第5話 依頼
まあ、とにもかくにも何やかやで事情説明を受けた蒙波は、慎重に言葉を選んで言った。
「つまり、『姫様に見合う男になるために武者修行の旅に出た康隆を追って真尼姫様が来た』ってことで良いんだな?」
「その通りでございます。まあ、一生かかってもこの人類の至宝と言うべき真尼姫様と見合うことはありそうにないと婆は思うでございますが」
「しなっと悪口を足してるんじゃねーよ」
「何々?『まさにその通りです』じゃと? はははは。ゴキブリめもようやく自分のことを理解したようじゃの」
「言ってねぇよ! 耳が遠いふりしてんじゃねーよ!」
さらっと毒を吐く月婆にツッコミを入れる康隆。
真尼が優しく言った。
「私はそんなこと一切気にしないのに……たっちゃんが居てくれるだけで幸せだからって言おうとしても、もう行った後だったから追いかけてきちゃった♪」
そう言って舌をペロッとだけ出す真尼。
さらっと言うがとんでもなく大変なことである。
この世界の旅はそんな簡単なものではない。
妖怪が跳梁跋扈する恐ろしい世界でもある。
そう簡単に女二人が旅できるものではない。
蒙波が不思議そうに尋ねる。
「しかし、女の二人旅は大変だったでしょう? 追いはぎや強盗も多いですし、妖怪、魑魅魍魎が跋扈するこの世の中によくここまで来られましたね」
「そこは何とかなるものですじゃ。姫様。式神を出してくだされ」
「わかったわ」
月婆の言葉に真尼は懐から一枚の符を取り出した。
「いでよ
ぼわぁぁん……
符の中から一体の式神が現れた!
見た目は裸の黒髪美女だろう。
だが、下半身は蜘蛛になっており、八本の足がわしゃわしゃと蠢いている。
陰陽師が使う陰陽術で彼らは式神と呼ばれる合成した精霊を使って様々なことを行う。
真尼が眼照亜と呼んだこれはそう言った式神の一種なのだ。
「姫様は『
「ああ、なるほど。だから巫女服なんですね」
月婆の言葉に納得する蒙波。
この世界では様々な神々が居るので当然ながら神様毎に巫女が居る。
神様にお祈りして奇跡を行うことを祈祷術と言い、真尼は巫女なのでそっちの方が本分なのだ。
だがこの世界では神様に応じて他の技術も使える。
その中でも陰陽術が扱えるのは蟲人の神様である『蟲王鎧節』と『
すなわち、真尼は『巫女にして陰陽師』というハイブリッドな職種になる。
それに続く形で月婆も話す。
「わしも昔から能楽士じゃからのぅ。長い年月を経て研鑽してきたこの面がある限り、そうそう負けたりはせん」
月婆も懐から額に結晶が付いた兎面を取り出してそう答える。
能楽士とは『面』を付けて変身して戦う者だ。
面を改造することで様々な変身が出来るのが強みで欠点は『持っている面の分しか変身できない』という点にある。
だが、面を変えることで変幻自在の力が使えるのでその辺は上手いこと扱うと恐ろしく強い。
そんな話をしていると、真尼がパンっと手を叩く。
「さて、話が終わったところで、じゃ、帰りましょたっちゃん!」
そう言って立ち上がる真尼だが、康隆は慌てて言った。
「まままま待ってくれ! ええと……既に受けている依頼はキチンとこなさないとダメなんだ! 長屋を引き払う必要もあるし、もうちょっとだけ待ってくれ!」
「ええー? そんなの要らないでしょう?」
必死で先延ばししようとする康隆に少しだけ頬を膨らませる真尼だが、月婆は諭すように言った。
「姫様。このゴキブリにも仁義を通す必要がありますのじゃ。このどうしようもないゴキブリにもやらねばならぬことがありますので、ゴキブリは置いといて私たちは先に帰って待っていましょう」
「いや、帰らないけど? さらっと帰る方向に持って行かないで月婆」
「左様でございますか」
窘めるふりして帰ろうと促してくる月婆とサラっとスルーする真尼。
なにやら軽い言い争いが始まりそうなので、こっそりと立ち上がる康隆。
「じゃ、そういう事なんで、俺はこれから依頼を「ついていくわ」……ですよね」
真尼の一言で一緒に依頼をこなすことが決まった康隆であった。
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