第249話 結婚式の終わりと旅立ち

 

 結婚式の出し物が延々と続いている。


 でも、アンリ達にそれをゆっくり見ている暇はない。出し物の最後、つまりトリを任された。これまでの出し物の評価まで変わるかもしれないから責任重大。皆の頑張りを台無しにするわけにはいかない。最後にふさわしい踊りを見せないと。


「クル姉ちゃん、腕の角度が甘い。ここはこう」


「冒険者やってるときよりも厳しいよ……えっと、こうかな?」


「そうそれ。いい感じだからあとは素早く。でもクル姉ちゃんは初めての踊りだから初々しさを出して。そういうほうが評価は高いから」


「難しいこと言わないで。というか、髪の毛はそのままだけど執事服で踊るんだ?」


 綺麗なドレスで踊るのも悪くない。でも、ニャントリオンのウェイトレス服やゴスロリメイズのゴスロリ服とちょっと被ってるからそこは避けたい。


 同じ路線で勝負するのはやめてクールアンドビューティで行く。逃げたと思われてもいい。これは戦略的撤退。


「アンリ達には猫耳とかメイドさんという付加要素がない。だからギャップ萌えで行こうと思う。アンリ達みたいな子供がちょっと大人びた感じの服で踊る。それがさらにアンリ達を可愛くする」


「計算しすぎで怖いよ。でも、まあ、やるからには上を目指さないとね。いっちょやったりますか!」


 クル姉ちゃんがやる気になってくれたみたいだ。スザンナ姉ちゃんはさっきから黙々とポーズの確認をしているし、気合は十分と見た。あとはアンリがどこまでやれるかだ。


 しばらく練習しているとディア姉ちゃんが来た。ディア姉ちゃんは、今やアンリ専属のスタイリストと言ってもいい。


「みんな、そろそろ出番だからおめかししようか?」


「よろしくお願いします。できるだけクールにしてください」


 さあ、執事服を着て踊ろう。妖精愚連隊の初陣を勝利で飾るぞ!




 ――ここで最後のターン。


 アンリ達はくるりと回ってから、かぶっていた帽子のつばの部分を右手で持って、それを天高く飛ばした。当然、飛ばしたときに右手を上げたままポーズで止まる。これでアンリ達の踊りはフィニッシュ。


 帽子が地面に落ちた瞬間に割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こった。


 よかった。盛り上がった。最後のトリとして問題ない出来だ。残念ながら前に行われたウェンディ姉ちゃん達のダンスには勝てなかった。でも、ニャントリオンやゴスロリメイズにも勝てたかもしれない。


 これが妖精愚連隊の最初の一歩。この一歩が後に大きな山の山頂へ続くんだ……!


「アンリ、そろそろヴァイアちゃん達のダンスが始まるからステージをおりるよ。邪魔になっちゃう」


「うん、帽子を回収してすぐにおりよう」


 そうだった。残念だけど余韻に浸っている暇はない。ヴァイア姉ちゃんとノスト兄ちゃんのダンスが始まる。出し物の最後はアンリ達だったけど、結婚式の最後はヴァイア姉ちゃん達だ。


 ステージの下からステージの上を見る。


 いつの間にか来ていたジョゼちゃん達がエルフさん達と音楽を奏で始めた。


 ノスト兄ちゃんがヴァイア姉ちゃんに左手を差し出した。ヴァイア姉ちゃんはその手に右手をのせる。そして二人で踊り始めた。


 オリエ姉ちゃんとロミット兄ちゃんの結婚式でも二人は踊ってた。それが本当に結婚しちゃうなんて。でも、前回の結婚式でブーケはフェル姉ちゃんが取った気がする。あれにはそんな効果がないのかな?


 曲が終わるとダンスも終った。そしてヴァイア姉ちゃん達がこっちを向いて礼をした。今日何度目かの拍手がまた起きる。


 うん、すごく楽しい結婚式だった。妖精愚連隊としてダンスするのがもっと早く決まっていればまた違ったとは思うけど、これはこれで良かったかも。今度は冒険中にダンスの訓練も入れよう。


