第256話 成人のお祝いパーティー

 

 今日はスザンナ姉ちゃんの誕生日。晴れて十五歳になったから大人の仲間入りだ。


 なので、今日の昼食はアンリのお家で成人のお祝いパーティー。全力で祝うしかない。クル姉ちゃんも一ヵ月くらい前に成人したから合同パーティーだ。つまり二倍全力で祝う。


 テーブルにたくさんの料理が並んだ。おかあさんの手作り料理。でもこれは前座。メインイベントを務めるのはクリームたっぷりのケーキだ。おかあさんが作ったんじゃなくてニア姉ちゃんが作ったものだけど、だからこそ間違いなくおいしい。


「さて、スザンナ君、クル君。成人おめでとう。アーシャが腕によりをかけて作った料理だからね、遠慮なんかしないで食べるようにね」


「あ、ありがとう……」


「すみません、なんか私まで」


「ははは、二人ともうちの子みたいなものだからね、お祝いをするのは当然のことだよ」


「おじいちゃんの言う通り。アンリは遠慮しないから、二人も遠慮せずに食べて」


 スザンナ姉ちゃんもクル姉ちゃんも笑顔になって料理を食べ始めた。二人とも美味しそうに料理を頬張ってる。これはアンリも負けられない。今日の主役は二人だけど、いつだってアンリは主役を食っていく。


「さて、二人とも成人となった。これからは大人の扱いになるだろう。これまで以上に自分の行動に責任を持たなくてはいけない。あまり無茶なことはしてはいけないよ」


「おじいちゃん、せっかくのお祝いなのに説教みたいのは良くない。それは料理を食べてからにしよう」


「む、説教したわけじゃないんだが……まあ、二人ともフェルさんから色々と学んでいるようだし、あえて言う必要はないかもしれないね。ただ、頭の中で漠然と分かっているよりも、ちゃんと言葉にして理解したほうがいいからちゃんと考えておくんだよ」


 良くないって言ったのにまだ続いた。でも、これで本当に終わりみたいだ。


 今はみんなで色々な話をしている。これからどうするのかとか、なにか目的があるのかとかの話だ。


 スザンナ姉ちゃんはこのまま村に住むって言ってる。というよりも、特にどこかへ行く予定はないから村に永住するとか。でも、いつかアビス以外のダンジョンへ行ってみたいとも思ってるみたい。


 そういうことならアンリは全力でついて行く所存。


「アンリがもう少し大きくなったら一緒についてく。もちろん、フェル姉ちゃんや妖精愚連隊の皆も一緒に」


「うん、それは楽しそう。それに色々な国を見て回りたいとも思ってるんだ。ルハラやトランなんかも一度は行ってみたいかな。あとウゲン共和国も。砂しかないみたいだけど」


「ルハラだったら私が案内するよ! 傭兵団の本拠地がある帝都だったら結構案内できると思う!」


 そうだった。クル姉ちゃんはルハラ出身。ルハラへ行くときはクル姉ちゃんに案内してもらおう。


 よく考えたらアンリがこの村以外で行った場所ってオリン魔法国の町とロモン聖国の聖都だけだ。ルハラというか大陸の西側には行ったことがない。


 これはいつか行かないといけないと思う。支配する地域は一度くらい見ておかないと……!


「クル君は何かすることがあるのかい?」


「私の場合はルハラへ戻って傭兵団を率いる感じですね。今はルートが団長として頑張ってますけど、いつかは私も合流して傭兵団を継ぐ予定です」


 クル姉ちゃんの言葉にちょっとだけ胸がチクっとした。


 そっか。クル姉ちゃんもいつかこの村を離れてルハラへ帰っちゃうんだ。アンリとしてはずっといて欲しいけど、やることがあるならそういう訳にもいかない。


 ヴァイア姉ちゃんももう少ししたらオリン魔法国のエルリガへ行っちゃう。長距離転移魔法があるからすぐに帰って来れるみたいだけど、クル姉ちゃんはそんなことできない。帝都からここまで結構な距離があるから会いたいと思ってもすぐには会えない。


 考えただけですごく寂しい。


「アンリってば、そんな悲しそうな顔をしないでよ。帰るとしても何年も先だよ? 少なくてもあと五、六年はこの村にいるね!」


「そうなの?」


「さすがに若すぎると傭兵団の団長をやってもみんなが付いてこないからね。冒険者として強くなって、なにか実績を残せればすぐにでも団長になれるだろうけど、成人したばかりの私じゃとてもとても。せめてウル姉さんくらい強くならないとダメかなー」


 ウルって人にはエルフの村で会ったことはある。でも、ちゃんと話したことはないし強さも知らないから、クル姉ちゃんがどれくらい強くなればいいか分からない。あと五、六年はいるってことだから、まだまだ強さが足りないってことなのかな。


