第228話 獅子王と立体映像と魔族さん

 

 宴の出し物は一時中断。これからはお昼タイム。


 応援したり拍手したりしてたからお腹はちょっとだけ減ってる。昼食から夕食までは結構な時間があるから、ここはたくさんお腹に入れても大丈夫。問題は三時。ここでおやつ的な何かが出てくる可能性が無きにしも非ず。ちょっとは抑えたほうがいいかな?


 ここはフェル姉ちゃんにアドバイスを貰おう――と思ったんだけど、フェル姉ちゃんは料理じゃなくてどこか別の場所を見てるみたい。


 視線の先にはオリスア姉ちゃん達がいる。結構深刻そうな顔をして相談しているみたいだけど、何の相談をしているのかな?


「アンリ、スザンナ。私は向こうに行ってくるから」


 フェル姉ちゃんも気になるんだと思う。ついて行きたい気もするんだけど、ここは待ってた方がいいかな。


 スザンナ姉ちゃんと待ってる旨を伝えると、フェル姉ちゃんはオリスア姉ちゃん達がいるところへ歩いて行った。


 フェル姉ちゃんを待ってからお昼にしようかな。幸いなことにデザート的な物は出ていない。ちょっとくらい待っても問題ないはず。デザートが来たらフェル姉ちゃんの分まで取っておいてあげよう。


「む、フェルは向こうへ行ってしまったようだな」


 大きい声が聞こえたと思ったら、アンリ達の後ろにオルドおじさんがいた。


 近くで見るとものすごく大きい。たぶんだけど二メートル以上あるんじゃないかな? 巨大な壁みたいだ。


「えっと、こんにちは。私はアンリ。こっちはスザンナ姉ちゃん」


「スザンナ。よろしく」


「む。儂はオルドだ。恥ずかしながら獅子王と言われておる。まあ、王などではないがな。これから村で獣人達が働くことになるのでな、仲良くしてもらえると助かる」


「うん、全力で仲良くする」


「アンリに同意」


 アンリ達がそう言うと、オルドおじさんは何回か瞬きした後に大声で笑いだした。


「そうか! 全力で仲良くしてくれるか! 魔族であるフェルを受け入れたことといい、この村の人族は本能に負けない精神力を持っておるのだな!」


「何の話か分からないけど、この村では魔族さんも獣人さんも、それにエルフさんやドワーフさんやドラゴニュートさんもみんな仲良し。その方が楽しいに決まってる」


 オルドおじさんは腕を組んで目を瞑り、ちょっとだけため息をついた。


「……そうか。そうだな、その方が楽しいに決まっておるな。創造主も管理者も間違っておったのだろう。誰かの意志によって感情を操作された世界など、何の意味もない」


 なんかこう憂いの表情だ。これもアンニュイな表情なのかな。それはそれとして何を言ってるのか分からない。もっと子供向けに言って欲しい。


「何の話か分からないから、もっと分かりやすく言って」


「おお、すまんな。いや、なに、今のは独り言だ。気にせんでくれ――そうそう、儂のボディビルはどうだった? なかなかの声援だったので受けたと思うのだが」


 確かに午前中の出し物でオルドおじさんが筋肉を見せつける感じのポーズをとってた。黄色い声援とブーイングが混じってたけど概ね評判は良かった気がする。


「うん、筋肉モリモリで格好良かった。でも、フェル姉ちゃんはすごく嫌そうな顔をしてたかな。あと、村の男の人にも受けは悪かったと思う」


「おかしいのう。男と言えば筋肉だろうに」


 それは初耳。アンリも大きくなったら筋肉をつけたいと思ってたんだけど、女じゃダメかな?


 あれ? 今度はラスナおじさんとローシャ姉ちゃんが近寄ってきた。


「あれ? フェルはいないの? 話をしたかったんだけど……」


「フェル姉ちゃんはちょっとお出かけ中。すぐに戻ってくると思う。そうだ、ローシャ姉ちゃん、あのファッションショーは格好良かった」


「あら、ありがとう。でも、ああいうのは苦手ね。それに無料だったし。お金をくれるなら何度でもやってあげるけど」


「はっはっは、会長。あまりお金にがめついと商機を逃しますぞ?」


「ラスナにだけは言われたくないわ」


 ローシャ姉ちゃんはそう言ってからすぐ隣を見た。不思議そうな顔をしてから徐々に上を見る。そしてオルドおじさんの顔を見てびっくりしたみたいだ。


 たぶん、オルドおじさんがいたことに気づかなかったんだと思う。壁か何かだと思っていたのかも。


 でも、今度は一歩下がってジロジロ見てる。


「貴方! いい体してるわね! ヴィロー商会に雇われない!? 好待遇で雇うわよ! あ、フェル、貴方もこの獣人に言ってあげて。うちの商会はいい商会だって」


 いつのまにかフェル姉ちゃんが戻ってきてた。


 でも、どうしたんだろう? 呆れた顔をしてるみたいだけど。


「それはいいが、ソイツを雇う気なのか?」


「ええ、獣人で強そうだし、遺跡の警備とかに向いてそう。目利きには自信があるわ!」


「ローシャ、ソイツは獅子王って呼ばれていて、獣人達の中じゃ一番偉い。目利きが良すぎて、雇えない奴を勧誘してるぞ」


「え? 獅子王? 一番偉い?」


「オルドだ。獅子王と呼ばれているが王ではない。だが、雇うのは諦めてくれ。本来は共和国から出ない方がいい立場だからな」


 オルドおじさんは王じゃないけど、一番偉いんだ? でも、一番偉いなら王様なんじゃないかな?


