第227話 宴の出し物

 

 宴はまだまだ序盤。ウェンディ姉ちゃんのおかげで場は温まった。


 次はおじいちゃん達の番だ。おじいちゃんとエルフさん達がステージの上で演奏の準備をしている。これは楽しみ。


 以前、おじいちゃんはジョゼちゃん達と一緒に演奏していたけど、本調子じゃない魔物さんもいるからって今日はこっちの宴には参加していない。ダンジョンの中で魔物さん達だけで宴を開くとか。


 アンリもそっちに出たい気もするけど、気を使わせちゃうかもしれないから行かないほうがいいかな。楽しさを共有することは出来ないけど、向こうは向こうで楽しくやっているんだと思う。あとでどんなだったか聞いてみよう。


 そんなことを考えていたらおじいちゃん達の準備が整ったみたいだ。


 そしてスローテンポの音楽が流れる。


 おじいちゃんはトランペットだけど、エルフさん達は色々な楽器で音楽を奏でている。小型のハープみたいなものとか、横笛とか、バイオリンみたいのとかいっぱいだ。


 ミトル兄ちゃんは横笛かな。結構うまい。聞いたわけじゃないけど、たぶん女の人にモテるからとか言う理由で始めたんじゃないかなって思う。それにエルフさんは長生きだから趣味に没頭する時間もたくさん作れる。上手いのは当然なのかも。


 曲が終わるとみんなから拍手が沸き起こった。アンリも拍手しておじいちゃんを讃える。今日聞いた曲はいつもより数倍上手い気がする。心がこもっているというか――悩んでいることがなくなったって感じかな? こう、開放感にあふれている感じ。


 フェル姉ちゃんもおじいちゃんの演奏が良かったみたいでたくさん拍手をしてくれてる。


「前にも聞いたが村長は演奏が上手いんだな」


「うん。若い頃はあれでブイブイ言わしてたって聞いた」


「ブイブイ……あまり想像できないな。そもそもブイブイが想像できん。どういう意味だ?」


「アンリも実は良く知らない。おとうさんから聞いた話だと、おじいちゃんは昔、とある楽団を率いていたって聞いたことがあるけど」


「楽団?」


「うん。おじいちゃんと楽団の人が曲を奏でることで、戦いの士気を高めるとか言ってた。たぶん、話の通じない魔物さんを倒すときに能力向上系の演奏をして味方をサポートしていたんだと思う。おとうさんが言うにはおじいちゃんの支援があるときは負けなしだったみたい」


 おじいちゃんはいわゆる後方支援型。アンリは完全に前衛攻撃型だ。いつだって一番槍を狙ってく。


「村長は色々謎だな。どういった経緯でトラン国の――」


 フェル姉ちゃんがそこまで言いかけて口を閉じちゃった。


「トラン国の……なに?」


「いや、何でもない。それよりもアイス食べるか? 実は亜空間にもう一個キープしてたんだが」


「それはアンリに対する挑戦と見た。アンリのお腹はまだまだいける。でも、スザンナ姉ちゃんと半分こ」


「うん、アンリと一緒に半分ずつ食べる――アンリ、半分とは言ったけど、チョコレートがかかった部分を半分にして。それじゃただのアイスとチョコレートアイスに分かれちゃう」


 アンリの作戦は失敗。スザンナ姉ちゃんは抜け目ない。


 アイスをスプーンで半分にしてスザンナ姉ちゃんと分ける。食べながらふとステージを見たらいつの間にかおじいちゃんの演奏が終わってた。


 次の出し物になると思うんだけど、なぜかマナちゃん達がステージ上がってる。もしかして何かするのかな?


 ステージの右端にはリエル姉ちゃんが満面の笑顔で立っていた。


「おし! それじゃこれから俺の子供たちによる歌を聞かせてやるぜ! 耳をかっぽじってよく聞いてくれ! すげぇいい声だからってびっくりするなよ!」


 リエル姉ちゃんがそう言うと、マナちゃん達はなんだか照れた感じになってる。


 一人がコホンと咳をしてから、指揮者みたいにタクトを振ると、マナちゃん達が歌いだした。


 リエル姉ちゃんが言っていた通りいい声。神聖な感じの綺麗な声って言うのかな。みんなですごく高い声を出してる。


 そして曲が終わるとまた拍手喝采だ。もちろんアンリも思いっきり拍手。


 マナちゃん達はさらに照れ臭そうにしているし、リエル姉ちゃんはステージの下で泣きながら拍手してる。


 知ってる。あれは親バカ。リエル姉ちゃんはマナちゃん達が可愛すぎて仕方ないって感じだ。逆にマナちゃん達もリエル姉ちゃんが好きすぎて仕方ないって感じ。


 いい歌声だったのに、なぜかフェル姉ちゃんが眉間にしわを寄せてちょっと苦しそうにしてる。


「フェル姉ちゃん、どうしたの? まさかとは思うけど、食べ過ぎ?」


「そうじゃない。さっきの歌なんだが、なんか破邪結界の中にいるような感じがしてな。たぶん、歌声に魔族を弱らせる何かがあったんだろ。普段から歌に魔力を乗せて歌ってたんだろうな」


「そういうこともできるんだ?」


「たぶんな。もとは女神教で教育されていたからそう言うこともあると思う。大丈夫だからあまり騒ぎ立てるなよ?」


「うん。でも、リエル姉ちゃんには言っておいた方がいいんじゃないかな? 宴の度にフェル姉ちゃんが大変なことになっちゃう」


 フェル姉ちゃんは「まあ、あとでな」と言って、またステージのほうを見た。でも、さらに眉間にしわが寄る。そして眉間に右の人差し指を当ててぐりぐりしてる。


 何だろうと思ってステージを見たら、レモ姉ちゃんがいた。


 村に帰ってから会う機会がなかったんだけど、アンリ達がいない間、村の周辺をずっと警護していてくれたはず。もしかしてレモ姉ちゃんが出し物をするのかな?


