第264話 久しぶりの魔族さん
フェル姉ちゃんは森の妖精亭を千年樹の木材で建てるために色々やってる。
まずは魔界の宝物庫から何かの装飾品を持って来てもらうみたい。でも、フェル姉ちゃんはもう魔王じゃなくて魔神だからって理由で宝物庫の番人さんがちょっと渋ったとか。
でも、そこは今の魔王であるオリスア姉ちゃんが一喝。すぐに準備して送るって連絡があったって言ってる。ただ、フェル姉ちゃんは、確かにもう魔王じゃないからってちゃんと何かと交換で装飾品を貰おうと考えてるみたいだ。
普段からフェル姉ちゃんは魔界に食料を送っているんだから気にしなくていいと思うんだけど、それはそれ、これはこれって事みたい。
魔界へ送る物は普段送っている食料とは別の食べ物、なんか嗜好品みたいなものを送るって言ってたかな。それとヴィロー商会のラスナおじさんに頼んで人界の装飾品とかも送ることを考えているみたいだ。
ラスナおじさんのほうはフェル姉ちゃんから頼られてかなり嬉しそうだった。
ヴィロー商会はフェル姉ちゃんのお金を預かっているみたいで、そこから毎月の食料の料金を支払っている。ラスナおじさんが、たくさんお金を預かっているから準備する物の代金は不要ですって言ってたんだけど、フェル姉ちゃんが「それなら高級そうな素材を取って来てやるから何でも言え」って言った。
ラスナおじさんはそれを聞いてちょっと小躍りしてた。なにかこう強い魔物の素材をお願いするみたいだ。たぶん、ドラゴンとかその辺りの気がする。
そんなことがあって、魔界から装飾品が送られてきた。
持ってきたのはルネ姉ちゃんとレモ姉ちゃんだ。二年ぶりですごく懐かしい。今は森の妖精亭でフェル姉ちゃんと同じテーブルについている。もちろん、アンリ達もいる。
「フェル様! この総務部部長ルネ! フェル様がお呼びとのことでやって参りました! 職権乱用って素晴らしい……!」
「お久しぶりです、フェル様。ルネのお目付け役で一緒に参りました」
ルネ姉ちゃんはどこかの部長さんみたいだ。前に来た時とそんなに変わってないと思うけど強くなったってことかな?
レモ姉ちゃんは相変わらずぴっちりした鎧を着て腰にはインテリジェンスソードのタンタンを差してる。あと、眼帯もしてる。
たしか二人は友人だとか聞いたことがあったかな?
「レモはともかく、なんでルネは来たんだ? 大体部長だろ? それに職権乱用ってどういう意味だ? というか、挨拶だけでなんでこんなにツッコミを入れなきゃいけないんだよ」
「いや、だってみんな酷いんですよ。何度か人界へ食料を取りに来ていると思うのですが、私にその順番が回ってこないのです。部長だから行かなくていいでしょって。酷いと思いませんか?」
「部長やってんだから当たり前だろ。お前がいなくて部が回るなら、普段何をやってるんだって話だが?」
「普段、念話番とか雑用をしています!」
「いや、それ、誰でもできる……なんで部長になったんだ?」
「さあ? ご存知の通り、二年前、勝手に決められました。立候補した覚えはないのですがサルガナ様が推してくれまして。しかも、その間リコールなし。結構みんなには頼られているんですよ! 部長、これやってくださいってよく言われてます。これも私の人徳かと……!」
フェル姉ちゃんが疑いの眼差しでルネ姉ちゃんを見てる。そしてレモ姉ちゃんのほうを見た。あれはたぶん、本当か? って意味の視線だ。
その視線に対してレモ姉ちゃんは頷く。
「ルネは何かを指示したりはしないので、総務部は結構自由にやれてます。それにルネは人形を使って面倒な雑用を全部やってくれるので重宝してますね」
「ああ、そういう」
「初耳……!」
ルネ姉ちゃんは縁の下の力持ちってやつなのかな。部長さんって偉いんだけど、偉そうにはしないで皆のサポートに回っているポジションなのかも。それはそれでいい部長さんだと思う。
