第215話 空中都市落下跡地
聖都を出て五日目、空中都市が落ちた場所へお昼ごろに着いた。
メノウ姉ちゃんやステア姉ちゃん、それにヤト姉ちゃんが着いたとたんに食事の準備を始める。さすがと言わざるを得ない。
こんなものが宙に浮いていたなんて信じられないくらい大きなものがある。控えめに言って山。それなのにメイドさんとヤト姉ちゃんは何の驚きもせずにお昼の準備を始めた。ちょっとは驚こうよって言いたい。
聞いた話によると、空中都市は半径五キロくらいの半球体だとか。平面になっている部分が上。遠くから見た感じだと、巨大な大地が浮いているって感じだったんだけど、近くで見ると土の隙間から白い金属っぽいものがちょっとだけ見える。
本体はもしかして金属? 土でも金属でもいいんだけど、こんなものが浮くなんてもうちょっと重力は仕事をしたほうがいい。
それはそれとして、フェル姉ちゃんはどうしてここに寄ったのかな?
最初はロモン国にある町を通って帰る予定だったんだけど、フェル姉ちゃんがここに寄りたいっていったから、帰りも行きと同じ道を通って帰ることになった。
フェル姉ちゃんは自分だけでいいって言ってたけど、そんなことできるわけないって皆に怒られてた。もちろんアンリも怒る。アンリ、アングリー。
そんなわけで、聖都を出て二日目にはパンドラ遺跡、四日目にはレメト湖、そして五日目でここまで来た。本来なら三日でここまで来れるんだけど、これは仕方ない。
魔物のみんなと違って馬車を引いているお馬さんは普通の馬。なのでそのスピードに合わせていたからちょっとだけ到着が遅くなった。でも、お馬さんも負けていられないって奮起した。最近はちょっとだけ速度が上がった気がする。
色々考えていたらちょっと落ち着いた。皆もぽかんと見てたけど、そろそろ落ち着いたみたいだ。
でも、フェル姉ちゃんとアビスちゃんだけはずっと空中都市を見ている。それに何かをしゃべっているみたいだけど……?
「アビス、入口はどんな感じだ?」
「ダメですね。ちょっとだけ見て来たのですが、入口は瓦礫で埋まってしまいました。撤去するにしても相当な年月がかかるでしょう」
「そうか」
「中を気にする必要はないかと思います。そもそも何の反応もありません。ウィンはもとより、イブ達や追放された創造主――フェル様の言う魔王様もいません」
「そうだな。ここから私やリエルが乗った脱出ポッド以外にもう一つの脱出ポッドが排出されたとステアが言っていた。おそらくそれに魔王様が乗っていたのだろう」
「その可能性が高いですね。一応、遺跡機関に連絡して入口の瓦礫を撤去するように申請しておきました。ついでに途中にあったパンドラ遺跡も調べるように連絡済みです」
「遺跡機関か……なら管理の方はヴィロー商会に任せるか」
そんなお話が聞こえてくる。よく分からない単語や名前が出てきたけど、一体何の話をしているのかな? ここはスザンナ姉ちゃんと一緒に突撃だ。
「フェル姉ちゃん、何のお話? アンリ達も混ぜるべき」
「そうそう、内緒話は良くない。私たちにも色々教えて欲しい」
「うん? いや、単に中に入れないなと思っていただけだ。入口が瓦礫で埋まっているからそれが撤去されるまでは中に入れないみたいだな」
「フェル姉ちゃんは入口以外から中に入る方法を知っているんじゃないの? 聖都の大聖堂からこの空中都市に入ったんだよね? むしろそれを教えて」
「ああ、それはなんて言えばいいかな。大聖堂に転送装置という魔道具があったんだが、それで空中都市の平面部分に転送したんだ。それがいま見ているこの斜面だな。それからあのあたりにある入口まで徒歩で移動して中へ入ったから、あそこに瓦礫があると入れないんだよ」
「そうなんだ?」
残念。出来ればアンリも空中都市に入りたかった。
そうだ。よく考えたらここでのことを色々聞きたかったんだ。フェル姉ちゃんは起きたばっかりだったから質問攻めは良くないと思って自重してたけど、もう大丈夫だと思う。
「フェル姉ちゃんが空中都市にいたとき、青い光が空中都市を攻撃してたけど、あれってフェル姉ちゃんがやったの? 実はちょっとだけ興奮した」
「そうだな。空中都市の内部でサテライトレーザー……いや、メテオストライクを使った。色々あって空中都市は外海へ落ちそうだったからあの攻撃で軌道をずらしたんだ」
「えっと、理由はよく分かんないけど、フェル姉ちゃんが空中都市を攻撃して落としたのは分かった。もう一つ教えて。ここに女神――邪神はいたの?」
フェル姉ちゃんはちょっとだけ眉間に眉を寄せた。
「……そうだな。邪神がいたのは間違いない。他にもいたが、アイツはどうなったんだろうな……」
フェル姉ちゃんは寂しそうな顔をして空中都市を見つめてる。それに何となくだけど、あまり言いたくないってオーラが体からにじみ出ている感じ。
アイツって誰とか聞こうと思ったんだけど、聞かないほうがいいのかな?
