第214話 お別れ

 

 アンリがリベンジを果たした翌日、朝から聖都の北門に皆が集まった。


 フェル姉ちゃん達やリエル姉ちゃんの子達。それに魔物のみんな。そして見送りに来てくれた人達。すごくたくさんの人が集まってる。


 これからアンリ達はソドゴラ村へ帰る。でも、まだちょっと準備があるみたいで色々やっているみたいだ。帰りもカブトムシさんのゴンドラを使うんだけど、今回は馬車も使うことになった。


 馬車に乗るのは主にリエル姉ちゃんの子達だ。カブトムシさんのゴンドラでも運べないことはないんだけど、ゴンドラの中がすごく狭くなるからアムドゥアおじさんに用意してもらったみたい。御者は革職人のガープ兄ちゃんだ。


 残念ながら馬さんはペガサスじゃないから飛べない。アンリ達は徒歩と言うか地上を移動する感じで帰ることになった。ロモン国に来てからはそれが普通だったから特に問題はないと思う。


 スザンナ姉ちゃんはいつも通り水のドラゴンを作った。これも地上用。のしのし歩くタイプのトカゲ型ドラゴン。


 お友達になったマナちゃんにこのドラゴンは変形したら空を飛べるって言ったら、「アンリちゃんの冗談はいつも面白い」って言われた。あれは信じてない。いつか見てもらって度肝を抜いてもらおう。


 準備は整ったみたいだけど、フェル姉ちゃん達はアムドゥアおじさん達と色々話をしているみたいだ。


 実はアンリもお話をしておきたい人がいる。スザンナ姉ちゃんと一緒にその人へ近寄った。


「司祭様」


「アンリとスザンナか。寂しくなるが達者でな。風邪をひかないようにするんじゃぞ?」


「うん。司祭様も病気とかに気を付けて。レメト湖の近くに町を作るんだよね? 湖にいる魔物は大人しくなったみたいだけど、水が近いから寒そうな感じがする」


「うむ、気を付けよう」


 司祭様とアミィ姉ちゃん、それに聖都にいた司祭様の家族はレメト湖周辺に町を作る開拓者になるみたい。つまりアンリ達とはここでお別れ。ソドゴラ村へは帰ってこない。


 司祭様はアンリがもっと小さい頃からソドゴラ村にいる。ずっと村にいてくれると思ってたんだけど、司祭様は家族と一緒にいることを選んだ。


 家族の人も一緒にソドゴラ村へ来たらって思ったんだけど、聖人教の信徒としてロモンに貢献したいみたい。女神教は邪教としてつぶれたけど、その影響はロモン国では大変だったみたいで、後釜の聖人教が出来てもいまだに色々あるとか。


 そういうこともあってロモンという国を家族で支えたいって司祭様は言った。


 そこまで言われたらアンリも引かざるを得ない。でも、すごく寂しい。いつもいるはずの人がいないって言うのは、なんていうか心に穴がぽっかり開く感じ。


 もう会えないってわけじゃないんだけど、気軽に会えないのは寂しい。


 司祭様がアンリの頭をなでてくれた。そして笑顔になる。


「そんな顔をするでない。落ち着いたらソドゴラ村へ遊びに行くからの」


「うん……それじゃすぐに落ち着いて」


「そうなるように頑張ると約束しよう。村へ帰らないことについては村の皆にも念話で連絡済みではあるがよろしく伝えてくれ。そうそう、ピーマンを食べられるようになっておくんじゃぞ?」


「約束は出来ないけど、ピーマンと和解できるように努力はする」


「うむ。それとスザンナ。アンリをよろしく頼むな」


「任せて。アンリの姉として頑張る」


 司祭様はさらに笑顔になってからアンリの頭とスザンナ姉ちゃんの頭をなでてくれた。おとうさんほどじゃないけど、このなでなでも好き。しわしわな手だけど、大きくてあったかい感じがする。


