第225話 大きな宴
今日は朝から宴だ。それを祝福しているみたいに天気は快晴。暑くもなく寒くもない宴会日和。
宴の名目はリエル姉ちゃんを無事に取り戻したお祝い。
でも、そのお祝いのお金はリエル姉ちゃんが出してくれるとか。リエル姉ちゃんは「こんなもんじゃ足りねぇけど、これくらいはやらせてくれよ」っておじいちゃんに言ったみたい。
リエル姉ちゃんはみんなへの治癒魔法といい、普段あれだけどやるときはやる人。マナちゃん達が憧れるのもよく分かる。将来ああなりたいかと言われると答えに詰まるけど。
村の広場ではロンおじさん達がステージを作ってる。
アンリやスザンナ姉ちゃんはヤト姉ちゃんやメノウ姉ちゃんのバックダンサーとして踊る予定。でも、今日はいつもより気合を入れないとダメ。
なんと出し物の一番手はウェンディ姉ちゃん。アイドルの頂点に立つ人がどんなものなのかをちゃんと見ておこう。超えるべき山の高さは知っておくべきだと思う。
そんな決意をしていたら、クル姉ちゃんがやってきた。そしてアンリとスザンナ姉ちゃんのほうを見て頭を下げる。
「おはようございます、アンリさん、スザンナさん」
「おはよう。でも、アンリにさん付けしないで。すごく壁を感じる」
「私も。年上なんだしスザンナでいいよ」
「でも、村長のお孫さんとアダマンタイトの冒険者なんだよね。特にスザンナさんに関しては、ランクがゴールドで誇ってた自分が恥ずかしいんだけど……」
昨日、クル姉ちゃんとトラン国の話をした後に、ドワーフのゾルデ姉ちゃんがやってきた。
クル姉ちゃんはゾルデ姉ちゃんと村で何度も会っていたようでアダマンタイトだと知ってたみたいなんだけど、その時にスザンナ姉ちゃんもアダマンタイトだと言うことが分かってショックを受けてたみたいだ。
その後、なぜかオリスア姉ちゃんもやって来て、ゾルデ姉ちゃんと戦いになった。
オリスア姉ちゃんの重力魔法で動けなくなったゾルデ姉ちゃんが筋力強化魔法重ね掛けにより動くという熱い戦いが展開されたけど、その戦いはオリスア姉ちゃんが勝った。
その戦いを見てもクル姉ちゃんはショックを受けてたみたい。
それ以降、クル姉ちゃんはなぜかアンリ達に敬語を使ってる。オリスア姉ちゃんがアンリのお師匠様ということも影響しているのかな? ならここはもっとフレンドリーに行くべき。
「とにかく敬語禁止。そこでクル姉ちゃん、今日はアンリ達と一緒に行動して宴を楽しもう」
「敬語のほうは頑張るよ。でも宴を一緒に回るのはちょっと無理かな。その申し出自体は嬉しいんだけど、今日はオリスアさん達と一緒にいる予定なんだ。ほら、オリスアさん達ってルハラに来てたでしょ? でも、一ヶ月後くらい留守にしていたし、色々情報共有しておかないといけないんだ。これも仕事のうちでね」
「そうなんだ?」
「うん、だから次の時はよろしくね」
「残念だけどお仕事なら仕方ない。それじゃ次の宴では一緒に行動しよう」
クル姉ちゃんは「楽しみにしてる」って言ってから、オリスア姉ちゃん達のほうへ向かっていった。宴なのにお仕事って大変。
この村はフェル姉ちゃんが来てから宴が増えてる。すぐに次の宴があるだろうし、クル姉ちゃんと仲良くなるのは次の機会にしよう。
改めて広場を見るとフェル姉ちゃんが森の妖精亭の入口付近にいた。フェル姉ちゃんの周りにはひっきりなしに誰かが挨拶に行ってるみたい。
最初はドラゴニュートのムクイ兄ちゃん達。
フェル姉ちゃんが無事に目を覚ましたっていう連絡を受けて「それならお祝いだな!」って言って大霊峰にある村までドラゴンの肉を取りに行ったとか。
大霊峰から大狼のナガルちゃんがソドゴラ村まで来たから、森にちょっとした道が出来たみたいで、それを使って村まで戻るとか言ってたみたい。たくさんの荷物を持っているからちゃんと大霊峰にある村まで行けたんだと思う。
次はエルフさん達。
昨日の時点でミトル兄ちゃんはソドゴラ村に滞在していたみたいなんだけど、宴をやるからってエルフの森からみんなを呼んだみたい。
エルフの隊長さんがフェル姉ちゃんと話しながらジャムとかリンゴを取り出した。あれはアンリの食べ物と言っても過言ではないと思う。
エルフさん達は前の宴でたくさんの楽器を使って出し物をしてたから今回もやるのかな? そういえば今日は朝からおじいちゃんが自慢のトランペット「インターセプタ―」を取り出していた。本気でエルフさん達とやり合うつもりなんだと思う。
あれ? 村の入口の所に知らない人達がいる。十人くらいいるけど誰だろう?
