第251話 冒険者アンリ
ダンジョンの第五階層。アンリ達はそこでデュラハンさんと戦っている。
これはアンリとスザンナ姉ちゃんにとってのリベンジ。あの時のように負けたりはしない。そしてやられたらやり返す。
「マナちゃん、回復をお願い!」
「うん! 【治癒】!」
デュラハンさんの槍による猛攻を剣で受けながらマナちゃんに指示を出すと、みるみるうちにアンリの怪我が治った。擦り傷程度の傷しかないけどそれが綺麗さっぱりなくなる。
戦闘中の痛みはある程度無視できるけど、蓄積されると結構大変。一応痛みに慣れた動きも練習してるけど、治せるときに治しておかないと。
「魔法をぶっぱなすから離れて!」
クル姉ちゃんの声に従って、デュラハンさんと距離を取った。
デュラハンさんは馬に乗ったままアンリを追いかけてきたけど、そこはさすがのスザンナ姉ちゃん。アンリが逃げやすいように水を使ってサポートしてくれた。デュラハンさんが乗っている馬の脚に水がまとわりついている。
そこにクル姉ちゃんの術式が完成。デュラハンさんが馬ごと巨大な火柱に飲み込まれた。結構離れたのにかなり熱い。
「やった!?」
「クル姉ちゃん、それはフラグ」
たとえやったと思ったとしても言っちゃいけない言葉がある。「やったか?」「他愛ない」「本気を出すまでもなかったな」この辺りは戦闘が終わっても言ってはいけないってディア姉ちゃんが言ってた。
まさにその通りでデュラハンさんが火柱の中から出てきた。ほとんどダメージを受けていないみたいだけど、アンデッドは炎に弱いんじゃないのかな?
「アンリ様やスザンナ様は一年前より強くなられた。それにお仲間のお二人もなかなかの手練れ。私の愛馬はここまでのようですが、鎧だけの私はこんなもんじゃやられませんよ!」
そういえばデュラハンさんは鎧だけで中身がないって言ってた気がする。何をもってアンデッドと言われてるのか知らないけど、どうやら魔法じゃなくて物理でやるしかないみたい。
ならここはアンリの出番だ。一年前に折られたフェル・デレの仇を取る。
「みんな、ここからはアンリが一騎打ちにする。手出し無用」
アンリがそう言うと、スザンナ姉ちゃん達はちょっとだけ後ろに下がって待機してくれた。でも、応援はしてくれている。ここは第五階層でアウェーなのは間違いないけど、気分的にはホーム。負ける気がしない。デュラハンさんの愛馬もちょっと離れて鼻息を荒くしてる。たぶん、デュラハンさんを応援してるんだろうけど、応援の数はこっちが上だ。
デュラハンさんはそんなアンリの自信に気づいたのか、しっかりと槍を構えた。そして左手に持っている頭がアンリのほうをしっかりと見据える。
デュラハンさんが接近してきて高速の突きを放つ。その突きを剣で弾いた。
大丈夫、見える。ユーリおじさんとの訓練で動体視力を鍛えたから集中していればどんな攻撃も弾ける。そして今のアンリに隙は無い。ゆっくり丁寧に攻撃を受けてチャンスが来たらカウンターだ。
……なかなかチャンスが来ない。でも、慌てない。こういう時は慌てたほうが負け。ウェンディ姉ちゃんがそう言ってた。実力が拮抗しているなら相手も慌てているはず。ここは我慢比べだ。
そう思ったらデュラハンさんがちょっとだけ後ろに下がった。
「やりますね! でも、これで終わりです! 【武器破壊】!」
来た。フェル・デレを折ったスキル。でも、大丈夫。アンリはこのスキルの弱点を知ってる。武器に詳しいドワーフのゾルデ姉ちゃんから対策を聞いてるから安心だ。
武器破壊のスキルが使われた槍がフェル・デレを狙う。庇うようにしてその攻撃を左腕で受ける。
「お、おわぁ! あ、あれ? だ、大丈夫ですか!?」
デュラハンさんが驚いている。もしかしたら知らないのかもしれない。武器破壊は武器に対してだけダメージを与えるスキル。つまり人体や防具には無効。全く痛みもないし、突き刺さることもない。
「武器破壊、破れたり。そして本当の武器破壊というものを教えてあげる。【紫電一閃】」
劣化版ではない正真正銘の紫電一閃。連発は出来ないけど、一発くらい使っても何の問題もないくらいの魔力にはなった。これでデュラハンさんの槍へアッパー気味に放つ。
小さく鋭い金属の当たる音が聞こえた。
空中を何かがくるくる回りながら飛んでいる。
それが地面に突き刺さった。
半分になった槍だ。そしてデュラハンさんの手には半分になった槍が残っている。
「……お見事です、アンリ様。参りました」
デュラハンさんが負けを認めた。アンリは剣を掲げる。
「リベンジ完了!」
アンリがそう言うとみんなから歓声が上がった。そして駆け寄って来て抱き着いてくる。
「アンリちゃんすごい!」
「本当。六歳には思えないよね!」
「アンリは私が育てた」
マナちゃん、クル姉ちゃん、スザンナ姉ちゃんがそれぞれ声をかけてくれる。ちょっとだけ感慨深い。一年。リベンジを果たすまで一年かかった。でも、これは魔物のみんながアンリ達を本気で止めた結果だ。
