第247話 精霊さん達
結婚式が始まる。
まずはリエル姉ちゃんがステージまで歩く。その後ろをマナちゃん達が付いて行く形だ。
「よし、それじゃ行くか! ヴァイアの晴れ舞台だ! 最高の結婚式にしてやらねぇとな!」
マナちゃん達も「頑張ります!」と気合を入れた。うん、アンリ達も気合を入れよう。
教会の扉が開いてリエル姉ちゃん達が出て行った。
しばらくすると、外から声が聞こえてきた。
『正直、気が乗らねぇが、親友のヴァイアのためだ。派手な結婚式にしてやるから、お前らもちゃんとついて来いよ!』
リエル姉ちゃん、見た目は聖女モードなのに言葉遣いが素に戻ってる。たぶん、時間制限が切れちゃった。でも、盛り上がっているから大丈夫かな。
そしてまた声が聞こえた。
『よし、次は新郎新婦の入場だ。ちゃんと拍手で迎えろ!』
村の広場で拍手が沸き起こる。
次はノスト兄ちゃんの番だ。
「それじゃ行ってきます。みなさん、後はよろしくお願いしますね」
「任せて。アダマンタイトの船に乗ったつもりでいてくれても問題ない。むしろ海が割れるくらい勢いで安心して」
ノスト兄ちゃんはアンリの言葉に微笑むと、服装をちょっとだけ整えてから外へ出て行った。
次はとうとうアンリ達の出番。結婚式の花形と言ってもいい役どころ。ここは慎重に行こう。
まずは花びらの入った籠をチェック。大丈夫。量はいっぱい。色彩も豊か。今日は風がないから流れるように花を撒く。練習したから大丈夫だとは思うけど、もう一度だけ手首のスナップを確認。
……うん、問題なし。
次はヴァイア姉ちゃんを呼ぼう。花嫁さんをステージまで連れて行くのが妖精の役目だ。
教会の奥にある扉をノックする。
「ヴァイア姉ちゃん、そろそろ出番だけど大丈夫?」
「だ、だだ! 大丈夫! たぶん……」
「大丈夫。大丈夫じゃなくてもアンリ達がフォローするから。それじゃ開けるよ」
奥の扉を開けると、そこにはヴァイア姉ちゃんが純白のドレスを着て立っていた。
……ハッ。なんてこと。見とれちゃった。スザンナ姉ちゃんもクル姉ちゃんも同じだったみたいで、口をポカンと開けたままヴァイア姉ちゃんを見てる。
ヴァイア姉ちゃんは言うなれば白いバラ。スカートのふわふわやヴェールいっぱいにバラが咲いている感じ。
ハッキリ言うと、アンリは負けた。このままひれ伏しちゃう感じ。今日の主役が誰なのかをまざまざと見せつけられた。こんなのに勝てるわけがない。ワイルドボアがドラゴンに挑むくらい無謀。
そんなことを考えていたら、部屋にいたディア姉ちゃんが慌てた感じになった。
「アンリちゃん達、なにしてるの。早くヴァイアちゃんをステージまで連れてって! 早く、早く!」
いけない。そうだった。それが一番大事。
「それじゃ、ヴァイア姉ちゃん、花婿さんのところまで連れて行くから来て」
「う、うん! アンリちゃん、スザンナちゃん、クルちゃん、よろしくね!」
三人でヴァイア姉ちゃんに頷く。ちょっと出遅れちゃったからしっかり取り返そう。
まずはアンリ達三人が扉から外へ出る。教会からステージの祭壇までそれほど距離はない。そこまでの道をアンリ達が花びらで埋め尽くす。そして花びらは有限。途中で絶対に切らせてはいけないし、余ってもいけない。
ここからが腕の見せ所だ。
アンリ達が出ていくと、村の皆から歓声が上がった。でも分かる。この後の歓声はもっとすごい物になる。
案の定、次の瞬間にみんなが黙った。そしてすぐに大歓声に変わる。ヴァイア姉ちゃんが教会から出てきてアンリ達の後ろを歩いているからだと思う。
上には上がいる。フェル姉ちゃんがいるからそれは分かっていたことだけど、今日、さらにそれを思い知った気分。アンリが結婚するときはさらに上を目指そう。
そして余計なことは考えない。いまのアンリは妖精。あらゆる妖精が跪く妖精の女王。ヴァイア姉ちゃんをしっかり祭壇まで導こう。
ステージの上、祭壇の前にいるノスト兄ちゃんまでの道に花びらを撒き終わった。スザンナ姉ちゃんもクル姉ちゃんも同じように終わったみたいだ。
アンリ達妖精の出番はここまで。あとは気配を消してフェードアウト。ステージを下りて結婚式を見よう。
でも、大丈夫かな? ヴァイア姉ちゃんじゃなくてリエル姉ちゃんが号泣っていうほど泣いてる。
「よがっ、よがっだなぁ、ヴァイア! ごごまで、ほんどうに……俺、俺、嬉じぐで……!」
教会に籠城するくらい嫌がったのに本当の気持ち的にはヴァイア姉ちゃんの結婚を一番喜んでたのかも。乙女心は複雑ってことなのかな?