見た感じ獣人さんかな? 獅子の頭をした上半身裸の獣人さんが一番目立ってる。筋骨隆々で以前見たロックって人に体つきは似てる気がする。いわゆるマッチョだ。
「これはタイミングがいい時にきたかもしれんな!」
いきなり大きな声を出したから皆がそっちを見た。
みんなは「誰?」って感じの顔をしていたけど、フェル姉ちゃんだけは知っている感じの顔をしている。ちょっと驚いているみたいだけど。
フェル姉ちゃんが獅子の頭をした獣人さんに近寄った。
「オルドか? なんでここにいる?」
「おお、フェル、無事だったようだな。空中庭園から脱出ポッドで落ちてきたと聞いた時は驚いた。大丈夫だとは思っていたが心配はしたんだぞ?」
「そうか、それはありがとう。だが、そんなことはどうでもいい。オルド達はなぜここへ?」
「仕事をくれると言ったではないか。獣人達から希望者を募って連れてきたのだ。ズガルというところに何人か置いて来たが、ここでも仕事をくれるのだろう?」
獣人さんはソドゴラ村で仕事をするんだ? 最近、ソドゴラ村に来る人が増えているような気がする。
もしかして今日は人界にいるすべての種族がこの村にいるんじゃないかな? これからたくさんの楽しいことが起きそうで、ちょっとだけワクワクする。
オルドおじさんはおじいちゃんに挨拶してくるって言ってフェル姉ちゃんのそばを離れた。なら今のうちにフェル姉ちゃんのところへ行こう。
昨日はみんなにフェル姉ちゃんを独占させてあげたんだから、今日はアンリの番だ。
「フェル姉ちゃん。今日は人がいっぱい。いままでにないくらい大きな宴になりそう。興奮してきた」
「アンリの言う通り。今日のダンスは最高のものにしよう」
フェル姉ちゃんはアンリ達の言葉を聞いて周囲を見渡した。そして顔つきが凛々しくなる。
なんだろう、負けられない戦いに挑む、そんな感じの顔。もしかして出し物に参加するのかな? いままでフェル姉ちゃんがステージの上で何かをしたことはないと思う。もしかして踊るのかな? なら負けられない。
「フェル姉ちゃんはなにか出し物をするの? アンリとスザンナ姉ちゃんはバックダンサーとして活躍するつもり。主役を食って見せる」
「まあ、頑張ってくれ。私の出し物はない。見るのと食べるのが専門だ」
それはそれで残念。フェル姉ちゃんの踊りを見たかった。
フェル姉ちゃんは出ないみたいだけど、オリスア姉ちゃん達なら出るのかな? オリスア姉ちゃんなら剣舞とかやれそう。
「ならオリスア姉ちゃん達は?」
「無いと思うぞ。アイツらがそういう出し物をすること自体、想像できん」
「残念。オリスア姉ちゃんなら剣舞とかできると思ってたから、見たかった」
あれ? フェル姉ちゃんはなにか考え事をしているみたい。どうかしたのかな?
「フェル姉ちゃん、考え事?」
「そうだな。ちょっと考え事だ。宴が始まるというのに無粋だった。考え事はやめて楽しむか」
「うん、今日のアンリはフルパワーで楽しむ。フェル姉ちゃんもスザンナ姉ちゃんもちゃんとアンリに付いてきて」
「それは私のセリフ。アンリこそついてこないと置いて行っちゃうよ?」
「スザンナ姉ちゃんからの挑戦だと受け取った。アンリのフルパワーに恐れおののくがいい」
「お前ら何をする気なんだ? 普通に楽しめ、普通に」
アンリに普通なんて似合わない。いつだって皆の予想を超えていきたい。
おじいちゃんがステージに上がった。宴が始まるみたいだ。
よし、スタートダッシュをかますぞ。
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