 そしてまた曲が流れた。今度はみんなでダンスだ。


 男の人が気になる女の人を誘って踊る。ヴァイア姉ちゃんみたいに次の結婚式に主役として出るかもしれないから、組み合わせはチェックしておきたい。


 でも、その前にスザンナ姉ちゃん達はどうなんだろう? このままぼーっと立っているのもどうかと思う。


「スザンナ姉ちゃんやクル姉ちゃんは気になる男性とかいないの? 女性から誘っても別に問題ないと思うけど」


「私は特にいないかな。というかあまりよく知らないって言うのもある」


「私も来たばかりだからよく分からないかな。それに年齢的に合わないよ。リエルさんの子供達にいる男の子は年齢的に近いかな?」


 確かにその通りかも。そもそも年齢的に合ってない。それにリエル姉ちゃんの子供たちはみんなリエル姉ちゃんと踊りたいみたいだ。


「それじゃおじいちゃんと踊る? おとうさんはおかあさんと踊ってるみたいだし、手が空いてるのはおじいちゃんくらい」


「村長はアンリが踊ったらいいよ。私はクルと踊るから」


「まあ、それが妥当だよね」


 それはそれで仲間外れみたいで寂しい。


「なら三人で踊ろう。おじいちゃんも演奏で疲れているみたいで座ったまま動けないみたいだし――」


「アンリちゃん、私と踊らない?」


 背中から声を掛けられたと思ったらマナちゃんだった。


「マナちゃんのお誘いを断るわけない。背も丁度いい感じだし、ぜひお願いします。あ、でも、みんなで踊るのはどう? ちょっとずつパートナーを変えて踊るのは面白いと思う」


 みんなも同意してくれて、四人でローテーションしながら踊ることになった。


 よし、アンリの華麗なステップを見せつけよう。でも、この後にブーケ争奪戦があるし、二次会もある。余力は残した形で踊ろうっと。




 ――結婚式の二次会がもうそろそろ終わりそう。


 結婚式のダンスが終わってからブーケ争奪戦が始まって、それが終わってから森の妖精亭で二次会が始まった。そして結構な時間が経つ。


 アンリはもうそろそろ限界。気を抜いたらすぐに眠っちゃいそう。でも、我慢だ。眠っちゃうのはもったいない。最後まで意識を保つ。


 今日は色々なことがあって面白かった。しばらくはこの楽しい余韻に浸れる気がする。


 そういえば、今日一番気になったのはディア姉ちゃんだ。


 結婚式の最後に聖都で紹介してくれたガープ兄ちゃんと一緒に踊ってた。お互いに足を踏みまくってダンスと言っていいかよく分からなかったけど、楽しそうだったからいいのかな?


 それに今日のブーケ争奪戦でブーケを手に入れたのはディア姉ちゃんだった。本格的に服屋さんの仕事を始めようとしているみたいだから結婚はしないって言ってたけど、もしかしたらガープ兄ちゃんと結婚する可能性があるのかな?


 それを聞いてリエル姉ちゃんが「結婚する気はないのにブーケを俺から奪ったのか?」って怒っていたけど、それはいつものことだからスルー。


 美味しい物を食べて、みんなで騒いで最高の一日だった……んだけど、なぜかフェル姉ちゃんが時折寂しそうな顔をする。ついさっきもそうだった。ケーキを食べたらすぐに笑顔になったけど。


 なんだかおかしい感じだけど大丈夫かな?


「フェル姉ちゃん、なにかお悩み事? アンリに相談してもいい。安心してお金は取らない。でも対価は必要。その食べかけのケーキを頂戴」


「これはやらんぞ。美味しい物だからゆっくり味わって食べてるんだ……悩みなんかないから安心しろ。ただ、ちょっと考えることがあるだけだ。心配してくれてありがとうな」


「ううん、気にしないで。ボスとして部下を気に掛けるのは当然の事」


「いつの間に私のボスになってるんだ。私を部下にしたかったら私より強くないとな」


「それは時間の問題。アンリはモリモリ強くなってる」


 アンリがそう言うと、フェル姉ちゃんがちょっと驚いた顔になった。でも、すぐに微笑んでくれた。


「そうか、強くなってるか。なら私もアンリに負けないくらい強くならないとな、それこそ誰にも負けないくらいに、な」


 見た感じ大丈夫に見える……アンリの考えすぎかな? なんとなく寂しそうな感じなんだけど。


 仕方ない。寂しくないようにアンリがフェル姉ちゃんのそばにいてあげよう。まずは膝の上に座ろう。






 翌日、フェル姉ちゃんは村を出て魔物さん達が見つけたという遺跡に向かった。フェル姉ちゃんのいう魔王様がどこかの遺跡にいるから、その調査のためだ。


 相変わらずフェル姉ちゃんは忙しいみたい。なにも結婚式の次の日に行かなくてもいいのに。


 でも、フェル姉ちゃんにとって魔王様というのは大事な人みたい。アンリにとってのおじいちゃんとか家族のように大事な人なんだと思う。


 アンリも一緒に行くって言ったけど、まだ弱いからダメって言われた。


 裏を返せば強くなればいつか一緒に遺跡へ行けるってことだ。それに遺跡巡りの約束もしてる。


 ならやることは簡単。強くなるだけだ。スザンナ姉ちゃんやクル姉ちゃんと一緒にダンジョンに潜って強くなるんだ。


 フェル姉ちゃんと一緒に人界中の遺跡を巡る――そんな日が早く来るように頑張ろうっと。

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