第243話 騒動の解決

 

 フェル姉ちゃんと一緒に教会まで来た。


 教会の周囲にはマナちゃん達もいるし、村のみんなも何人か増えたみたいだ。マナちゃん達はともかく、みんなは仕方ないなぁみたいな顔をしている。これもリエル姉ちゃんの人徳みたいなものかな?


 教会の入口ではさっきと同じようにディア姉ちゃんが教会の入口でドアを叩きながらリエル姉ちゃんを説得……する振りをしてる。


「リエルちゃん、諦めて出て来なよ。リエルちゃんがいなくても結婚はできるんだよ? むしろこの籠城はなんの意味ないよ? それに援軍も兵糧もないでしょ?」


『うるせぇ! この村で精霊を呼べるのは俺だけだ! 俺がいなきゃ、精霊に認められることもねぇから、結婚できないって寸法なんだよ!』


 リエル姉ちゃんの意志は固そう。でも、それもここまで。こっちにはこういうことに強いフェル姉ちゃんがいる。本人はすごくやる気がなさそうだけど。


 ディア姉ちゃんがこっちに気づいて苦笑いをしながら近寄ってきた。


「もー、リエルちゃんは相変わらずなんだから。えっと、詳しく説明しなくても大丈夫だよね?」


「まあ、ほぼ全て理解している。仕方ないから私も説得しよう」


 フェル姉ちゃんが教会の入口に近づいた。そして軽くドアを叩く。


「リエル、私だ、フェルだ」


『フェル? よお、帰ってたんだな。皆まで言わなくても分かってくれると思うが、フェルは俺の味方だよな? 入ってくれ。一緒に徹底抗戦だ!』


「待て待て、なんでそうなる。どちらかと言うと敵だ。私はヴァイアの結婚に賛成だぞ?」


『フェル、いいか? フェルやヴァイアの両親が結婚を認めても俺が認めねぇ! 早すぎんだよ!』


「酷な事を言うようだが、ヴァイアの結婚にリエルの許可は要らないぞ?」


『いるんだよ!』


 フェル姉ちゃんの説得が続いている。


 リエル姉ちゃんは「早すぎる」って言った。マナちゃんが言っていた通り、結婚そのものに反対しているわけじゃなくて、早いのが嫌なのかも。もう少し時間が経てばいいってことなのかな?


 これが寂しさからくる反対というのはあり得なくはないのかも。確かにヴァイア姉ちゃんと遊べる時間が減ったら寂しい気はする。


 マナちゃん達の一人がフェル姉ちゃんに近づいた。フェル姉ちゃんにリエル姉ちゃんは寂しいんじゃないかって伝えているみたいだ。


 フェル姉ちゃんが複雑そうな顔をしている。確信を持ってそれはないって思っている顔だ。


「えっと、子供達はリエルが寂しくなるから駄々をこねていると言ってる。心当たりはあるか?」


 リエル姉ちゃんからの返答はない。やっぱり的外れってことなのかな?


「やはりそんな理由じゃないと――」


『フェルは寂しくねぇのか? ヴァイアが嫁に行っちまうんだぞ?』


 フェル姉ちゃんが信じられないものを見たって感じで教会のドアを凝視してる。アンリもマナちゃんから聞いてなかったらそう言う顔をしたかも。でも、気になる点がある。もしかして中にいるリエル姉ちゃんは偽物? また操られちゃった?


『ヴァイアがノストと結婚したら、どうせヴァイアはノストに付きっきりだぞ? 俺達の事なんか忘れて、二人で愛を育むんだ。俺達の事なんか二の次、三の次。俺達は過去の女になっちまうんだよ!』


「変な事を言うんじゃない。なにが過去の女だ。言葉の使い方が間違ってる」


 リエル姉ちゃんの言葉を聞いて、ヴァイア姉ちゃんが動いた。刺激しないほうがいいってことで説得はしてなかったけど、ここからはヴァイア姉ちゃんも説得するみたいだ。


「ねえ、リエルちゃん。どうしてもノストさんと結婚しちゃダメかな?」


『おう、ダメだ。まだ結婚しねぇで俺達と一緒にいようぜ? 俺達は若いんだ。そんなに早く結婚する必要はねぇよ。そうだ、皆で旅行とかどうだ? 王都へ行ったときとか、楽しかっただろ?』


「あのね、リエルちゃん。私が結婚するならフェルちゃん、ディアちゃん、リエルちゃんの三人には絶対に祝福されたいって思ってるんだ。だから、もしね、もし、リエルちゃんが本当に反対なら結婚しないよ?」


『……反対なわけねぇよ。でもよ、まだ早いだろ? 俺達は十八だぞ? 皆、これから色々と忙しくなりそうだけど、もっと遊んでいてもいい年だ。結婚するなら二年後はどうだ? ヴァイアが村を出る時。それくらいなら許容範囲だぞ?』


