第11話 換金所
数分後……
仕方ないので康隆が詳しく説明すると爺さんは納得した。
「お前も色々大変だなぁ……」
そうぼやいてから爺さんは焼きゴテになった判子を、奻蜥蜴と謎の蜜柑に印を付け、奻蜥蜴の首だけ籠へと放り込む。
じゅぅぅぅぅぅぅ……
爺さんは鉄判子を水の中に入れて冷やし、蜜柑をマジマジとみる。
「こんな妖怪は初めて見るな……あの噂は本当なのかもな」
「あの噂って?」
「魔王が現れたって噂だよ」
言われて顔を顰める康隆。
「最近、そこかしこで見たことも無いような妖怪が現れ始めている。新しい魔王が現れたんじゃないかって話だ」
「なるほどねぇ……」
爺さんの言葉に腕を組んで首を傾げる康隆。
魔王とは有史以来、文明を破壊してきた妖怪の頭領だ。
かつて、この世界には様々な文明が興った。
魚人達が波流術で栄えた珊瑚文明
蟲人と森人が陰陽術で栄えた森蟲文明
竜人が気功術で栄えた竜王文明
鳥人たちが聖歌法で栄えた恐鳥文明
獣人たちが変化術で栄えた禽獣文明
様々な文明を経て、魔王が現れては世界を破滅させている。
それぞれが数千年近い長い歴史があり、大きく進んだ文明を築き上げてきたのに……………………それを脆くも破壊したのが魔王である。
「過去において魔王が現れた時に動乱が起きる。文明を破滅させないまでも世界がでんぐり返るなんてのもおかしくない」
「物騒な話だな」
嫌な顔になる康隆。
当然ながら、魔王自体は一人や二人ではない。
古代文明も幾度となく魔王を撃退してきたのだ。
だが、最後に現れた魔王になすすべもなく屈服してしまった。
今の文明もそうならないとは限らない。
首見分の爺さんは静かに言った。
「だから御老中の方々も必死で情報収集してるって話だ。お前も何かわかったら報告するようにしといてくれ」
「うぃっす」
そう爺さんに答える康隆。
爺さんは鉄判子を手で触って熱さを確かめてから、康隆へと鉄判子を渡す。
そして、最後に何枚かの札を渡した。
「ほれ。換金札じゃ。結構な金額になったぞ?」
「ありがとう爺さん」
そう言って爺さんに別れを告げる。
この札を換金所で交換することでお金に変えるのだ。
早い話がパチンコの換金所のような仕組みになっている。
何でこんなやり方なのかと言われると、ここで偽物の首を持ってきた奴がごねて脅してきたりもするからだ。
もっとも、そんなことをやれば指名手配を食らい、公儀の傾奇者としてやっていけなくなるので、やる馬鹿はあまりいないのだが、そうは言ってもやる奴が後を絶たない。
それはともかくとして、康隆は奉行所の中へと入っていく。
中は土間になっており、そこかしこに椅子がおいてあり、そこで一休み出来るようになっている。
鉄格子のついた受付に行って、康隆は看板娘に札を渡して一言。
「お虎ちゃんよろしく。相変わらず可愛いねぇ♪」
「康隆さんお上手なんだからぁ♪ はい番号札」
「たまにはデートしてくんない?」
「ええ~? どうしようかなぁ?」
そう言って思案気な顔になる受付嬢のお虎なんだが、その顔が急に青ざめる。
そして……
がしぃ!
康隆の頭が綺麗な手で鷲掴みになる!
「たっちゃん? 何をやってるのかしら?」
「いや、ちょっと他愛もない世間話を……」
真尼が壮絶な笑みを浮かべて康隆を睨む。
「デートがどうとか聞こえたけど?」
「気のせいじゃないかな?」
「あわわわわ……」
お虎が恐怖のあまりに震えて逃げようとするのだが、他の職員に止められる。
「番号札を貰ったらそこの席に座って番号が呼ばれるまで待っててください」
「わかりました」
そう言って康隆の頭をわしづかみにしたまま、ずるずると引きずっていく真尼。
びゅおん!
真尼の式神である蜘蛛美女の式神
「で? あの子との関係は?」
「えーと、まだ受付嬢と傾奇者間柄です」
「『まだ』?」
「永遠にその関係です!」
「よろしい」
そう言って糸を解く真尼。
そして康隆をぎゅっと抱きしめて囁く。
「たっちゃんごめんねぇ。真尼はちょっと嫉妬深いからすぐ勘ぐっちゃうの……」
「う、うん……そうだねぇ……」
震えながら真尼のべたべたとしたスキンシップを受容する康隆。
蒙波は呆れ顔でぼやく。
「あいつ……完全に忘れてやがったな」
「まったく……だからあの男は止めるべきだと婆は何度も申し上げておりますのに……」
あきれ顔でぼやく二人であった。
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