第8話 奻蜥蜴

 何か言い出した月婆はほっといてスタスタと歩き出す康隆。

 ちなみに月婆はスタスタと歩き始めたので演技なのだろう。

 ほどなくして洞の中へと入っていく一行。


 洞の中は結構広い空間があり、中に奻蜥蜴だんとかげが3匹居た。

 

 一言で言えば『女ケンタウルス蜥蜴』だろう。

 金棒を持った着流しを来た女で下半身は四つ足の蜥蜴の化け物だ。

 ただ、

 上半身だけ両面宿儺のように背中合わせで繋がっている。

 

「ぶばぁー……びぼぐぶぅー」


 訳の分からない言葉を発する奻蜥蜴だんとかげ

 真尼が顔を顰める。


「気持ち悪いわね。こいつを倒せば良いのね?」

「そういうこと」

「姫様はおさがりください。この婆が倒しますので」

 

 そう言って月婆が懐より面を取り出す。

 その面を掲げて月婆が叫んだ!


「ぬぅぅぅぅん!! 理晶力ぅううぃぅうぅう!! お色直し!!!!」


 ぱしぃぃぃんん……


 月婆がお面を付けると同時に面が光を放ち始めた!


 びゅろろろろろ……


 虹色の光が月婆の身体を包み始める……すると、!!


「「うげげぇ!!」」


 思わず目をそらす康隆と蒙波。


(うげっ! 久しぶり過ぎて忘れてた! このババアの変身にはこれがあった!)


 『

 元々は獣人の変身能力の補助に使われていたものだが、理力を使ってその能力を高めて高い戦闘力を付加することが出来る。

 お面のバリエーションを増やすことで様々な能力を持てるのが特徴。

 そんな月婆の変身形態はと言うと……


「美熟女武士聖羅! ここに見参!」


 そう言ってスリングショットと呼ばれるハイレグビキニに色んな装飾足したかのような衣装を身に纏ってポーズを取る月婆。

 金棒と戦輪を持った女戦士で異様な迫力があった。

 それを見た蒙波がげんなりとした顔になる。


「すげぇ恰好で戦うんだな……」

「月婆が戦うと魚は浮き、雁は逃げ、花は枯れ、月は吐くと言われてるからな。昔から『宇佐木んちのババア』って言うとやべえ奴の代名詞だし」


 同じようにげんなりとした顔で答える康隆は気を取り直して奻蜥蜴へと向き直る。

 

「とりあえず全部倒すぞ!」


 ジャギギン……………………


 そう言って康隆は腰の刀を二本取り出して構える。

 康隆は珍しい二刀流の剣士で、これが戦闘のスタイルになる。


「まずは一匹!」


 そう言って奻蜥蜴の一匹に取り掛かる康隆!

 一方、蒙波はと言えば、こちらは右手に小太刀を手に構え、左手で懐から癇癪玉のようなものを取り出す。

 癇癪玉とは指でつまめる程度の大きさの法力の籠った玉のことだが、これを投げつけることで遁術を扱う。

 特に忍者はこれによって多種多様な法術を扱うことが出来る。

 そんな癇癪玉の一つを奻蜥蜴の一体に投げつけて叫んだ!


「火焔の術!」


 ばおわぁぁぁん!


 あっという間に火に覆われる奻蜥蜴!

 持っていた三味線の弦が燃えて切れるのを確認する蒙波。


「まずは三味線のほうを封じてと……」


 


 なので前の女は金棒で殴りつけながら、後ろの女が三味線を使った聖歌攻撃を仕掛けてくるので、先にそっちを潰しておかなくてはならない。

 三味線が燃えて使えなくなるのを見計らって奻蜥蜴に小太刀で切り付ける蒙波!


 カン!


 あっけなく金棒で弾かれてしまう。

 流石に一筋縄ではいかないようだ。


 一方、月婆の方はと言うと……


「ぬぅぅぅん! 聖羅戦輪(セーラーチャクラム)!」


 ひゅわぁぁぁん……


 持っていた戦輪と呼ばれる丸い刃付ブーメランを投げつける月婆。


 ブチン!


 あっけなく背中の三味線の弦を斬ってしまう。

 そして、月婆が手に持っていた金棒で奻蜥蜴を殴りつける!


 ゴギン!


 金棒同士が当たる鈍い音が辺りに響き渡るのだが、打ち勝ったのは月婆だった。


 ずずず……


 足で踏ん張っていたのに、数歩分後ろに下がってしまう奻蜥蜴。

 足元に付いている摺り跡が月婆の金棒の威力を物語っている。

 

「大したことないのぅ……」


 つまらなそうに奻蜥蜴をあしらう月婆。

 言葉とは裏腹に一切の油断のない脚運びは老練の戦士ならではだろう。

 一方、康隆はと言うと……


「めんどくせぇ!」


 苦戦していた……

 実は康隆だけ、長距離攻撃を持っていないのだ。

 なので、背中に居る三味線女は法術を使い放題である。


「あばぁぁ♪」


 何やら歌を歌う奻蜥蜴だが、目の前に火球が現れて、康隆に襲い掛かる!


「ちぃ!」


 パァン!


 右肩についている肩甲で受けて火球を消し去る康隆。

 ちなみに日本鎧の仕組み状、肩の甲が凄く大きいのは、こうやって攻撃を受け止めるためである。

 本当は大袖という言い方をするのだが、ここではわかりやすく「肩甲」という言い方をする。

 それはともかくとして、肩で火の法術を受け止めた康隆だが、すぐに奻蜥蜴の金棒が襲い掛かる!


 ガキィン!


 金棒の一撃を左の刀でこらえる康隆。

 

「これで!」


 右の刀をそのまま突き出そうとする康隆だが……


 ぱち……ぱち……


(やばい!)


 火花が散るのを見て、雷撃の空気を読み取って一歩下がる!


 ばぢぢぢ!!


 康隆の居た所に雷撃が走り、間一髪よけきる康隆。

 

「キリがねぇな……」


 いら立ちが募り始める康隆。

 一方、月婆はと言うと……


「飽きた」


 ドゴォンン!


 金棒の一撃を奻蜥蜴の胴体を薙ぐと、女の胴体は完全に消し飛んで下半身の蜥蜴だけになってしまう。


 ぼとり……


 女の肩から上の部分だけが力なく落ちる。

 常識では考えられないレベルの膂力で、老練の能楽士が長年培ってきたゆえの能面の能力だが、その威力をまざまざと見せつける月婆。


「変身するまでも無かったのぅ……」


 そうぼやいてひょこひょこと真尼の側に戻る月婆だった。


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