「それも考えたんだけどね、私は二年後、魔術師ギルドのグランドマスターになるでしょ? すごく忙しくなるんだ。だからその前に結婚して……その、赤ちゃんとかね?」


 ヴァイア姉ちゃんがそこまで言うと、教会のドアが勢いよく開いた。リエル姉ちゃんが両開きのドアの片方を勢いよく蹴り飛ばしたみたいだ。ヴァイア姉ちゃんがいないほうで良かった。


 教会から出てきたリエル姉ちゃんはちょっと怒った顔をして、ヴァイア姉ちゃんに詰め寄った。


「おう、コラ、ヴァイア! まさかお前、もうお腹の中に赤ちゃんがいるとか言わねぇだろうな!」


「ちょ、リエルちゃん! なんてこと言うの! そんな事あるわけないでしょ! これからだよ、これから!」


「お前ら、止めろ。そういう話ならもっと小さな声でやれ」


 フェル姉ちゃんが今日最高のあきれ顔をしてる。そしてリエル姉ちゃんはヴァイア姉ちゃんの肩に腕をまわしてなにかぼそぼそと内緒話をしているみたいだ。


「えっと、スザンナ姉ちゃん、どういう意味かな? 赤ちゃんって。ヴァイア姉ちゃんも桃を食べちゃったってこと?」


「え? あ、いや、わ、私もよく分かんないかな? えっと、クルなら分かると思う」


「そ、そこで私に振るの!? え、えっとね、花にはおしべとめしべがあってね――」


 クル姉ちゃんがいきなり変な話を始めた。そんな話を聞きたいわけじゃない。それは植物学。


 それはいいとして、リエル姉ちゃんはヴァイア姉ちゃんやノスト兄ちゃんとお話をしているみたいだ。


 意思確認って言うのかな? 本気で結婚するつもりなのかとか、二人に確認しているみたいだ。そしてそれが終わるとリエル姉ちゃんは大きく深呼吸をする。


「本気なんだな……分かった。お前らを祝福してやる。結婚でも何でもしやがれ」


「リエルちゃん……! ありがとう!」


「ただし!」


 リエル姉ちゃんが怖い顔でノスト兄ちゃんを指した。


「いいか、ノスト。ヴァイアは俺の親友だ。もしも、ヴァイアを泣かすような事があったら、聖人教の全勢力を使ってでも、お前を言葉にできない感じの酷い目にあわせる。これは脅しじゃねぇ。俺はやると言ったらやるからな?」


「分かりました。その時は、この首を差し出します。意見の対立で喧嘩することはあるかもしれません。ですが、泣かせたりしないと誓います」


「分かった。その言葉、違えるなよ? よし、結婚式の時には俺がすげぇ精霊を呼んでやるからありがたく式を挙げろ」


 ヴァイア姉ちゃんがリエル姉ちゃんに抱き着いて、周囲からは歓声の言葉と拍手が沸き起こった。もちろんアンリも拍手する。これで村に平和が戻った。


 でも、フェル姉ちゃんだけはぐったりしてる。そしてディア姉ちゃんとなにか話しているみたいだ。たぶん、リエル姉ちゃんの言動に関する意識合わせ。寂しいって理由があり得るかどうか検証しているんだと思う。


 とりあえず、これで一件落着。あとは結婚式の準備をすればいいだけだ。


 アンリも完璧に妖精役をやらないといけない。今日から練習しておかないと。花びらを投げるのは角度が大事。


 歓声の中、おじいちゃんが手をパンパンと叩いた。


「みんな、リエルさんの件は無事に片付いた。三日後にヴァイア君とノスト君の結婚式を行うからそのつもりで。あと準備に関してはできるだけ手伝ってくれ」


 おじいちゃんの言葉にみんなが笑顔で頷いた。それに祝福の言葉をヴァイア姉ちゃんにかけている。それが終わると、みんなは散り散りに広場から離れていった。自分のお仕事をするみたいだ。


 でも、マナちゃん達は残ってる。そしてマナちゃんが近づいてきた。しかもドヤ顔だ。


「ね? リエル母さんは寂しかったんだよ」


「うん、納得いかないところもあるけど概ねその通りだった。でも、マナちゃん達に結婚するなって言うのはまた違う意味だと思う」


「アイツ、お前達にも言ってんのか」


 マナちゃんとの会話をフェル姉ちゃんが聞いていたみたいだ。今日何度目のあきれ顔だろう?


「今日はリエルの奢りで昼食を食べよう。それくらいしてもいいはずだ」


「それはいい考え。アンリもお呼ばれする。マナちゃんも一緒に行こう」


「え? お昼はともかくこれからお勉強だよ? アンリちゃんの家へ行かないと」


 そういえばそうだった。でも、結婚式の準備があるし、お勉強はないかもしれない。いや、ないはず。


「さあ、問題は片付いたし、みんなはお勉強をしようか。結婚式の日は勉強をできないからその日の分までやっておこうね」


 ……儚い夢だった。むしろ悪夢になってる。


 でも、今度の結婚式はこれまでにないくらいすごいことになりそう。


 全力で楽しむためにも嫌な勉強はとっとと済ませちゃおうっと。

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