第257話 対等な立場
ヴァイア姉ちゃんがあと一ヶ月くらいでオリンへ行くことになった。
その準備があるのか村は色々と慌ただしい感じ。それはそれとしてアンリはアンニュイ。
いざいなくなると思うと寂しさが溢れてくる。ヴァイア姉ちゃんはちょっと残念なところがあるけど、優しくていいお姉ちゃん。そのヴァイア姉ちゃんが村からいなくなるのは寂しい。
それにリンちゃんやノスト兄ちゃんともお別れ。
リンちゃんは最近、アンリのことを「あーり」って言ってくれるようになったのに。スザンナ姉ちゃんのことは「すーちゃ」でクル姉ちゃんのことは「くー」、マナちゃんは「なー」って言ってる。毎日名前を呼んでもらうのがアンリ達の日課。
ちなみにフェル姉ちゃんは「かみゃご」。アンリが神殺しの魔神って教えてあげた。フェル姉ちゃんはリンちゃんにそれを教えたその犯人を捜しているけど、絶対に内緒だ。シラを切り通す。
ほかにも村からいなくなる人がいる。クロウおじさん達だ。
今まではソドゴラ村に外交官として滞在していたけど、オリン国で魔術師ギルドを運営するから帰ることになってる。当然、執事のオルウスおじさんやメイドのヘルメ姉ちゃん、ハイン姉ちゃんも一緒に帰る。
たまに執事やメイドのお仕事を教えてもらっていたし、軽く模擬戦みたいな事もしてもらっていたから、それが出来なくなるのも寂しい感じ。
新しい外交官の人が来るらしいけど、全然知らない人みたいだから楽しみがないかな。
そんな気持ちで朝食の半熟卵を食べていたら、家のドアが勢いよく開いてびっくりした。おじいちゃんもスザンナ姉ちゃんもびっくりしてるみたい。
開いたドアの外には息を切らしたディア姉ちゃんが立っているけど、どうしたんだろう? なにか問題かな?
「おはよう、ディア君、そんなに慌ててどうしたんだい?」
「おはようございます! スザンナちゃんはいますか!?」
ディア姉ちゃんはスザンナ姉ちゃんに用事みたいだ。ディア姉ちゃんのほうから用事があるって結構珍しいと思う。
「私?」
「ああ、いた! スザンナちゃん! 何も言わずに私に大金貨十枚貸して!」
アンリもダンジョンで魔石を売ってお金を稼ぐようになったから分かる。大金貨十枚は大金。
「ディア姉ちゃんはお城でも買うの?」
「アンリちゃん、鋭いね! そう! 私は私のお城を買う!」
やっぱり。でも、どこにお城を建てるんだろう? もしかしてディア姉ちゃんも村を出て行っちゃう? それなら邪魔するけど。
「ディア君、朝っぱらから何事かと思えば……スザンナ君は確かにお金を持っているが、年下にお金を借りようとするのはどうかと思うよ?」
「いえ、村長、これには訳があるんです! ヴァイアちゃんが一ヶ月後に村を出ていく予定ですが、あの雑貨屋を買おうと思うんです!」
ヴァイア姉ちゃんが店長をしている雑貨屋さん? そういえば、ヴァイア姉ちゃんがいなくなった後にどうなるかは知らない。誰かが店長になるのかと思っていたけど、まさかディア姉ちゃんが店長に?
「ディア姉ちゃんが雑貨屋さんをやるの?」
「雑貨屋さんはやらないかな。あのお店を改装して仕立て屋を開くんだ。あの雑貨屋をニャントリオンの本店にするつもり」
「仕立て屋……服を作るお店ってこと?」
「そう! 冒険者ギルドの美人受付嬢を辞めてただの美人になり、そして美人仕立て屋として頑張るんだよね!」
美人って三回も言った。
それはそれとして、確かにディア姉ちゃんはいつか仕立て屋さんをやりたいって言ってたっけ。それをこの村のあの雑貨屋でやるんだ? でも、お金って必要?
「ヴァイア姉ちゃんならあの雑貨屋を無料でくれるんじゃないかな?」
「……そうなんだよね。ヴァイアちゃん、この話をもっていったら嬉しそうに『あげるよ!』っていいだして。もらえる訳ないのにね」
「貰っちゃえばいいと思うけど? アンリは無料って好き」
「アンリちゃん、若いね」
確かにアンリはそろそろ七歳になるくらいでまだ若い。でも、それが関係あるのかな?