以前のような接待ダンジョンじゃない。本気でシルキー姉ちゃんやヒマワリさんが止めてきた。攻略に何日もかかったけど、それだけ強くなった気がする。
そして一年。ようやく第五階層までやって来てデュラハンさんにリベンジできた。
アンリはこの一年ですごく強くなったと思う。そろそろフェル姉ちゃんとも戦う時が来たのかもしれない。今度フェル姉ちゃんが帰ってきたら一戦お願いしよう。パワーアップしたアンリを見てもらわないと。
「それじゃ第六階層へ一度行ってから外へ出ようか」
スザンナ姉ちゃんの提案にみんなが頷く。でも、その前にデュラハンさんに謝っておかないと。
「デュラハンさん、ごめんね、武器を壊しちゃって」
「いえいえ、ご安心ください。鍛冶師のグラヴェさんに直してもらうので平気ですよ」
「それならいいんだけど、グラヴェおじさんの工房ってすごく繁盛してるから半年くらい待つことになるかも」
「え? えぇ?」
ウゲン共和国から来た獣人さんが色々手伝っているみたいだけど、それでも追い付かないくらい色々な依頼が来てるって聞いた。村の住人なら優先的に見てもらえるけど、それでも半年くらい待つことになる場合がある。アンリやフェル姉ちゃんなんかは最優先で見てくれるみたいだけど。
「アンリのほうからもグラヴェおじさんに言っておくから。でも、それくらいかかるかもしれないからダンジョンでゆっくりするのもいいかも」
「それもアリですね。前に言ってた魔物の交換派遣でもやりましょうか」
その後、デュラハンさんと別れて第六階層へ来た。
ここは何だろう? 石で出来た町、なのかな? 当然人はいないから廃墟って感じだけど。
ちょっとだけ周囲を探索してからアビスちゃんにお願いして外へ出た。
外はもう夕方だ。でも、門限の時間までにはまだちょっとある。
「さて、今日の稼ぎを分配しなくちゃね! まずは冒険者ギルドへ行って換金してこよう!」
クル姉ちゃんはこういう時いつも張り切ってる。でも、アンリも顔に出さないけどこの時はいつも嬉しい。ちょっとずつお金がたまるのは最高だと思う。
マナちゃんも孤児院に入れるお金が増えて嬉しいって言ってるし、冒険者って結構儲かるのかも。
みんなでちょっとだけ大きくなった冒険者ギルドに足を踏み入れた。
デュラハンさんに一年かけてリベンジしたからかな。一年前と比べるとここはずいぶん変わったって思う。
ディア姉ちゃんが一人だけだった時とは違ってカウンターは二つに増えたし建物も大きくなった。掲示板には何枚かの依頼が張られるようになったし、ディア姉ちゃんの私物である服なんかはもう置いてない。本物の冒険者ギルドみたいだ。
でも、一番の違いは冒険者さんがたくさんいることだと思う。広くなった冒険者ギルドには外からやってきた冒険者さんが何人かテーブルに座っている。
アンリ達に気づくと手を振ってくれた。名前は知らないけど顔見知りの冒険者さん達だ。アンリも笑顔で手を振り返す。
「みんなお帰り。今日も稼いできた?」
ディア姉ちゃんがカウンターの中から声をかけてくれた。最近はネヴァ姉ちゃんの指導のおかげなのか、普通に受付嬢をしている。それはそれでちょっと寂しい。
「うん、がっぽり稼いだ。換金をお願いします――アンリじゃなくてクル姉ちゃんがだけど」
アンリやマナちゃんは正確には冒険者ギルドに所属していない。つまりカードがないからギルドでの換金は出来ないことになってる。ヴィロー商会のほうが高く買ってくれるというのもあるんだけど、クル姉ちゃんのギルドに対する貢献度っていうのを上げるためにもここで換金する必要があるみたいだ。
「それじゃすぐにやるからね。クルちゃん、カード出して」
クル姉ちゃんが魔石の入った袋とカードをディア姉ちゃんに渡す。それと同時に入口で大きな音がした。
「おいおい、シケたところだな。本当にこんなところで稼げるのかよ?」
ちょっと強面の人が三人ほどギルドへ入って来た。さっきの大きな音はドアを蹴っ飛ばした音だと思う。
その先頭にいた人がアンリ達のほうをみた。
「ギルドにガキがいるじゃねぇか……いっぱしの剣までもって冒険者ごっこか? まあいいか、その剣をこっちによこしな。危ないから俺が使ってやるぜ!」
やれやれ。アンリ達、妖精愚連隊を知らないなんてどこのおのぼりさんだろう。それにこの剣を欲しがるなんて。この剣、フェル・デレはアンリ専用の剣。アンリ以外には使えない。剣もアンリ以外に使われたくないって言ってる。
これは自己紹介をしないといけないかな。
ギルドカードは持ってないけど、やってることは冒険者。なら、それなりの紹介方法があるってディア姉ちゃんに聞いたことがある。冒険者の流儀に従って冒険者アンリって物理的な自己紹介をしておこう。
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