第13話 康隆と真尼

「そんなに昔から……そらまた何で……」


 それを言われて渋面になる康隆は鎧を外しながら言った。


「俺はよく覚えていないんだけど、真尼姫様が生まれた時に親父が俺を連れてお祝いに行ったらしいんだよ」

「そりゃまあ、当主の娘の誕生だからなぁ……」


 蒙波も普段着に着替えながらも相槌を打つ。


「その時に大人の目が無い時に俺が「可愛い♪」って言って姫様に接吻キスしたらしいんだわ」

「ああ……まあ、子供のやることだからなぁ……」


 言っても子供の戯れとして許される程度のことである。

 

がちゃがちゃがちゃがちゃ……


 鎧を片付けながら、次の言葉を待つ蒙波だが、同じように鎧を片付けて普段着に着替えている康隆。


「それから?」

「…………………………それだけで!」


 ぞっとする蒙波にあっさりと語る康隆。


「真尼姫様曰く『あの時に運命を感じた……………………目も耳もよくわからない中で私の唇の感触だけが全てだった……』ってさ。いや、赤子のころだよ? きっちり覚えてるとは思わないやん? がっつり覚えてたの」

「それはまた気合と年期の入った愛情だな……」


 馴れ初めのあまりの唐突さに震える蒙波。


「……と言うことは生まれてからずっと一途に思ってるってことか?」

「そうそう。母親も蜘蛛女で蟲王様の巫女をしていたから、その巫女修業のために5年の間だけ離れたから、その隙に逃走したの」

「なるほど……………………」


 康隆の身の上を聞いて驚きを隠せない蒙波。


「ほんで、お前としてはどうするつもりなんだ? その有様だと種付け王にはなれんだろ?」

「それが一個だけ抜け穴があってね。ご当主様も本妻が居たり、側室がいたのよ」

「……………………そうなのか?」


 意外な事実に驚く蒙波に康隆は説明した。


「元々、真尼姫のご母堂も側室だしね。要は『先に結婚した相手』には一歩下がるんだわ」

「へぇ……………………なんか相手の嫁さん皆殺しにしそうなイメージがあったけど」

「それじゃただの殺人鬼だろ?」

「まあ確かに」


 苦笑する蒙波。


「純愛絶対主義だから自分が『横やり』を入れてることを意識してるから、引け目を感じるらしい。だから、いくら嫉妬しても正妻や前の奥さんは必ず立てるんだってさ。実際、真尼のお母さんは正妻にだけは絶対に逆らわなかったから」

「筋は必ず通すってことか」


 その辺は色々と彼女らなり良心があるらしい。

 康隆は着替えながらも話す。


「だから、他の女と遊ぶには『』とそっちには一歩下がるから、蜘蛛女の取説にあるらしいのよ。『最後の側室は三大ヤンデレにするとそれ以上作らない』ってね。ちょいちょい側室を作る殿様に終止符を打つ為にあえてその女をあてがう正妻ってこともあったみたい」

「なるほどねぇ……」


 康隆の言葉に納得する蒙波。

 

「だから、意外にも嫁さん側が欲するってことは多いみたいだね。浮気ばっかりする夫に諦めて蜘蛛女、蛇女をあてがって仲良くやっていくとか。確実に浮気が止まるらしい」

「まあ、逃げようがないからな」


 苦笑する蒙波。


「だから、今回もなんとか撒けると良いんだけど、なんか方法無いかなぁ……」

「いやぁ……無理だろ? 逃げ切る方法が思い浮かばねぇな」


 そんな話をしていると、木戸の方が騒がしくなった。


「ここに入らせなさい!」

「だからダメですって!」

「姫様! 流石に入ってはダメです!」

「早く康隆を連れてきなさい!」


 木戸で揉めてる声が聞こえてげんなりする康隆。


「……たった数分も待つこと出来ないんだぞ? 絶対無理だろ?」

「どうにかできないかなぁ……」


 がっくり肩を落としてとぼとぼと木戸へ向かう康隆だった。

 ちなみにわかりにくいので単位は基本的に現代単位を使います。

 細かいことは気にしないで欲しい。


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