第258話 お別れ会
時間と言うのはいつの間にか過ぎちゃう。勉強をしている時間はあんなに長いのに。
明日はヴァイア姉ちゃんがオリン国へ行く日だ。
色々な準備は済んでいて、もう後は村を出るだけになっているみたい。なので、今日は森の妖精亭でヴァイア姉ちゃん達のお別れ会だ。
今日は村のみんなで森の妖精亭を貸し切り状態。アンリ達はいつものテーブルについてみんなで飲み食いしてる。
メノウ姉ちゃんはハイン姉ちゃんやヘルメ姉ちゃんと一緒のテーブルでお話をしているみたいだ。この二年間、ゴスロリメイズとして頑張ってたけど、今日で解散なのかな。アイドルグループの妖精愚連隊としてはライバルが減ってちょっと複雑。
クロウおじさんやオルウスおじさん、それにノスト兄ちゃんはおじいちゃん達と話をしているみたい。次に来る外交官の人についてお話をしているのかも。
そしてフェル姉ちゃんはさっきからリンちゃんとお話し中だ。ダンジョンから帰って来て一週間、毎日のようにリンちゃんへ語り掛けてる。
「リン、いいか? 私はフェルだ、フェ、ル。口の動きをよく見てくれ」
「……かみゃご!」
「それは間違っていないけど違う。そもそも誰だ、二つ名のほうを教えた奴は――こら、角に触るんじゃない。最高に格好いい角だが触るのはご法度だぞ」
「やー、さわう!」
フェル姉ちゃんが、自分の名前をリンちゃんに教えている。たぶん、これが最後のチャンスだと思ってるのかな。リンちゃんはリンちゃんで、フェル姉ちゃんの角を触ろうとしているけど、フェル姉ちゃんがそれをさせないみたいだ。
実はアンリもフェル姉ちゃんの角には触ったことがないんだけど、なんとなく魔族の決まりっぽくてダメっぽい。まあ、アンリはリンちゃんと違って大人だからそこまで触りたいとは思ってない。ちょっとウズウズするだけ。
「もうちょっと大きくならないとちゃんと分かってくれないと思うよ。まあ、リンちゃんは天才だからすぐに覚えてくれるとは思うけどね!」
「ああ、うん、そうだな」
ヴァイア姉ちゃんはこれでもかって言うくらい親バカになってる。フェル姉ちゃんも大概だったけど、ヴァイア姉ちゃんはそれに輪をかけた親バカっぷりだ。
これは少し話題を変えたほうがいいかもしれない。ヴァイア姉ちゃんがリンちゃんのことを話し出すと止まらないし。
「ええと、ヴァイア姉ちゃんは明日の朝に出発するの?」
「うん、そうだよ。カブトムシさんがゴンドラを引っ張ってくれるんだ。大丈夫だとは思ってるんだけど、リンちゃんがいるから空じゃなくて安全な地上を行くつもりだよ。それとドッペルゲンガーさん達が人族に化けて護衛をしてくれるみたい」
カブトムシさんのゴンドラが落ちたって話は聞いたことがないけど、確かに地上のほうが安全な気はする。それにドッペルゲンガーさん達が護衛するなら何の問題もないかな。
でも、フェル姉ちゃんはそんな風に思っていないみたいだ。
「護衛の数が足らなくないか? なんなら私やジョゼ達もつけるぞ?」
「今の時点でも過剰戦力だってば。それにオルウスさんやハインさん達もいるんだよ? 私も色々な魔道具でゴンドラを守るから大丈夫」
「そうなのか?」
「それにフェルちゃんにはやることがあるでしょ? こっちは大丈夫だから、フェルちゃんはフェルちゃんにしかできない事をやるべきだよ。私もそうするから」
「……そうか。いつの間にかヴァイアも大人になってたんだな」
「同い年だよね? まあ、こっちの旅は大丈夫だから、今日はいっぱい楽しもうよ! こうやってみんなで集まるのもこれからは少なくなるかもしれないから、できるだけ皆と楽しい時間を過ごしたいんだ」
うん、それはみんな同じ気持ち。しっかり楽しもう。
「そういやよ、ヴァイアは長距離転移魔法を完成させたのか? それがあればいつでもこっちに来れんだろ?」
リエル姉ちゃんがリンちゃんのおててにちょっかいをかけながらそんなことを聞いた。
