第234話 パーティの名前と二つ名
冒険者ギルドで手に入れた情報を元に森の妖精亭へやってきた。
ここにクル姉ちゃんがいるかもしれない。パーティに誘って一緒にダンジョンを突き進もう。それに強くなってデュラハンさんにリベンジしないと。
建物へ足を踏み入れると中は結構繁盛している。以前は畑仕事をしてるベインおじさん達くらいしかいなかったんだけど、いつの間にかこんなにたくさんの人が集まる場所になったみたいだ。
「いらっしゃいませニャ……なんニャ、アンリ達かニャ」
「ヤト姉ちゃん、アンリ達は一応客。さっき教わったことを教えてあげる。接客が悪いとお客さんが来ない。森の妖精亭に大ダメージを与えるから気を付けたほうがいいかも」
「一理あるニャ……なら、いらっしゃいませニャ。ご注文は何にしますかニャ?」
「水を二つお願いします。ロックで」
「どこでそういうのを覚えてくるニャ……? しかも水だけなら客じゃないニャ。忙しいから邪魔だけはしないようにするニャ」
ヤト姉ちゃんはアンリ達をいつものテーブルに案内してから、水を運んできてくれた。注文通り氷が入ってる。たぶん、魔道具で作ったんだと思う。ヴァイア姉ちゃんがそういう魔道具を作ったって聞いた気がする。
そのお水をちょっとだけ飲む。うん、冷たい。喉元ひんやり。
さて、クル姉ちゃんはいるかな?
「ねえねえ、さっき、ロックって言った? うちの筋肉マッチョのこと?」
「いきなりいた。えっと、筋肉マッチョの事じゃない。水に氷を入れて飲むスタイルをロックって言うみたい。ちなみにウェンディ姉ちゃんの歌とも無関係。そんなことよりもクル姉ちゃんに会いたかった」
「へぇ、ロックってそう言う意味があるんだ? ――え? なに? 私に用事?」
「うん。クル姉ちゃんはダンジョンへ行ってお金を稼いでいるんだよね? ならアンリ達とパーティを組んで一緒にダンジョンへ突撃しない?」
クル姉ちゃんはさっきのマナちゃんみたいに口をポカンと開けたままになっちゃった。でも、そこはさすがの冒険者。マナちゃんよりも早く復活した。
「スザンナさん――じゃなくてスザンナはともかく、アンリは、その、魔物と戦えるの? 危ないよ?」
「戦える。実はこの魔道具の中に武器も入ってる」
魔剣フェル・デレと魔剣七難八苦をヴァイア姉ちゃんが作ってくれたポシェット型魔道具に入れてある。亜空間の容量が少ない魔道具だからアンリにプレゼントってことでヴァイア姉ちゃんから貰えた。
本当は常に剣を背負っておきたいんだけど、意外と剣が色々なところにぶつかるから村の中では亜空間に入れておくようにしてる。自己修復のスキルがあるからちょっとくらい欠けても大丈夫だけど、ぶつかるのは可哀想。大事にしないと。
「武器を見ないと分からないけど、アダマンタイトのスザンナと一緒なのは私にもメリットが多そうかな? 私って遠距離の魔法攻撃主体だから、魔物に近寄られるのはまずいんだよね。危ないから戦う魔物の格を下げていたんだけど、三人ならもっと奥まで行ける気がする」
「ちなみにアンリとスザンナ姉ちゃんは第五階層まで行ってる」
「ええ? あ、スザンナがいるから大丈夫なのかな……?」
「どちらかと言うとアンリの実力だよ。私はほとんどサポートに回ってたし」
クル姉ちゃんは目を大きく開いてびっくりしているみたいだ。
「アンリってすごいね。ウル姉さんがアンリを仲間に入れたくなるわけだ。あの時は参謀って感じだったけど、本人も強いなんてね」
「もっと褒めてもいい。アンリは褒められて伸びる子。遠慮せずにどんどん来て」
「そういうところは年相応なのかな……? それじゃ午後は一緒にダンジョンへ行こうか? 私も第ニ階層のジャングルくらいは攻略しておきたいからね」
話は決まった。午後はダンジョン攻略だ。でも、今日はジャングルエリアの攻略だけかな。第三階層の鉱山エリアは結構時間がかかるし。
「ところでパーティの名前はなに?」
いきなりクル姉ちゃんがそんなことを言い出した。
「パーティの名前?」
「うん、そう。パーティには名前を付けるものだよ。冒険者ギルドの書類にもパーティ名を書く欄があって、申請できたはずだけど」
そんな素敵な仕組みがあるなんて初めて知った。確認のためにスザンナ姉ちゃんのほうを見る。
でも、スザンナ姉ちゃんはちょっとしょんぼりしてた。
「えっと、私、ソロばっかりだったから、そういうのは良く知らない……」
「あ、うん。スザンナ姉ちゃんはこれからだから。これからアンリと一緒に学ぼう」
スザンナ姉ちゃんに冒険者ギルドのことを確認するのは避けよう。傷をえぐっちゃう気がする。
でも、パーティ名か。
これはダンジョンに行くよりも大事な事だと思う。格好いい名前を付けないと黒歴史確定。昔、ディア姉ちゃんは「黒歴史こそ我が人生」って言ってたけど、たぶんアンリはその境地へ至れない。
「お! なになに? こんなところに可愛い妖精さんが三人もいるよ! 何の悪だくみをしてるの!?」
「ゾルデさん、酔っぱらっているからって周りに迷惑を掛けちゃダメですって」
「ドワーフがあの程度のお酒で酔っぱらう訳ないでしょ!」
「なら、素でそれですか。それはそれで問題ですねぇ……」
いきなり店の入り口から誰か入って来たと思ったら、ゾルデ姉ちゃんと――胡散臭い人だ。名前なんだっけ? というか、村にいたんだ?
