第246話 結婚式の始まり

 

 今日はヴァイア姉ちゃんとノスト兄ちゃんの結婚式だ。


 お天気もいいし、ヴァイア姉ちゃん達を祝福しているかのよう。もちろんアンリも祝福する。そのために、アンリはクラスチェンジをしないと。


 おかあさんに部屋でドレスを着せてもらった。


 アンリがフェアリーアンリになるときに着る服。薄いピンク色のドレスでヒラヒラがオシャレ。でも、これは未完成。青色の宝石、九大秘宝の「ディープブルー」のペンダントを装備して完璧となる。


 でも、今日はもう一つ上の完璧を目指すべきかも。


「おかあさん、これにフェル・デレを背負うのはどうかな? 無敵感が増すと思う」


「……女はね、ちょっとくらい弱点があったほうが可愛いのよ。完璧な女は敬遠されちゃうの」


 ものすごく哀愁を感じる言葉だったけど、なんとなくわかる。わざと隙を作るのは戦いでも良くある手。わざと隙を作るのもオシャレなのかもしれない。


 着替えが終わったら、スザンナ姉ちゃんがやってきた。


 スザンナ姉ちゃんはドレスじゃない。フェル姉ちゃんみたいな黒い執事服だ。水色の髪をオールバックにして後ろで結んでいるからちょっと男の子っぽくて格好良さが増してる。それにかぶってる黒い帽子もオシャレ。


「スザンナ姉ちゃん、すごく格好いい」


「ありがと。アンリもすごく綺麗。アンリ自身も綺麗だけど、そのペンダントも綺麗だね? なんか吸い込まれそうな感じ」


「うん。アンリのおばあちゃんやおかあさんから受け継いだペンダント。名前はディープブルー。たぶん、由緒正しいなにか」


 詳しくは知らないけど大事にしなきゃいけないものみたい。一目見たときから秘宝扱いだからもちろん大事にしてる。でも、フェル姉ちゃんから貰った犬っぽい石と甲乙つけがたい。


「さあ、二人とも森の妖精亭でクルちゃんが待ってるから合流して待機しているといいわ。今日は大役を務めるんだから頑張ってね」


 おかあさんの言葉に頷いてから二人で家を出た。




 森の妖精亭がすごいことになってる。ここは戦場。下手に動いたらやられる、そんな雰囲気。


 いつものテーブルにクル姉ちゃんがいた。


 クル姉ちゃんはスザンナ姉ちゃんと同じように執事服でオールバック。可愛いというよりも凛々しい感じだ。


 アンリ達に気づくと手を振ってくれた。


「アンリは可愛らしいし、スザンナは格好いいね!」


「クル姉ちゃんも格好いい。こう、裏社会のボスって感じ。あとはワインを入れたグラスを持って猫を抱けば完璧」


 アンリの言葉にスザンナ姉ちゃんも頷いている。


「それ、褒め言葉かな……? まあいいけど、私達はこれからどうすればいいのかな? 大体のことは聞いているんだけど、念のためにもう一回教えてもらっていい?」


 この役どころに関してアンリはプロと言ってもいい。クル姉ちゃんの質問に答えてあげよう。


 アンリ達は出番になるまでここで待機。結婚式が始まりそうになったら教会へ行って花びらの入った籠を受け取る。最初にリエル姉ちゃん、次にノスト兄ちゃんが教会を出てステージへ行くから、その後に三人で花びらを撒きながらステージの上までヴァイア姉ちゃんを先導する感じだ。


 スザンナ姉ちゃんとクル姉ちゃんがうんうんとアンリの言葉に頷いている。


「はー、なんだか緊張するね。主役じゃないのは分かってるんだけど、普通にダンジョンへ行ってるよりも緊張するよ」


「クル姉ちゃん、まずはリラックス。それに主役を食うくらいの勢いでやらないと」


「結婚式で主役を食うのはどうかと思う」


 確かにそれは一理ある。でも、あふれ出るアンリの魅力は留まるところを知らない。フェル・デレを背負ってなくて良かったかも。あれがあったら大変なことになってた。でも、もう少し隙を作っておくべきだったかな?


「おはよう。可愛らしい格好だな」


 フェル姉ちゃんが二階からやってきた。いつもの執事服だ。でも、いつもとちょっと違う感じもする……?