「うん、もちろんできたよ。でも、ちょっと魔力の消費量が激しくてね、残念だけど私くらいしか使えないみたい。フェルちゃんでもダメだったんだ」
「魔力量には自信があったんだが、あれは私でも無理だ。そもそも転移先の座標計算が出来る前提だから元々無理だけどな」
フェル姉ちゃんの魔力量でも使えないって相当だと思う。アンリには絶対に無理かな。でも、フェル姉ちゃんみたいにほんの数メートル先に転移するっていうのはアンリもやりたい。今のうちから空間魔法を勉強しておくのはアリかも。
「悔しいからもう少し簡単で魔力消費量を抑える術式を考えてみるよ。出来たら皆に教えるからね!」
「おう、頼むぜ! 使えるようになったら色々なところにいい男を探しにいくからな! ちなみにエルリガにいい男がいたら連絡をくれ。すぐに行く」
リエル姉ちゃんは相変わらずブレない。
「ノストさん以上のいい男はいないかな!」
そしてヴァイア姉ちゃんも。いまだにノスト兄ちゃんとラブラブで、村で舌打ちが聞こえない日がないくらいだ。
「それはいいとして、ディアちゃんの仕立て屋はどうなの? お店まだ開店はしてないよね?」
「ニャントリオンは改装中だね。ロンさんに頼んであるんだ。そうそう、お店のお金はロンさんに支払ったよ。それで良かったんだよね?」
「うん、名義上は私の家と土地だったんだけど、もともとはロンおじさんが村長の許可を得て作ったものだからね。ロンおじさんに支払うのが当然のスジだったよ。あ、でも、改装もロンおじさんに頼んでるんだ?」
「そりゃこの村で一番の大工だからね。そういえば、村へ出稼ぎに来てる獣人さん達も手伝っているみたい。建築の勉強をしているとか言ってたかな」
たしかにいろんな獣人さんがロンおじさんのお手伝いをしている感じだ。グラヴェおじさんのところでも鍛冶を習ってるし、ここでもニア姉ちゃんに料理を教わっているはず。
そういえば、ドラゴニュートのムクイ兄ちゃん達も色々教わっていたっけ? 最近はドラゴニュートの村に戻ってるみたいだけど、またドラゴンのお肉を持って来てくれるのかな。
「ところで皆に聞いておきたいんだけど――」
急にヴァイア姉ちゃんが真面目な顔をした。どうしたんだろう?
「アンリちゃん達はともかく、フェルちゃん達は結婚の予定はないの?」
「いや、あるわけないだろ。私は不老不死な上に魔王様を探してるんだぞ?」
「私はそれよりも仕立て屋のことで精いっぱいだよ。そういうのはもっと落ち着いてからだね」
「予定はある。相手がいないだけだ」
三者三様。でも、リエル姉ちゃんの回答だけはなぜか涙を誘う感じになるのはなぜだろう?
「そうなんだ……フェルちゃんとリエルちゃんはともかく、ディアちゃんは可能性があると思ったんだけど」
「おう、ヴァイア、フェルはともかく、なんで俺もそっちに含まれてんだよ」
「私からすると、リエルはともかく、なんで私が含まれているんだって話だけどな? 確かに魔王様にはこっぴどく――」
フェル姉ちゃんはそこまで言って、口をつぐんだ。皆がフェル姉ちゃんをジッと見つめる。
「こっぴどく、なに?」
「いや、何でもない」
ちょっと汗をかいてるフェル姉ちゃんの肩にリエル姉ちゃんが腕を回した。あれは言うまで逃がさないぞって言う意志表示。魔族のフェル姉ちゃんにどこまで通じるかは分からないけど。
「おいおい、フェル、俺達の間に隠し事はなしだぜ? この流れで、こっぴどく、とくれば、続く言葉はそう何種類もあるわけじゃねぇ。ここは一つ暴露しちまえって。吐いて楽になっちまえよ」
「いや、別に何も隠してないぞ」
「フェルちゃん……その話、詳しく!」
「私も今後の参考に聞いておきたいかな!」
みんながフェル姉ちゃんに詰め寄ってる。スザンナ姉ちゃんもクル姉ちゃんもそれにマナちゃんもだ。もちろん、アンリも興味がある。リンちゃんの興味は角っぽいけど。
今日のお別れ会はこれからが本番になりそうだ。
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