「これは女のプライドと言うか、親友だからこそ、貸し借りなしの状態でいたいんだよ。タダであのお店を貰ったらヴァイアちゃんに借りを作ることになっちゃうから……皆とは対等な立場で付き合いたいんだよね!」
「スザンナ姉ちゃんにお金を借りることは対等なの?」
「う……いや、ちゃんと利子をつけて返すからセーフ……かな?」
アンリにはよく分からない理論だけど、そういう物なのかな?
「ディア君、事情は分かったが、ずいぶんと急いでいるようだね? あと一ヶ月もあるわけだし、そんなに急ぐようなことじゃないと思うんだが?」
「それがですね、今、ヴァイアちゃん、ヴィロー商会のラスナさんから土地と建物を売って欲しいって言われているところでして。ヴァイアちゃんの性格上、押しに弱そうだから時間を掛けると売っちゃいそうな気がするんですよね。それに私もちょっと焦っているというかなんというか」
ラスナおじさん、そんなことしてたんだ? 確かにあの場所は村の広場に面しているところだからいい場所と言えばいい場所だとは思う。ラスナおじさん、なんて抜け目ない。
でも、ディア姉ちゃんが焦ってるって何だろう? ラスナおじさんに買われそうだから焦ってるって意味じゃなさそうなんだけど。
「ディア姉ちゃん、焦ってるって何に?」
「あー、えっとね、フェルちゃん達ってすごいじゃない? なんかこう、置いて行かれる感じなんだよね」
「置いて行かれる?」
「フェルちゃんは魔界で魔王として頑張った実績があるじゃない? それに今も魔王様って人を探して頑張ってる。リエルちゃんだって孤児院を頑張ってるし、ヴァイアちゃんはこれから魔術師ギルドのグランドマスターとして頑張るよね? それにメノウちゃんだってメイドギルドの次期グランドマスターって言われているくらい頑張ってるんだ。もちろん、アンリちゃん達もダンジョンで強くなろうと頑張ってる。それなのに私だけ特に何もないなーって。みんなそれぞれ未来に向かって頑張ってるのに私だけ停滞しているのがなんとなく焦っちゃうんだよね」
そういうものなんだ?
でも、確かにそう言うのはあるかも。アンリは強くなったと思うけど、スザンナ姉ちゃんやクル姉ちゃん、それにマナちゃんのほうが伸びしろがある感じ。確かに置いて行かれたくないって気持ちはある。
「そんなわけでね、私も本格的に仕立て屋として頑張ろうかなと。今まで貯めたお金はあるんだけど、ヴァイアちゃんの雑貨屋を土地ごと買って、さらに改装まですると仕立用の布とか買えなくなっちゃうから、仕立て屋が軌道に乗るまではお金を借りられないかなーってスザンナちゃんに頼みに来たんだよね!」
「いいよ。もともと使ってないお金だし、以前、パトロン? をやって欲しいって言われたこともあるから。それに置いて行かれるのが嫌って気持ちもよく分かる。細かいことは後で決めるとして、まずはヴァイアちゃんにお金を支払ってあげて」
「ありがとう、スザンナちゃん! 利子は大目にして返すからね!」
ディア姉ちゃんは座っているスザンナちゃんに一度抱き着くと、すぐに外へ出て行っちゃった。
「スザンナ君、いいのかい? 結構な金額だし、絶対に返ってくるという保証はないんだよ? ディア君の腕前ならちゃんと返せるとは思うが物事に絶対はないからね」
「最悪返ってこなくても全然かまわないです。どうせお金はギルドの肥やしになってるだけだし、ちゃんとした使い方をしてくれるなら貸すのに抵抗はないです」
スザンナ姉ちゃんがちょっと大人なことを言ってる。いつかアンリも使わせてもらおう。
「そうか。スザンナ君はすでに成人している身だし、とやかく言うのはここまでにしておくよ。しかし、ディア君が仕立て屋か。いつかやるとは思っていたが、結構早かったね。どうなるか今から楽しみだよ」
「うん、アンリも楽しみ。今度はお金を払って服を作ってもらう。こう、防御力が高そうなやつ」
「私もパトロンとして何着か服を作ってもらおうかな」
ヴァイア姉ちゃん達がいなくなるのは寂しいけど、村ではこうやって楽しそうなことも起きる。楽しいことがいっぱいあれば、寂しさもまぎれるかな?
ディア姉ちゃんのお店が大きくなるようにアンリも――ううん、妖精愚連隊も頑張って支援しよう。何をすればいいのかはまだ分からないけど、たくさん服を買えばいいのかな?
よし、ファッションリーダーアンリとしてディア姉ちゃんの店で服を買いまくるためにも、ダンジョンでお金をいっぱい稼ぐぞ!
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