マナちゃん達がハンカチを取り出してリエル姉ちゃんの顔を拭いてる。それにマナちゃん達もなぜかもらい泣きをしている感じだ。
たぶん、リエル姉ちゃんのことをすごく友人思いだとか思って泣いてるんだと思う。マナちゃん達って聖人教って言うよりも、リエル教って感じだ。
マナちゃん達のサポートのおかげでリエル姉ちゃんが持ち直した。親子でも引きそうな顔だったのが、普通の笑顔になった。聖母様健在。色々なものが浄化されそうなほどの笑顔だ。
「すまねぇな、感極まっちまったよ。よし、続けるか! さっそく精霊を呼ぶぜ! 気合入れて呼んでやるからな!」
リエル姉ちゃんはマナちゃんが持っていた水晶玉を受け取って天に掲げた。
あれは精霊を呼ぶ水晶玉。結婚式ではあれを使うわけだけど、何かの魔道具だと思う。
「さあ、精霊よ、姿を現せ!」
リエル姉ちゃんがそう言うと、上空に大きな魔法陣が現れた。
オリエ姉ちゃんとロミット兄ちゃんの時は光の精霊があの魔法陣から落ちてきた。あの時はまぶしかったけど、今度は大丈夫かな?
……あれ? まぶしい感じの精霊が落ちてきたけど、他にも落ちてきた? 全部で六体落ちてきたけど、あれって何だろう?
スザンナ姉ちゃんが首を傾げてる。
「アンリ、あれって精霊だよね? 結婚式って初めて見るけど、あんなに落ちてくるものなの?」
「分かんない。普通一体だけ――もしかしてすべての精霊が落ちてきた?」
「え? そんなことってあり得る? 私は何度か結婚式を見たことがあるけど、ランダムで一体だけだよ?」
クル姉ちゃんもこういうのは初めてみたいだ。何だろう? なにか手順を間違った?
村の皆もざわついていたみたいだけど、まぶしい精霊がちょっとだけ動いた。
「友の願いにより全精霊で参った。人族よ。我らに何を望む?」
やっぱり全部の精霊が来たんだ? 友って誰だろう? それにあの精霊さん達ってどこかで見た気がする……?
「お、おう、全精霊が来るなんて初めてだぜ……この二人が結婚するから、宣誓の問いかけを頼みたいんだが大丈夫か?」
「承知した。まず私からだ。汝、健やかなるときも、病めるときも――」
まぶしい精霊さんがいつものように結婚の契約に関する言葉を読み上げている。他の精霊さんは何もしないみたいだけど、単に一緒に来ただけなのかな?
「――誓うか?」
まぶしい精霊さんの問いかけにヴァイア姉ちゃんとノスト兄ちゃんが頷いた。
「誓います」
「誓います」
二人がそう言うと、精霊さんは指輪を渡した。
「お互いの左手薬指につけるがいい。もし、この結婚に異議があるならその行為を阻止するのだ」
そんな人はいないと思うけど、もし誰かが阻止するようならアンリがそれを阻止しないと。それにさっきまでのリエル姉ちゃんはもしかしたら演技で、ここで阻止するって可能性もある。注意だ。
でも、そんなことはなく、ヴァイア姉ちゃんとノスト姉ちゃんはお互いの薬指に指輪を付けた。
「最後に誓いのキスを」
今日のメインイベントと言ってもいい誓いのキス。人前でするのはハレンチっておかあさんが言ってるけど、結婚式ではいいみたい。
ノスト兄ちゃんがヴァイア姉ちゃんのヴェールをめくってからキスをした。ヴァイア姉ちゃんはすごく幸せそうだ。
数秒間キスをしてからノスト兄ちゃんが顔を離した。二人とも笑顔で見つめ合っている。それを見ているだけで、アンリの心もぽかぽかだ。
「これで二人は夫婦だ。光の精霊がそれを認めよう。幸多からん事を祈る」
精霊さんがそう言うと、拍手が沸き起こった。もちろんアンリも手が痛いくらい拍手する。
これでヴァイア姉ちゃんのノスト兄ちゃんは夫婦だ。
なんだかすごくうれしい。ヴァイア姉ちゃんは、昔ちょっと残念なお姉ちゃんだったから大丈夫かなって思ってたけど、ノスト兄ちゃんみたいな人と結婚出来て本当に良かった。
これも全部フェル姉ちゃんのおかげなのかな? 昨日、森の妖精亭でそんな話をした。最終的にはニア姉ちゃんのおかげってことになったけど、やっぱりアンリはフェル姉ちゃんのおかげだと思うな。
そういえば、フェル姉ちゃんはどこにいるんだろう?
良く見たら村の入口のところでぽつんと一人だけ立って笑顔で拍手している。
なんであんなところにいるんだろう? フェル姉ちゃんならステージの目の前、つまりアリーナ席でもいいのに。
仕方ない。あとでアンリが一緒にいてあげよう。
……それはそれとして精霊さん達が帰らない。もうお仕事は終わったと思うんだけど、どうしたんだろう?
なぜか火の精霊さんがヴァイア姉ちゃん達に近づいた。
「じゃあ、次は僕だね。汝、健やかなるときも、病めるときも――」
「おいおい、何してんだ? もう結婚の宣誓は終わったろ?」
リエル姉ちゃんがそう言うと、精霊さんが首を傾げた。
「え? 精霊を六体呼んだんだから六回やらないと。やらないと僕達帰れないし。はい、ちゃっちゃとやろう! あと五回もあるからね!」
よく分からないけど、ヴァイア姉ちゃんはあと五回も結婚するんだ?
おめでたいことだし多いほうがいいと思う。全部でしっかり拍手しようっと。
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