 それはいいとして、まずは挨拶だ。


「フェル姉ちゃん、おはよう。よく考えたんだけど、アンリは失敗した。あまりの可愛らしさに、主役のヴァイア姉ちゃんよりも注目を集めてしまうかもしれない」


「そうか。でも、ディアが言うにはヴァイアもすごいらしいぞ。目が潰れるらしい」


 そういえば、昨日の夜にそんなことを言ってた。ならアンリも遠慮する必要ない。


「受けて立つ。今日の主役がどっちなのか決着をつける」


「どう考えてもヴァイアが主役だからな?」


 フェル姉ちゃんはそう言った後、スザンナ姉ちゃんとクル姉ちゃんのほうを見た。ちょっとだけ眉間にしわを寄せてる。嫌がっているわけじゃないみたいだけどどうしたんだろう? 執事服のプロとして着こなしに問題があったのかな?


「二人とも髪をオールバックにして凛々しい感じだがいいのか? その、もっと女の子らしい恰好をしたいとか……子供なんだからそういうワガママは言った方がいいぞ?」


 着こなしの問題じゃなくて、女の子っぽい服装じゃないことに疑問があったみたいだ。でもそれはフェル姉ちゃん自身にも言えると思う。


 フェル姉ちゃんのドレス……一度くらいは見たい気がする。絶対に着ない気もするけど。


「大丈夫。妖精役が終わったら着替えるよ。ディアちゃんが作ってくれた別の服があるんだ」


「そうだったのか。クルもあるのか?」


「うん。練習だからって言われて私もディアさんに作って貰っちゃった。いままでああいうドレスを着たのはディーン君の戴冠式ぐらいかな? これはこれでいい物だけど、やっぱりああいう華やかなドレスを着たいよね!」


 ディア姉ちゃんが仕事をサボ――懸命にやった上に夜遅くまで服を作ってくれた。ヴァイア姉ちゃんのウェディングドレスもそうだけど、スザンナ姉ちゃん達のドレスも作ってくれている。実はアンリの執事服もあったりする。


 でも、クル姉ちゃんは勘違いしてる。魅力と言うのは内面からにじみ出る。服に影響されない。服はあくまでも魅力の一部。一割増しとか二割増しになる程度。素の魅力というものを見せつけよう。


「スザンナ姉ちゃんもクル姉ちゃんも今日はアンリの引き立て役にしかならない。真のお姫様というものを教えてあげる。ひれ伏すがいい」


 ……なぜかフェル姉ちゃんが複雑そうな顔をした。すぐに普通の顔に戻ったけど、なにか言いたいことがあるのかな?


「さて、皆。準備が整ったようだ。広場に集まってくれ」


 おじいちゃんがいつもよりちょっとだけいい服を着て食堂へ入って来た。結婚式の準備が整ったみたいだ。つまりアンリ達の出番。まずは教会へ行こう。




 三人で教会へ来た。中にはリエル姉ちゃんとノスト兄ちゃん、それにマナちゃんともう一人男の子がいる。あと奥の部屋にはヴァイア姉ちゃんとディア姉ちゃんもいるはずだ。


 リエル姉ちゃんは煌びやかな司祭服。そして聖女スマイル……今は聖母スマイルかな? それがすごくまぶしい。


 ノスト兄ちゃんは全体的に白い服。ジャケットやズボンが白で、ネクタイや中に着ているベストがほんのちょっとだけ黄色かな?


 そしてマナちゃん達。小さいけどリエル姉ちゃんみたいな煌びやかな司祭服。小さいリエル姉ちゃんがいる感じだ。


 マナちゃん達は以前司祭様がやっていた祭具を運ぶ役目。結構緊張しているみたいだ。


 そしてスザンナ姉ちゃんとクル姉ちゃんはリエル姉ちゃんを凝視しているみたいだけど、何か問題があったのかな?


 リエル姉ちゃんもそれに気づいて微笑んだ。


「スザンナさん、クルさん、私の顔になにか?」


「……誰?」


「えっと、初めまして、クルです」


「二人とも落ち着いて。ここにいる人はリエル姉ちゃん。信じられないかもしれないけど」


 アンリも最初見たときは誰って思ったからその気持ちは分かる。普段の落差と言うかギャップがあってリエル姉ちゃんと認識できないくらいの変わりようだし。


「おう、お前ら、どういう了見だ。こんな美人が二人もいる訳ねぇだろうが。なんで分かんねぇんだよ」


「なんだ、リエルちゃんだった。何かのイタズラ?」


「なんかすごい物を見ちゃった気がするよ……」


 そして案の定というかなんというか、マナちゃん達はものすごくドヤ顔だ。これがリエル姉ちゃんの本気だって言う顔。そのおかげなのかマナちゃんの緊張が解けたみたいだ。


 とりあえず、これで準備が整った。あとはいい結婚式にするだけ。しっかり頑張ろう。

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