「それじゃクル姉ちゃん、あまり強くならないで。緩やかに強くなって。そうすれば長く一緒にいられるから」


「一緒にはいたいけど強くなるのが遅いのは困るかな……そうだ、それならアンリとスザンナが傭兵団に入ればいいんじゃないかな! それなら一緒にいられるよ!」


「アンリとスザンナ姉ちゃんが傭兵になるの?」


「そう。私としても強い子が傭兵団に入ってくれるのはありがたいよ。スザンナはアダマンタイトだから強さに関しては文句ないし、アンリは今の時点ですごく強いからね。私が帰る頃にはもっと強くなってそう。今の傭兵団は戦争なんてしないし、護衛やダンジョン攻略だけだから冒険者と変わらないからおすすめだよ」


 それはそれで惹かれるものがある。村のダンジョンを攻略していくのも悪くないけど、他のダンジョン――アビスちゃんが手助け出来ないダンジョンで修行するのも悪くない。


「傭兵になるのも悪くないかな。傭兵王アンリとして名前を売るのもいいかも」


「アンリはいつだって王だね。妖精女王でもあるし」


「アンリの血がそうさせるんだと思う。今はもうないどこかの王の血筋なのかも――おじいちゃん、椅子から転げ落ちてどうしたの?」


「……いや、何でもないよ。そろそろケーキを食べようか」


「うん、どんと来て。ここからはスザンナ姉ちゃんもクル姉ちゃんも敵。アンリは修羅と化す」


「言っとくけど、イチゴが乗った部分はたとえアンリやクルでも譲らない」


「私はリンゴが乗った部分がいいかなー、リンゴはこの村くらいでしか食べられないから村にいる間はそれを狙ってくつもり」


 これからここは戦場となる。絶対に負けない。




 戦いは終わった。アンリ達のお腹はもうパンパンだ。


 戦いは何も生まない。皆で仲良く好きな部分を分けて食べた。やっぱり平和が一番。


 食べ終わってまったりしていたらスザンナ姉ちゃんがこっちを見てる。どうしたんだろう? もうケーキは隠してないのに。あれは予備の兵糧として保管してただけ。


「アンリは六歳だよね?」


「うん、六歳。あとちょっとで七歳になる。成人までの折り返し地点と言ってもいい――成人まで半分のお祝いにケーキを食べてもいいと思う。おじいちゃん、どうかな? できればケーキにチョコレートのデコレーションを所望する」


 却下された。残念。普通のケーキにしておけば良かった。


 でも、スザンナ姉ちゃんはなんでアンリの年齢を確認したんだろう?


「アンリの年齢がなにか問題? 正真正銘の六歳後半。サバはよんでない」


「そこは疑ってないよ。アンリが成人するのは八年後だけど、八年経ったら私は二十三なんだなって。私もアンリも、それにクルやこの村ってどうなってるのかなってちょっと思っただけ」


 八年後。アンリが成人する頃――分かんないけど、その頃から人界征服の布石は打っておきたい。そして五年くらいで人界を征服する。フェル姉ちゃんがいればそれくらい余裕そう。問題はフェル姉ちゃんを従えられるかどうかだけど。


 それに八年後のソドゴラ村……全然想像できない。村にはメイドギルドの支部やヴィロー商会の支店、ヴィロー商会傘下の色々なお店が増えた。この調子で行けば、村から町へクラスチェンジしそうな勢いだ。


 アンリが成人するころはみんなや村はどうなっているんだろう……? 上手く想像できないかな。でも、なんとなく分かってることもある。


「どうなってるかは分からないけど、たぶん今よりも楽しいことになってると思う」


「うん、そうだね。もう一年ちょっとこの村にいるけど、毎日楽しいし」


「あー、それは私もそう思う、毎日楽しいよね。これで勉強がなければなぁ……」


「クル姉ちゃん、それは言わない約束。いつか勉強が終わる日が来る。希望をもって生きよう」


「みんな、大丈夫だよ。勉強で重要なのは反復だ。終わってもまた最初からやればいいからね」


「おじいちゃん、それは全く大丈夫じゃない。というか、そんなネタバレしないで。将来に希望が持てないでしょ」


 せっかくのお祝いムードがおじいちゃんのせいで台無しだ。でも、みんな笑ってるからいいのかな? アンリとしては由々しき問題だけどみんなが笑顔なら問題なし。


「希望が持てないかどうかは別として、みんなそろそろ時間じゃないのかい? フェルさん達がスザンナ君の誕生パーティーと成人祝いをしてくれるんだろう?」


「そうだった。早く森の妖精亭へ行かないと」


 スザンナ姉ちゃんもクル姉ちゃんも笑顔で頷いた。そして家を出る。


 お腹はもうパンパンだけど、フェル姉ちゃん達と食べる料理は別腹だ。


 今日はまだまだ楽しい時間は続く。今日も夜更かしの記録を更新するくらい楽しむぞ!

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