 と言うよりも、服が、なんというか変? ううん、格好いいのかな? どっちだろ?


 いつものぴっちりした感じの鎧じゃなくて、今日は普通の服――普通なのかな?


 いわゆるメノウ姉ちゃんのゴスロリみたいな漆黒と言ってもいいほどの黒い服だ。でも、メノウ姉ちゃんの服よりもスカートの丈は短い。そのせいか、クモの巣をイメージしているニーソックスの主張がすごい。そしていつも付けてる眼帯は赤いバラになってた。あと、右手を包帯で巻いてる。


 色々と盛り過ぎじゃないかな?


 そしてレモ姉ちゃんは包帯でぐるぐる巻きの右手をバッと開いて皆のほうへ向けた。そしてニヤリと笑う。


「フハハハ、子羊たちよ! 約束の地で地獄の業火に焼かれるがいい!」


 みんな面食らってる。もちろんアンリも。そしてフェル姉ちゃんは両手で頭を抱え込んじゃった。


 レモ姉ちゃんはステージを右端に歩いてからちょっとポーズをとった。そして今度はステージの左端のほうへ歩いて行って立ったままだ。地獄の業火は出ないのかな?


 あれ? 今度はウェンディ姉ちゃんがステージにあがった。でも、服は普通、って言うか歌ってた時の服のままだ。そして両手を大きく広げた。


「刻は、来た。封印、は、解か、れる。落日、の、世界、に、おび、えよ」


 ウェンディ姉ちゃんも訳の分からないことを言ってから、レモ姉ちゃんと同じようにステージを右端に歩いてから左端へ行ってレモ姉ちゃんの隣に並んだ。


 もしかしてこれってディア姉ちゃんプロデュースのファッションショーじゃないかな?


 よく見たらステージの下、右端にディア姉ちゃんがちょっとだけ見える。ステージの裏で何かやってるみたいだ。


 今度はネヴァ姉ちゃんが出てきた。ピンク色が主体のドレス。貴族のお嬢様が着るような感じの服だ。なんで雨が降ってないのに傘をさしてるのかな?


「くっ、ディア、覚えてなさいよ……! え、えーと、パ、パンがなければアイスを食べればいいじゃない!」


 アンリとしてはすごく同意だけど、言わされてる感がすごい。そして顔が真っ赤だ。


 ネヴァ姉ちゃんもこれまでと同じようにステージを歩いてウェンディ姉ちゃんの隣に立った。


 みんなもようやく気付いた感じだ。これはファッションショー。奇抜な言葉に驚くんじゃなくて、服を見る。


「フェル姉ちゃん、大丈夫。これはディア姉ちゃんのファッションショー。レモ姉ちゃんだけが出し物をしているわけじゃない。ウェンディ姉ちゃんやネヴァ姉ちゃんもやってる。頭を抱えてないで、ちゃんと見てあげて」


「そ、そうなのか? 魔族のイメージダウンにはならないんだな……?」


「……うん、大丈夫」


「その間はなんだ……?」


 そんなことをしている間にもステージには沢山の人が面白い服を着て歩いてる。その中にはマナちゃんや今日来たばかりの獣人さん達もいた。


 そしてローシャ姉ちゃんも出てきた。


 見た感じ男装の麗人って感じ。貴族の男性が着るような煌びやかな服。腰に差してるレイピアっぽい細い剣が格好いい。


「私、これでもヴィロー商会の会長なんだけど……しかも無料でやるなんて……ええと、何だったかしら……?」


 ローシャ姉ちゃんは腰の剣を右手で抜いて皆のほうへ向けた。そして左手でメモを取り出す。


「そうそう、『女などとうに捨てた! 富も、名誉も、愛もいらん! 命も不要! だが貴様の首だけはもらい受ける!』……何これ?」


 村の女性陣から「キャー」っていう歓声があがった。ローシャ姉ちゃんはその声にびくっとしてた。


 確か有名な本のセリフだった気がする。棒読みじゃなくて結構感情が入ってたけどローシャ姉ちゃんは知らないみたいだ。


 最後にディア姉ちゃんが出てきて「服の事なら私に任せて!」って言うと、割れんばかりの拍手がおきた。ファッションショーは成功ってことかな。


 フェル姉ちゃんも拍手している。どうやら立ち直ったみたいだ。


「レモがやらかしたと思ったんだが、思いのほか大丈夫だったな。しかし、最初にインパクトを与えすぎだ。主に私に」


「最初にインパクトを与えるのは作戦として悪くないと思う。スザンナ姉ちゃんはどうだった?」


「最初はびっくりしたけど楽しかったよ。奇抜な服も多いけど、マナの服は実用的だったし、私もディアちゃんに服を作ってもらおうかな」


「その時はアンリも一緒に作る。ペアルックにしよう」


「あ、うん……レモちゃんみたいのでもいいかな?」


 もしかしてスザンナ姉ちゃんはチューニ病が再発……? でも、あれはあれでいい物だと思う。どんな服を作ってもらうにせよ、ディア姉ちゃんにお金を払って服を作ってもらうっていうのは悪くない。頑張ってお金を稼ごう。


 そろそろ別の出し物が始まりそうだ。まだまだ楽しい時間は続くみたい。全力で楽しもう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る