 何となく寂しくなったから、司祭様の足にぎゅっと抱き着いた。司祭様はさらにやさしくアンリの頭をなでてくれた。このなでなでは忘れないでおこう。


 一分くらい抱き着いていたんだけど、司祭様は他の人たちとも別れの挨拶をするということで最後に一なでしてから離れて行っちゃった。


 寂しいけどアンリが大きくなったらレメト湖の町へ遊びに行くということもできるはず。フェル姉ちゃんやスザンナ姉ちゃんと一緒に来るというのは楽しいかもしれない。


 ちょっとアンニュイな感じでいたら、バルトスおじさんがやってきた。シアスおじさんとティマ姉ちゃんもいるみたいだ。


「アンリよ。昨日も言ったが見事だった。勇者にリベンジを果たしたと村の魔物達に伝えるといい」


「うん、そうする。ヴァイア姉ちゃんの映像を残す魔道具で証拠の絵も出来たから大丈夫」


「ぐぬ……見せてもらったがあの絵は精巧すぎるのではないか? ちょっと悔しさがこみ上げるぞ……まあ、良い。いつかまた遊びに来い。その時は儂が剣を見てやろう」


 そういうことを言うと、すぐにオリスア姉ちゃんが来ると思うんだけど……あ、来た。


「勇者よ、私の弟子を取ろうとするのはやめてもらおうか! 何度も言ってるが、アンリ殿は私の弟子! 勇者協会などに入れるつもりはない! だいたい、勇者に鍛えられてもアンリ殿が強くなるかどうかわからん!」


「ぬ。確かに儂はお主に負けたが、指導方法で負けた訳ではないぞ。儂のほうがよりアンリを強くできると思うがな? これでも女神教の時に何人もの聖騎士を育てておる」


「女神は邪神なのだから邪騎士だろうが!」


「ぬぬぬ! そういう揚げ足取りはいかんと思うがな!」


 これはあれだ。本で読んだことがある。こういう時に言うべきセリフも知ってる。


「二人ともアンリのために争わないで」


 ちょっとニュアンスが違うかもしれないけど、アンリの取り合いをしているんだから似たようなもの。ここはアンリが場をおさめる。


「アンリは多くの人に色々なことを教わりたい。今はオリスア姉ちゃんが師匠だけど、もう少し大きくなったらバルトスおじさんにも教えてもらうつもり。そしてアンリはもっと強くなる」


「ほう! その貪欲さ、素晴らしいぞ、アンリ殿!」


「なるほど。長い人生で師匠が一人だけという訳でもないということか……うむ、気に入った! 大きくなったら色々教えてやろう!」


 その後、どっちがアンリを強くできるか色々話しているけど、本人であるアンリは蚊帳の外になった感じ。放っておこう。


 今度はシアスおじさんとティマ姉ちゃんが近寄ってきた。


「アンリと言ったな? 礼を言わせてくれ。バルトスがあれほど生きることに前向きになったのはお主のおかげじゃ。本当にありがとう」


「ええ、あの処遇会議の前は生きることに何の意味も見いだせない感じでしたから。アンリさ――ちゃんのおかげでバルトスさんは救われました」


「別に気にしないで。アンリがリベンジを果たすまでに死なれたら困るからああ言っただけ」


 アンリがそう言うと、ティマ姉ちゃんがちょっと目を見開いてから笑顔になった。


「ふふ、フェルさんと似たようなことを言うんですね。フェルさんも私を助けたのはリエル様を助けたついでだから気にしなくていいって言ってましたよ」


 フェル姉ちゃんに似てる……それはちょっと嬉しいかも。


 二人は何かあったら頼ってくれって言ってからこの場を離れた。ほかにも挨拶をする人がいるみたいだ。


 そうこうしているうちに皆のお話が終わったみたいだ。アンリ達もスザンナ姉ちゃんの作ったドラゴンに乗って準備完了。


 全員がゴンドラや馬車に乗り終わった。


 馬車の後ろからリエル姉ちゃんが顔をだして見送りに来ている人たちのほうを見る。


「アムドゥア、それにじいさん達、聖都と聖人教のことはよろしく頼むな」


「ああ、任せろ。そっちも孤児院を頑張ってくれ。何かあればすぐに連絡しろよ?」


「おう、何かあった時は頼りにさせてもらうよ。それじゃあな!」


 リエル姉ちゃんがそう言うと、馬車が動き出した。それに合わせてカブトムシさん達も動き出す。馬車やゴンドラについている車輪がゴロゴロと回り始めた。


 水のドラゴンに乗りながら背後を見ると、見送りに来ていた皆が手を振っていた。アンリもそれに対して手を振る。


 ロモン国はこれからも大変みたい。でも、フェル姉ちゃんのおかげで邪神はもういない。大変だとは思うけど何とかなる気がする。


 ……よく考えたらアンリが気にしても仕方ないことだった。アンリはソドゴラ村のことを考えるべき。


 フェル姉ちゃんがずっと眠っていたから結構な日が経ってる。念話でおかあさんやおとうさんとお話はしているけど直接は会ってない。なんだかすぐにでも会いたい気分。


 村に着くのは十日後くらいだと思う。出来るだけ早く帰りたいな。

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