第6話 天空樹
江戸の町は広いのだが、そんな江戸の町のシンボルと言えば『
江戸のど真ん中に生えている巨大な大木で高さは十町(1000m)と言われるているのだが、実際にはそんなにないらしい。
そんな江戸のシンボルでもある天空樹だが、中は妖怪の巣窟と化している。
遥か昔にあった『
そんな天空樹は危険な妖怪たちの巣窟になっており、そんなものが江戸のど真ん中にあるものだから当然ながら門番が居る。
天空樹の根元は大きな土塀に囲まれており、更にその周りには番所があるので、おいそれと妖怪が出てこれないようになっている。
康隆はそんな番所の受付に向かう。
「北町奉行所の依頼で来ました。辰の五番に入ります」
「依頼内容は?」
「えっとですね……………………」
門番に色々聞かれたので詳しく話して入る許可を貰う康隆。
ちなみに今は大鎧を付けて冒険用の装備を全て身に着けており、首に下げていた傾奇者の証しである鉄印を渡す。
すると、門番が持っていた人足帳にその判を押す。
「ほらよ。頑張って来いよ」
ぶっきらぼうにそう言うと、門を開けてくれる門番。
流石に根本付近は妖怪たちを毎朝退治しているので綺麗だ。
康隆たちは天空樹の根元にある蔦へと向かい、そこから上へと登っていく。
天空樹の周りにはでっかい蔦が巻き付いており、それが緩やかな傾斜を描いているので、そのお陰でこの縦に長い樹を歩いて登って行けるようになっている。
それを見て月婆は眉を顰める。
「ここを登るのか?」
「仕方ないだろ?」
嫌そうな顔をしつつも月婆は一緒に登ろうとするのだが……
「ちょっと待てお前たち」
「何でしょう?」
門番に呼び止められて振り向く康隆。
「辰の五番は注意が出ている。最近、帰ってこない傾奇者が多いから気を付けろ」
「帰ってこない傾奇者が多い?」
「ああ」
門番がそう言って人足帳を見せるので一度蔦から降りて確認しに行く康隆。
蒙波もそれに倣って同じように確認をし始める。
「これを見ろ。辰の五番だけほとんど帰ってきていない」
「……………………」
人足帳を見て顔を顰める康隆。
康隆同様に入りの判子は押してあるものの、帰りの判子が押していない。
これは、妖怪にやられて帰ってこないこと意味する。
傾奇者は元々無宿人なので死んでも自己責任であるがゆえに、こういったときはそのまま放置される。
だが、たまに骨を拾いに行って供養したりするためにも、こういった記録を残しているのだ。
また、帰ってくる人が少ないところは危険が増えているので、そういったこともわかる。
門番は神妙な顔になる。
「ヤバい妖怪が現れたのかもしれん。注意しろよ」
「……………………ありがとうございます」
それだけ言って登り始める康隆。
「気になるな……」
「ああ。さっさと終わらせてすぐ帰ろう」
蒙波とそう会話して上へと登って行った。
数十分後……
「ここは本当にしんどいのぅ……」
月婆が汗をだらだらかきながらも必死で登っている。
年寄りには流石にこの傾斜は辛い。
結構キツイ傾斜だが、真尼は涼し気な顔で康隆に尋ねた。
「どこまで行くの?」
「もうちょっとだからそろそろ準備しないと」
そう言って背負子を下ろしていくつかの道具を取り出す康隆。
月婆が不思議そうに尋ねる。
「何で最初から出しとかんのじゃ?」
「ここの場合は外側には滅多に妖怪が出てこないんですよ。幕府の監視もあるので」
そう言って空を巡回している鳥人たちを指さす蒙波。
江戸の空を飛びまわっている彼らは弓を常備しているのだが、必ずこの天空樹の周りを回っている。
すると、何かを見つけたようで、鳥人たちが集まって弓矢を射かけたり歌を歌いだしたりした。
「ららら~♪ るる~るる~♪」
遠すぎる上に遥か上空なので微妙に何を歌っているのかよくわからないが、何かを歌っている。
だが、歌うと同時に炎や氷などが生み出されて妖怪らしき連中へと殺到している。
見ると、何らかの妖怪が外に出ようとしていたらしく、その妖怪に弓矢と聖歌で攻撃しているようだ。
聖歌とは一言で言えば歌魔法だ。
普通の神官は自分の氏神以外の神様の力は使うことは出来ない。
真尼が良い例で蟲王の奇跡は行えるのだが、他の神様の力を使うことは出来ない。
だが、聖歌は全ての神にささげる祈祷ゆえにどの神様の力も使える万能の祈祷術になり、神の使いとも言える鳥人たちがよく使う。
「ああやって鳥人が江戸の町に出てこようとする妖怪を倒しているんで、天空樹の外側には妖怪は滅多に出てこんのですよ」
「なるほどのぅ」
蒙波の説明に納得する月婆。
準備を始めたことで真尼が尋ねる。
「ところで今日は何をやるの?」
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