 不思議に思っていたら、ラスナおじさんが笑い出した。大笑いだ。


「会長、素晴らしい縁ではないですか。雇うのは諦めてオルド殿と縁を深めましょう!」


「あ、うん、そうね……獅子王?」


「お主達は商人だったか? 確かピラミッドを管理してくれる商会のトップだったな。うむ、儂もお主達と商売の話をしておきたいと思ったところだ。ぜひ縁を深めさせてくれ」


 オルドおじさんはそう言ってからローシャ姉ちゃん達を連れて別の場所へ行っちゃった。


「えっと、オルドおじさんは王じゃないけど獅子王でウゲン共和国だと一番偉いんだ? ……もしかしてなぞなぞ?」


「まあ、色々あるんだろ……なんだ、昼食を食べていないのか?」


「うん、フェル姉ちゃんを待ってた」


 アンリの言葉にスザンナ姉ちゃんも頷く。


 フェル姉ちゃんは笑ってアンリ達の頭をなでてくれた。ちょっと雑。もっとなでなでスキルを上げて欲しい。


「そうか、それなら昼食を食べながら出し物を見るか。そろそろ始まるみたいだし――午後の最初はヴァイアか」


 急いで料理を選んで戻ってくる。


 相変わらずフェル姉ちゃんの食べる量は多い。アンリも負けられない。


 食べながらステージの上にいるヴァイア姉ちゃんを見る……あれ? なんでヴァイア姉ちゃんが二人いるんだろう? 分裂した?


 フェル姉ちゃんも手に持ったスプーンを口にくわえたままステージを凝視しているみたいだ。それにみんなも驚いているようでざわざわしてる。


 そして左側にいるヴァイア姉ちゃんが動き出した。右手をこっちに向かって振ってる。


「こんにちは、ヴァイアれす――です! これは映像を立体的に保存して再生できる魔道具『れっ君』です! 保存も再生も魔力消費が多いけど、これから頑張って消費魔力を減らすようにして皆にも使えるように頑張ります!」


 左側のヴァイア姉ちゃんがそこまで言うと、いきなり消えちゃった。


 そして右側にいるヴァイア姉ちゃんが笑顔になった。


「今のが録画した映像です。私のほうが本物なので間違えないでくださいね!」


 ヴァイア姉ちゃんがそう言うと、みんなが興奮したように拍手をした。


 そしてステージの下ではクロウおじさんと、ドレアおじさんが「見せてくれ!」って今にもステージに上りそうな感じだ。オルウスおじさんとかサルガナおじさんが止めてるけど。


 フェル姉ちゃんは口に入れてた食べ物をよく噛んでゴクンと飲み込んだみたいだ。


「すごいな。あんな魔道具をどうやって作ったんだ?」


「うん、ヴァイア姉ちゃんはすごい。アンリも自分にちょっとした重力魔法をかける魔道具とか、加速の魔法が使える魔道具を作ってもらったんだけど、簡単に作ってた」


「重力魔法と加速の魔法が使える魔道具? 言っておくが、そのレベルの魔道具って相当な価値があるからな?」


「うん、たとえお金に困っても売らないって誓う」


 これはアンリの宝物。九大秘宝には入らないけど大事にしよう……九大秘宝とは別のお宝枠を作ろうかな。お宝四天王とか。


 あれ? 今度はオリスア姉ちゃん達がステージに上がった。出し物をするのかな?


「フェル姉ちゃん、オリスア姉ちゃん達が何かするみたいだよ?」


「……らしいな。さっき、そんなことを言ってた。なにか悩んでいるかと思って話しかけたら、出し物の相談をしてたみたいだ。私の心配を返して欲しい」


 さっきのは深刻な話じゃなかったみたいだ。ちょっと楽しみ。何をしてくれるのかな?


 ドレアおじさんが一歩前に出た。


「儂のユニークスキルを見せよう。可愛い虫たちを堪能してくれ」


 ……周囲に大量の虫が出てきて阿鼻叫喚だった。


 アンリとしては虫も可愛いと思う。でも、ムカデは駄目。あの歩き方を見てるとぞわぞわする。


 そしてフェル姉ちゃんはまた頭を抱えて下を向いてる。


 今度はサルガナおじさんが前に出た。


「だから言っただろうに。虫は苦手な人が多いのだ。では、皆さん、今度は私がユニークスキルを披露しましょう。私の影で楽しんでください」


 ……これまた阿鼻叫喚だった。影のドラゴンはいいんだけど、観客を飲み込む感じなのはアウト。というか、体の半分くらい飲まれてた。喜んでたのはクロウおじさんくらい。


 最後はオリスア姉ちゃんみたいだ。


「ふん、お前たちはユニークスキルに頼り過ぎなのだ。魔族なのだからそれを活かした出し物にするべきであろう!」


 オリスア姉ちゃんが腰の剣を掲げた。


「とりあえずこの場にクレーターを作る! ユニークスキルなど不要! 種も仕掛けもない魔族の純粋な力をその目に刻んで欲しい!」


 フェル姉ちゃんがステージに転移して止めた。三人ともステージの上で正座して、フェル姉ちゃんに怒られてる。


 それがなんとなくシュールで、あれはあれで面白い気がする。皆も拍手してるし。


「アンリ、そろそろ出番だよ。ウォーミングアップしておこう。それに衣装も着替えないと」


「うん、真打登場。アンリ達がこの宴に終止符を打つ」


「その言葉の使い方ってあってるかな……?」


 こういうときはノリと勢い。よし、踊りを頑張るぞ!

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