「はーい、皆さん、お食事ができました! お集まりくださーい」
メノウ姉ちゃんの声だ。お昼の準備が整ったみたい。
「料理が出来たみたいだから行こう。お話は聞きたいけど、まずは腹ごしらえ」
「そうだな。お腹がペコペコだ。よし、アビスもスザンナも行くぞ」
「そうですね、たまには私も食べますか。料理のデータを取っておくのも悪くありません」
「どんな時でもしっかり食べるのがいい冒険者」
うん、フェル姉ちゃんがちょっとだけ元気になったみたい。食べ物の力ってすごい。
今日はこの近くで野宿することになった。
ここからならメーデイアまで半日くらいでいけるみたい。前回は山を通ったからちょっと遠回りだったんだけど、今回は普通に関所のある町を通れるから時間が短縮できるとか。
そんな理由から午後は皆で思い思いのことをした。アンリやスザンナ姉ちゃんはもちろん修行。フェル姉ちゃんのお話を聞きたかったけど、なんとなく言いたくなさそうだったから空気を読んだ。
他の皆はのんびりしていたみたいだけど、そろそろ日が落ちるから皆で手分けしてテントを作っている。ヤト姉ちゃん達は夕食の準備。アンリやスザンナ姉ちゃん、それにマナちゃん達は邪魔にならないようにちょっと離れて待機中だ。
「マナちゃんは野宿に慣れた? 疲れてない?」
「慣れてはいないけど大丈夫だよ。もちろん聖都にいる頃と比べたら大変だけど、結構楽しいかな」
「そうなの?」
「うん。聖都にいた頃は色々な人が世話をしてくれたから、何もしなくて良かったんだ。でも今はリエル母さんが色々なことをやっとけって。今日は皆で焚き火用の薪を拾ってきたよ。知ってる? 焚き火用の薪は落ちている枯れた感じの枝がいいんだって。あと、木から枝を折って持ってきちゃ駄目なんだよ?」
アンリもスザンナ姉ちゃんから色々教わっているから結構知ってる。折れたばかりの枝は、燃えないことはないんだけど、煙がすごいとかだったかな?
でも、そっか。リエル姉ちゃんはマナちゃん達に色々おしえてあげてるみたいだ。
「ところでアンリちゃん。あそこにいるフェルさんなんだけど……」
「フェル姉ちゃん? 何でも聞いて」
「うん、どうしてさっきから駄々をこねてるの? メーデイアの町に行きたくないって言ってるよね? なんで?」
マナちゃんが見ているほうへ視線を移すと、フェル姉ちゃんとステア姉ちゃんがお話をしていた。
「メーデイアの町は素通りでいいと思うんだ。ステアを町まで届けるが、町へは寄らずにリーンまで行ったほうがいいと思う」
「お待ちください。ここからですとメーデイアに着くのは昼頃でしょう。そこからリーンへ向かったら変な場所で野宿になってしまいます。メーデイアで一泊することを提案させて頂きます」
「いや、ソドゴラ村へ早く帰りたい。私のせいで皆をずっと聖都に拘束してしまったからな」
「ご安心ください。すでに一ヶ月以上経っています。もう一日増えても大して変わりません。むしろ、一週間くらいメーデイアに滞在してみてはどうでしょう?」
ステア姉ちゃんの押しが強い。あれは交渉でよくやる手。最初に無茶っぽい条件を出して徐々にマイルドにする。そうやって一泊することを約束させる気だ。
フェル姉ちゃんが駄々をこねる理由……なんとなくわかる。メーデイアに寄ったらフェル姉ちゃんはすごく歓迎される。目立つことが単純に嫌ってことかな。魔王なのに。
いけない、まずはマナちゃんに説明しないと。
「えっと、フェル姉ちゃんはメーデイアの町へ行くとすごく歓迎されるからそれが嫌なんだと思う」
「歓迎されるのが嫌って……どうして?」
「その辺の気持ちはアンリにも分からないんだけど、目立ちたくないんだと思う。フェル姉ちゃんは地味なことが好き……だからかな?」
「目立ちたくない……? 歓迎されると目立つの? 拍手で迎えられるのが嫌ってこと?」
「それに近いかな。多分、町でパレードをすることになると思う」
マナちゃんは一瞬ぽかんとしてから、笑い出した。
「アンリちゃんの冗談はいつも面白い。いくら歓迎されているからってパレードはないよ。リエル母さんだって聖都でそんなことされないよ?」
アンリもメーデイアへ行くまではそう思ってたんだけど、フェル姉ちゃんは色々と規格外。事実は小説よりも奇なり。
「あんなに頑張ったのに……」
ステア姉ちゃんが泣き落としに入ってる。しかも嘘泣きだ。あれは嘘と分かっていてもなかなか耐えられない。精神攻撃への耐性がないと断るのは無理だと思う。
フェル姉ちゃんは大きくため息をついた。
「分かった。それじゃメーデイアで一泊するから。でも、泊まるだけだぞ。パレードは駄目だ」
「致し方ありません。町のほうへパレードは中止と連絡しておきます」
「……本気でするつもりだったのかよ」
決着がついたみたい。明日はメーデイアでお泊りだ。野宿は野宿で楽しいけど、やっぱりふかふかのベッドで寝たい。それと明日は皆で夜更かしガールズトークをしたいな……うん、みんなに提案してみようっと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます