第244話 魔界での約束
午前中のお勉強が終わったから、スザンナ姉ちゃん達と森の妖精亭へやってきた。
今日のお昼はリエル姉ちゃんの奢り。それを逃す手はない……と思ったんだけど、マナちゃんが心苦しい感じだったので、それはなくなった。代わりにおじいちゃんがアンリ達の分のお金を出してくれた。
マナちゃんも村で色々なお手伝いをしてお金は得ている。お金の大事さが分かっているからリエル姉ちゃんの負担を増やす行為は嫌なんだと思う。おじいちゃんがマナちゃん達のお金も出そうって言ったときもすごく渋った。マナちゃんだけじゃなくてみんな渋ってたけど。
みんながいい子過ぎてアンリの悪い子ぶりが目立つ。村に同年代の子が増えるのは嬉しいんだけど、こんな弊害があるとは思わなかった。
おじいちゃんが笑いながら「子供がそんなことを気にするもんじゃないよ」ってマナちゃん達を説得と言うか諭してたけど、あれは勉強代としてもらっているお金を返しているだけじゃないかな? もともと貰う気はなかったみたいだし。
そんなわけで森の妖精亭へ突撃した。
森の妖精亭はそれほど大きくない。でも、なんとか全員座れるかな?
アンリとスザンナ姉ちゃんとクル姉ちゃん、そしてマナちゃんはフェル姉ちゃんが座っているテーブルへ移動した。他の皆はそれぞれ別のテーブルに座ったみたいだ。
「アンリ達も来たのか?」
「うん。おじいちゃんが皆でお昼を食べてきなさいって。アンリが代表で皆の分のお金を持ってきた。メノウ姉ちゃん、これで昼食をお願いします」
「はい、確かに受け取りました。それじゃすぐに用意しますね」
メノウ姉ちゃんはすぐに厨房へ行ってくれたみたいだ。
「おいおい、子供たちに村長がおごってくれるのかよ?」
「うん、おじいちゃんは太っ腹。本当はリエル姉ちゃんにおごってもらおうかと思ったけど、マナちゃん達が嫌がったからおじいちゃんが出してくれた。ちなみにおじいちゃんが出すって言ったときのほうがマナちゃん達は嫌がったけど、無理やりおじいちゃんがおごった感じ。いわゆる強制おごり」
「おいおい、マナ、食費に関しては気にするなって言ったろ? 俺はお前たちの母親としてちゃんとやってやりたいんだから、そういうのを嫌がるなって。しかも村長におごらせてるじゃねぇか」
「何度も断ったんだけど、村長さんが子供はそんなことを気にしなくていいんだよって言って断り切れなかった。それにアンリちゃんがたくさん稼げるようになったら返せば問題ないって」
「簡単に言うと出世払い。アンリは出世したら村の全員に返さないといけない感じになってる」
リエル姉ちゃんが仕方ないなって感じの顔になった。
「アンリの言う通りだな。マナ達が大きくなったら村長に返してやってくれ。もちろん、俺には不要だぞ。なんてったって俺はマナ達の母親だからな! お前らが元気でいてくれればそれで十分だ!」
リエル姉ちゃんがそう言うと、マナちゃん達が全員涙ぐむ感じになった。こういうところでリエル姉ちゃんは信仰されてるんだと思う。
そもそもリエル姉ちゃんは裏表がない。言ってる言葉が全部本音だ。籠城の時もそう。だからマナちゃん達はああいうことを言われると本気でそう言ってるって思えるから嬉しいのかも。
そんなことを考えていたら料理がきた。フェル姉ちゃん達も今から食事みたいだ。
しっかり食べて午後はフェル姉ちゃんとお話しよう。今日のダンジョン探索は休みだ。
昼食後、ネヴァ姉ちゃんがディア姉ちゃんを連れて行っちゃった。午前のお仕事をさぼったから午後はビシバシやるみたい。ディア姉ちゃんが助けを求めていたけど誰も助けなかった。
そういえば、ネヴァ姉ちゃんと一緒にウェンディ姉ちゃんがいた。フェル姉ちゃんと一緒に魔界から帰って来たみたいだ。ちょっとだけ嬉しそうなのはネヴァ姉ちゃんと一緒だからかな?
帰ってきたと言えば、クロウおじさん達も食堂で見かけた。ヴァイア姉ちゃんとノスト兄ちゃんの結婚の話が出ると、「ほう、そうかね!」って言って喜んでた。
オルウスおじさんも喜んでいたけど、ハイン姉ちゃんとヘルメ姉ちゃんはちょっとだけ複雑そうな感じだ。喜んではいたけど、なんで自分たちには彼氏がいないんだろうって小さい声が聞こえた。でも、聞こえない振りをした。なんとなくそうしたほうがいい空気。
落ち込んではいたけれど、ハイン姉ちゃんとヘルメ姉ちゃんは今度の宴でメノウ姉ちゃんと一緒に踊るって宣言してた。グループ名はゴスロリメイズ。ゴスロリのメイド服を着て踊る斬新なグループみたい。
それに対抗してきたのが、ヤト姉ちゃん率いる真ニャントリオン。フェル姉ちゃんが魔界から連れてきた猫の獣人さん二人をバックダンサーに加えて完璧な布陣だ。
その二つのグループが一触即発の状態になる。フェル姉ちゃんが「外でやれ」って言ったらその場で解散したけど。
ほかにもミトル兄ちゃんとかオルドおじさんがやって来てフェル姉ちゃんに挨拶してた。そしてヴァイア姉ちゃんの結婚話が出ると、二人とも参加する表明をしてどこかへ行っちゃった。
マナちゃん達もお手伝いがあるってことでみんなそれぞれお手伝いに行っちゃった。ただ、マナちゃんだけは残ったみたいだ。マナちゃんはここでのお掃除なんだけど、今日は新しく来た獣人さんがお掃除をするからお休みになったみたい。
ようやくお話が出来そうな状況になった。まずはフェル姉ちゃんを問い詰めよう。
「フェル姉ちゃん、確認したいんだけどお土産は?」
「いや、だからないって言わなかったか?」
「フェル姉ちゃんはお土産を持ってくるから大人しく村にいろって言った」
「……確かにそんな気がするな。でも、悪いが何も持ってきてないんだ。宝物庫を管理してるやつが中にある物をなかなか手放さなくてな。クロウ達には世話になったからお土産としてそれなりの物を渡したんだが、必要以上の物は持ってきてないんだ……魔界の土産話で手を打たないか?」
魔界の土産話……物でなくても面白い話が聞けるならそれはそれでいいかもしれない。それにみんなも興味津々だ。
「ならそれで手を打つ。どんなお話?」
「そうだな。例えば――」
フェル姉ちゃんから魔界での出来事を色々聞いた。
魔王を辞めてオリスア姉ちゃんに魔王を譲ったこととか、ジョゼちゃん経由で聞いた話もあったけど、他にも色々聞けた。神殺しの魔神については全く言わなかったけど。
一番面白かったのは魔界で魔族さん達が住んでいるダンジョン「ウロボロス」が、実はアビスちゃんと同じように意志を持っていて、フェル姉ちゃん達を閉じ込めようとしたこと。魔界にいる魔族さんや獣人さん達が人界へ移住する計画をしたら、閉じ込められちゃったみたい。
魔界の地表は触れると死んじゃう魔素であふれているみたいなんだけど、それを浄化している建物があるみたい。その建物は魔力で動いているんだけど、ウロボロスがそこへ魔力を送っているとか。
その魔力を作り出しているのが、ウロボロスに住んでいる魔族さん達。
魔族さん達が大量に人界へ移住しちゃうとその魔力を作れないから閉じ込めようとしたんだとか。
アビスちゃんと違って怖いダンジョンみたいだ。でも、とりあえず和解して事なきを得たみたい。
ただ、閉じ込めるようなことはしないけど、魔族さん達は人界へ移住しないことになった。そんな交換条件を魔族さん達の方から提案したとか。