「あ、ユーリだ。村に戻ってきたんだ?」
スザンナ姉ちゃん、ナイス。そう、それ、ユーリおじさん。相変わらず黒い服で胡散臭い。
フェル姉ちゃん達と一緒にオリン魔法国の王都のほうへ行ったけど、一緒には帰ってこなかった。今日、帰って来てたのかな。宴の時に見なかったけど。
「おかげ様で王都から戻ってきました……というか、もしかしていま気づきました? 宴の時もいたのですが」
「全然気づかなかった」
「あ、そうですか……」
ユーリおじさんはちょっと寂しそうだ。スザンナ姉ちゃんもユーリおじさんにはちょっと冷たい感じ。というよりも遠慮がないのかな。以前、一緒に冒険してたみたいだし。
「ねーねー、そんなことよりもさ、三人でなにしてたのさ! なんかこう楽しいことを話してたんでしょ? お姉ちゃんも入れてよ!」
ゾルデ姉ちゃんがぐいぐい来る。いつの間にかアンリ達のテーブルに相席してきた。でも、その前にちゃんと確認しておきたいことがある。
「ゾルデ姉ちゃん、体はもう大丈夫なの? 勇者にふっとばされたよね?」
「もー、それは言わないでよ。負けた時の事なんだからさ。見ての通り体のほうはもう大丈夫だよ。フェルちゃんの従魔達とは違って斬られてはいないからね」
「ならよかった。それじゃお話するけど、アンリ達はパーティを組んだから、そのパーティ名を考えてるところ。格好いい名前にしたい」
「うわ、名前はともかくパーティは楽しそう! 私もパーティに入れてよ! こう見えて強いんだよ!」
「うん、知ってる。アダマンタイトでしょ。でも、ゾルデ姉ちゃんが前衛をやったら、アンリの出番がなさそう。アンリがゾルデ姉ちゃんくらい強くなるまでは無理かな」
アンリが戦おうと思った次の瞬間には魔物さんを倒している気がする。それじゃアンリの修行にならない。
「だめかー。それじゃ私はソロで突き進もうかな。この村の人は誰も戦ってくれないし……」
ゾルデ姉ちゃんがちらっとユーリおじさんのほうを見た。これは何のアピールなのかな? 遠回しに戦ってくれって言ってるのかも。
でも、ユーリおじさんはさっと視線を逸らした。戦う気はないみたいだ。
「もー! この村には強そうな人がたくさんいるのに誰も戦ってくれないんだよ! 酷くない!?」
「どのあたりに酷さがあるのかは分からないけど、アダマンタイトの冒険者と戦おうとする人はいないと思う」
「そうかなー? そういえば、アンリちゃんのお父さんにもお願いしたけどダメだったよ」
「アンリのお父さん?」
「そう。ウォルフさん。アンリちゃん達が聖都へ行っている時にアンリちゃんの家のそばで素振りしてたのを見たんだよね。どう見ても強いから一戦お願いしたんだけど、村を守るためにも怪我は出来ないからって断られちゃったよ」
その言葉になぜかユーリおじさんが頭を抱えた。そして恨めしそうにゾルデ姉ちゃんを見る。
「ゾルデさん、本当にやめてくださいよ。普通の人に迷惑を掛けたらダメでしょう。苦情は冒険者ギルドに来るんですよ……今度お土産を持って謝りに行かないと……胃が痛い」
「え? ええ? どう見てもアンリちゃんのお父さんは普通じゃないと思うけど? 下手したらアダマンタイトに匹敵する感じだったよ?」
なんだかゾルデ姉ちゃんとユーリおじさんが言い争いをしている。
話題はアンリのおとうさん。強いか普通かで言い争ってるみたいだ。アンリは強いと思ってるけど、アダマンタイトは言い過ぎじゃないかな?
話を聞いておきたい気もするけど二人をこのままにしてアンリ達はダンジョンへ行こう。付き合ってたらダンジョン攻略の時間が無くなっちゃう。
「スザンナ姉ちゃん、クル姉ちゃん、アンリ達はダンジョンへ行こう。二人の話は長引きそうだし」
「うん、それに賛成。それじゃクルも――どうかした?」
クル姉ちゃんが腕を組んで首を傾げてる。でも、すぐにアンリのほうを見た。
「アンリのお父さんってウォルフって名前なの?」
「うん、そうだけど、それがどうかした?」
「ええと、もしかしたら勘違いかもしれないけど、シロキリのウォルフ?」
「シロキリ? 何それ?」
「お城を斬るって書いてシロキリ。以前、トラン国にそういう二つ名の人がいたんだよね。昔の傭兵はみんなその人を怖がっていたみたい。シロキリを見たら逃げろって言うのが傭兵達の常識だった時もあったとか。もしかして、アンリのお父さんがその人なのかな?」
ダンジョンに行ってる場合じゃない感じの情報が出てきた。
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