「ちょっとショックでしたが、まあいいです。それでは魔界から持ってきた装飾品をお納めください。宝物庫を防衛していたルキロフ様から力で奪い取った戦利品です。オリスア様は本当に容赦ないですよね」
「部長クラス同士っていうか、魔王と部長で戦うなよ。あの二人が戦ったら被害が大きいだろうが。だが、助かる。これが必要だったからな」
よく分からないけど、その装飾品を持ってくるのにルキロフって人が邪魔したのかな? 被害が大きいってことは、オリスア姉ちゃんと同じくらい強いのかも。
「さて、それでは任務完了ですね。このルネ、しばらくお休みを頂いて人界を満喫するつもりです。やほーい!」
フェル姉ちゃんはちょっと呆れた顔をしていたけど、咎めるつもりはないみたいだ。
「それじゃちょっと村長のところへ行ってミトルへ連絡してくる。木材と交換できる装飾品が手に入ったから見積もりをしてもらわないとな。ルネたちは羽目を外さない程度にな」
「うん、行ってらっしゃい。アンリ達はルネ姉ちゃん達とお話してる」
フェル姉ちゃんは一度だけ頷くと、森の妖精亭を出て行った。
ルネ姉ちゃんがアンリのほうを見て笑顔になる。
「アンリちゃん、久しぶりですね。お元気でしたか?」
「うん、元気。ルネ姉ちゃん達は元気だった?」
ルネ姉ちゃんもレモ姉ちゃんも笑顔で頷いてくれた。
「フェル様が人界の食料を毎月送ってくれますからね。それにポーションなんかの薬も送ってくれますから。まあ、私はお酒があれば病気になりませんがね……!」
「そうなんだ? でも、飲み過ぎは良くないと思う」
「飲み過ぎるほどお酒はないので安心してください。でも、今日はリミットを越えるつもりです。ところで、そちらのお二人は初めてですよね。スーちゃんはもちろん覚えてますよ」
「うん、私もルネちゃんは覚えてる。人形が強かった」
「えっと、私はクルって言います。一度だけ、ルハラでお会いしたことがあったんですが」
「ルハラで? ああ、もしかして傭兵団の人ですか? 確か三姉妹の末っ子さんでしたっけ?」
「あ、そうです。お久しぶりです。あの時はありがとうございました」
「いやいや、私は何もしてませんよ。ほぼすべてフェル様がやったことですし、見てただけと言っても過言ではないですね……!」
ルネ姉ちゃんはダメな事を言ってるのにものすごくドヤ顔だ。
「ところで、そちらの子は初めてですよね? ……なんとなく、リエルっちに似てますね?」
「あ、はい。マナって言います。えっと、リエル母さんの子共です」
マナちゃんがルネ姉ちゃんに自己紹介をした。確かにマナちゃんはルネ姉ちゃんと初対面。レモ姉ちゃんは一度村で会ったことがあるはず。
どうしたんだろう? ルネ姉ちゃんが動かなくなっちゃった。
「ルネ姉ちゃん大丈夫?」
「よー、ルネ、魔界から遊びに来たんだって? さっき広場でフェルに聞いたんだが――」
入口からリエル姉ちゃんが入って来たと思ったら、いきなりルネ姉ちゃんがリエル姉ちゃんに飛びかかった。
「リエルっち! つ、つ、つがいがいるんですか!? い、いや、つがいがいたんですか!? あの時、一緒に頑張ろうって誓ったじゃないですか! あの時から裏切ってたんですか!」
「ああ? 何の話だよ?」
「どんな手を使って男を篭絡したんですか! どうせ犯罪スレスレのことをしてたんでしょう!? 誰にも言わないから教えてください! さあ、さあ!」
「そんなの俺が知りてぇよ! なんだよいきなり!?」
マナちゃんの自己紹介は間違っていないんだけど、ルネ姉ちゃんにちゃんと伝わっていない気がする。ちょっとカオス状態だけど、楽しそうだから放っておいてレモ姉ちゃんとタンタンのお話を聞こうっと。
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