「全部、私のためなんだ――みんなは私を外へ出すためにあの辛く苦しい魔界へ残ると決断してくれた。私は安全な人界でのうのうと過ごして、魔王様を探すという個人的なことをしてるのにな……」
フェル姉ちゃんが嬉しそうな、寂しそうな、そんな複雑な顔でそんなことを言った。
「おいおい、フェルは魔界の住人達のために色々やってんだろ? ヴィロー商会に魔界へ送る食料を頼んだみたいだし、一部の魔族は人界で色々な技術を学ばせてる。それは全部フェルのおかげじゃねぇか。魔界に比べて人界が安全なのはその通りだが、のうのうと過ごしていたわけじゃねぇし、これからもそうだろ? それが分かっているからフェルのために魔界へ残ってくれたんじゃねぇか」
「そうだよ! フェルちゃんがダラダラしているだけの魔王だったら魔族の人たちだってそんな決断はしなかったと思うな!」
リエル姉ちゃんとヴァイア姉ちゃんの鼻息が荒い。アンリもその通りだと思う。
それにクル姉ちゃんもうんうんと頷いてる。
「オリスアさん達はフェルさんの良いところを話すと止まりませんでしたよ! 嫌々魔界に残っているわけじゃないはずです!」
「アイツら、ルハラで何してたんだ……? まあ、それはいいとして、みんな、ありがとうな。でも、気にしなくていいぞ。実を言うとある程度は吹っ切っているんだ。皆と約束したからな」
「いつか浄化された魔界を見るって約束の事? さっき、そんなことを言ってた」
「そうだ、アンリ。気の遠くなるほど未来の話だが、いつか魔界が浄化される時が来る。それはみんなが魔界へ残ると選択してくれたからだ。そして私はいつか浄化された魔界を見る。そういう約束をした」
フェル姉ちゃんはちょっとだけ遠くを見るような感じになった。
フェル姉ちゃんは不老不死だからその未来をいつか見るってことなんだ。それをオリスア姉ちゃん達と約束した。
……でも、よく分かんない。約束をしたからって吹っ切れるものかな?
「えっと、約束をするとどうして吹っ切れるの?」
「……アンリには難しいかもしれないな。何年先になるか分からない未来を見て欲しいと言われた。それはこの先、何百年でも何千年でも生きてくれと言われたようなものだ。つまり、お互いに辛い思いをしようという約束にもとれる」
「お互いに辛い思いをしよう? 魔界に残る魔族さん達のほうはなんとなくわかるけど、フェル姉ちゃんも辛いの?」
「アンリにはまだ分からないか。でも、いつか分かるときが来ると思うぞ――さて、ちょっと辛気臭い話になった。ヴァイアの結婚前にする話じゃないな……ヴァイア、ちょっと聞きたいんだがノストからの求婚の言葉は何だったんだ? 内緒にするから教えてくれ」
フェル姉ちゃんが少しだけ笑顔になってそう聞くと、ヴァイア姉ちゃんは両手で顔を挟んでクネクネしだした。笑顔でクネクネしているのを見て、ちょっとだけ不気味に思っちゃった。
「それ聞く? 聞いちゃう? でも、どうしようっかな! あれは二人だけの言葉にしたい気持ちもあるし! ……ところでフェルちゃん、どうして亜空間からメモ帳を出すの?」
「いや、何かの参考にしようかと。別に本にしようとかは思ってないぞ。まあ、気にしないでくれ」
「おう、俺も聞きてぇな! 俺も言われたときの参考にしてぇ。ヴァイアの次は俺の番だからな!」
恋バナが始まっちゃった。でも、スザンナ姉ちゃんもクル姉ちゃんも、それにマナちゃんもみんな興味津々だ。もちろんアンリも。
魔界の話も面白いけど、これもいい感じ。アンリも将来のためにこういう知識を学んでおこうっと。
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