蒙波とそれを止める真尼。

 焼肉屋『徐々の奇妙な苑』でごはんを食べる前に平謝りする康隆。

 流石に今回は真尼達が居なければ屑妖のご飯になっていたところだろう。

 牛タンに葱をたっぷりのせて焼く月婆。


「うむ! 美味なり!」


 毛ほども康隆を気にする気も無い月婆。

 ちなみに慎之介達は倒したパンダの首を提出したことで、かなり懐が温かくなっていたので、礼は不要と遊びに行った。

 それはともかくとして、真尼は二人に困り顔で言った。

 

「もう良いのよ。折角の焼肉なんだし食べましょ?」

「うん」

「そうだな」


 二人とも気を取り直してごはんを食べることにする。

 机の上に七輪を置くスタイルでじゅわじゅわ焼いていく4人。


「はいラム肉と豚肉でーす」

「おお、来た来た」

「蒙波はラム肉好きだなぁ……」

「亜剌比亜(あらびあ)の方だとこっちが一般的なんだがなぁ」


 そうぼやく蒙波に月婆が尋ねる。


「豚は食うのか? あっちの人は豚嫌いと聞くが?」

「阿羅宗の戒律でな。食べたら極楽に行けないと言われている」

 

 そう言ってラム肉をタレに付けて食べる蒙波。

 ちなみに阿羅宗とはイスラム教みたいなものである。

 厳密には似て非なる仏教の一宗派みたいなものなのでご容赦して欲しい。

 

「あ、ごめんなさい。ごはんもください」 

「あ、俺も」

「えっと欲しい人?」


びびびび!


 全員が手を挙げる。


「ごはん4つください」

「わかりました」


 真尼は穏やかに店員さんにごはん4つ注文する。

 

 二時間後……


「食った食った……」


 十分食べて腹ごしらえが終わり、一息つく康隆が杯にある麦酒を飲むと真尼が怪訝そうに尋ねた。


「ねぇ……今日みたいなことはいつものことなの?」

「うーん……ちょっと珍しいかな?」

「そうだな……」


 改めて今日起きたことを思案する二人。


「確かに屑妖が大量発生している所に見たことない鵺系が居ることは多いけど……」

「そんなに強い鵺系は居ないからなぁ……」


 それを聞いて怪訝な表情になる真尼。


?」


 真尼の言葉に蒙波がそれに答える。


「そうだ。元が屑妖だから、生まれたばかりの鵺系って戦い方も定まらないから、そんなに強くはないんだ。鵺系自体はよく生まれるんだけど、他の妖怪に食べられたり、倒されたりと簡単に倒せるから大したことはないよ」

「慎之介さんも既に生まれた新しい鵺系を退治してたしな」


 実はこういったことは多々あるのだが、今回のように強敵が居るのは珍しい。

 康隆が楊枝でシーハーしながら話す。


「奻蜥蜴みたいなのは鵺系として生まれて、更に長いこと生き残って繁殖と生き残りを繰り返したから強いのであって、元から強い鵺系ってのは滅多にいない」

「この前の蜜柑といい、今日の砂糖男といい、あんなに強い鵺系がいきなり現れるってのは珍しい」


 

 長い年月を経ると経験を積み重ねて知恵を付け、更に厄介になる。

 康隆は少しだけ思案してつぶやく。


「ひょっとして……誰かがああいう強い鵺を育てているのかもしれない……」

「そんなこと……あるの?」

「あるよ」

「あっさり言ったわね」

 

 康隆の答えの速さに少しだけ訝しむ真尼だが、月婆が説明した。


「昨日、天空樹に鉄で出来たお爺さんの妖怪が居ましたでしょう?」

「そういえば居たわね……」

「屑妖自体が割と簡単に捕まえられるので、ああいった資源を増やす目的でわざと鵺を作ることも多いのでございますのじゃ……」


 実はこういったことは多々あるのだ。

 

「例えば紅玉と青玉を同時食べさせることで、両方を持つ鵺が生まれますのじゃ。そうなると飼育すると大量の紅玉と青玉が手に入りますので、大儲けできまする。ただ、生まれた鵺が必ずしも弱いとは限りませんのじゃ……中にはとても人に扱えるようなレベルではない妖怪が生まれることもありまする」

「なるほどね……」


 真尼も月婆に言われて納得する。


「そうやって生まれたなら、あの強さは納得できるな……」

「何しろ都合よく養育してるからな……」


 康隆も蒙波も実感しているだけに同意する。

 

「ちなみにタカはどう思ってるんだ? 誰が飼育してると思う?」

「……魔王かな? 北町の見分場のおじさんが言ってたけど、魔王が復活したって噂は本当かな?」

「そいつが近くに居るってことか?」


 蒙波の顔が渋面になった。



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