第10話 傾奇寄場
数時間後……
「今回は危なかった……」
天空樹を下りて江戸の町を歩きながら思い出して冷や汗を垂らす康隆。
見たことも無い鎌や槌を飛ばしてくる鵺が現れたことで、全滅しかけたのだから怖い。
(真尼が居て助かった……)
奻蜥蜴自体は康隆と蒙波の二人で何度も倒していたので、手慣れた簡単なお仕事だった。
(三匹同時での戦いも真尼達が居たから戦っただけで、本当は一匹ずつ倒すつもりだったし)
無闇に同時に倒す必要までは無いし、いつもなら二人で一匹を倒していた。
本来なら比較的楽な仕事ではあったのだが、それがこの有様である。
「とは言え、今回はこれも収穫できたからありがたいな」
そう言って蒙波は背負っていた刈り取った謎の蜜柑の顔を指さす。
初めて見る妖怪を刈ったり発見したりしたら、追加報酬がもらえるので懐が多少良くなる。
そんなことを話していると真尼が尋ねた。
「これからどこに行くの?」
「北町奉行所の横にある傾奇寄場(かぶきよせば)。傾奇者の受付はみんなあそこだから」
そう言って奉行所の横にある
傾奇寄場は柵で囲っているだけの『
一言で言えば首見分をするところで、色んな妖怪の首が並べられており、巨大な犬の首や魚の首、中には木の皮で出来た顔なんかもある。
そんな見分場の受付へと向かう康隆。
「ようタカ。お前も退治か?」
竜鱗を持った鰐竜人の眼鏡剣士が声を掛けてくる。
身長は普通よりちょっと低めだが、全体的にイケオジな伊達男で、着ている着物に粋に着こなしている。
上に縁の無い眼鏡を付けているのだが、鯉の意匠が施されており、かなりおしゃれだ。
髪は表側は緑青なのだが、風で髪がはためくと裏側に黄橙の髪が隠れているという変わった髪色をしており、それを左アップバングにしている。
そんな眼鏡イケオジの鰐竜人剣士に軽く挨拶する康隆。
「慎之介さん久しぶりっす」
彼の名は本村(もとむら)慎之介(しんのすけ)と言い、同じ傾奇者仲間である。
「慎之介さんも首見分ですか?」
「おお。こっちは『旭日楼』でこいつを退治してきた」
そう言って、大人の腰ぐらいまでの大きさがある巨大な老婆の首をどんっと出す慎之介。
奻蜥蜴同様に後頭部にも顔がある老婆で、どっちの顔にも額には大きな金剛石が付いている。
「金剛ババア! これ、旭日楼の最上階に居るって言われている超強い奴じゃないですか!」
「おうよ! 何とか一匹倒したんだよ!」
「すげぇ!」
大物を取った慎之介に感嘆する康隆。
「これは凄いな……………………」
蒙波も改めて嘆息する。
「中々倒せないと言われていた金剛ババアを倒すとは……………………」
デカい成果を上げた先輩にため息を吐くしかない二人に慎之介は聞いた。
「そっちはどうだ?」
「慎之介さん……………………絶対わかってて聞いてるでしょ?」
「はははは!」
「慎之介さんはいっつも勝てる時だけしか聞いてこないし!」
「はははは! バレたか! 別に良いだろ!」
そう言って持ってきた奻蜥蜴と蜜柑の首を見せる康隆。
奻蜥蜴は見慣れているのでそれほどでもなかったが、流石に新種の妖怪蜜柑を見て眉を顰める慎之介。
「最近多いなぁ……」
「……多いんですか?」
「ああ……」
そう言って公開されている妖怪の首……というよりは大きな花の一つを指さす慎之介。
「あそこにある花は
「それはまた……」
どうも新しい妖怪が出てくるのが増えているようだ。
慎之介は少しだけ顔を顰めて言う。
「見分場に飾ってある妖怪の首は注意喚起の意味合いもあるから確認しろよ。ちゃんと戦った時の様子とかも書いてあるから、いきなり当たっても変な攻撃を受けることも少ないし」
「すんません」
「気をつけます」
言われてその辺の確認を怠ったことに反省する康隆と蒙波。
「そんなら行くわ」
「うぃす」
「お疲れっす」
そう言って慎之介と別れる一行。
康隆たちは受付に付くと、取ってきた奻蜥蜴と謎の蜜柑を机に出して見せる康隆。
「爺さんたのむわ」
「あいよ」
そう言って持ってきた首を虫眼鏡で確かめる爺さん。
軽く確認した後、首を振ったりして、中身があるかどうかも確認。
偽物の首を持ってくる奴も居るので、この辺はちょっと厳しかったりする。
確認しながらも、手を出して何かを催促する。
「ほれ、判子を出さんかい」
「おっと忘れてた」
そう言って番所でも出した、懐から鉄で出来た大き目の判子を取り出す。
これは身分証明書の代わりで奉行所に登録している判子なのだ。
その判子を貰うと爺さんは簡単な器具を付けて火釜にくべる。
要は焼き印で、これを取ってきた首に印をつけてから、後で処理するのだ。
こうすることで登録のない傾奇者が勝手な活動を出来ないように防いでいる。
ちなみに先ほどの天空樹の前の番所では帰るときにも判子を押すので、やられても行方不明かどうか分かるようになっている。
判子が熱くなるまでしばし時間がかかるので爺さんが話しかけてきた。
「しかし、今日は随分と別嬪さん連れてるじゃねぇか。どうやって口説いたんだ?」
「口説き落としたというか、最初から居たと言おうか……」
後ろに居る真尼はそれを聞いて一歩前に出る。
「主人がお世話になっております」
「うぉう! 結婚してるのか? 一人と言ってなかったか?」
「いや、違うから! 真尼も話をややこしくしないで!」
「そうですぞ! 主人は姫様のほうで小奴は下僕でございます!」
「ババアも話をややこしくするんじゃねぇ!」
空気を読まずに話をまぜっかえす二人に康隆はやきもきした。
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