第212話 新しい出会い

 

 今日のお昼はこの庭園でバーベキューをやるみたい。特訓していたら皆が集まって来てすぐに始まった。


 それはいいんだけど、気になることがある。


 アンリの知らない人が結構多い。


「スザンナ姉ちゃん、アンリ達が知らない人がこの場に結構いる。あのあたりにいる人とか誰だか知ってる?」


 アンリが指さしたほうをスザンナ姉ちゃんが見る。でも、すぐに首を横に振った。


「私も知らないかな。もしかして聖人教の人を呼んだのかも」


 よし。なら調査だ。まずはディア姉ちゃんの隣にいる……おじさんかな?


「ディア姉ちゃん」


「アンリちゃん、どお、ちゃんと食べてる? ピーマンもあるけど」


「うん、それに関しては対策をするつもり。それはいいんだけど、お隣にいる人を紹介して」


「ああ、この人はガープ君。革職人なんだ。フェルちゃんのベルトとか靴を作るために来てもらったんだよ。そうそう、ソドゴラ村まで一緒に来るから仲良くしてあげてね」


「ガープだ。よろしく頼む」


 短めの黒髪で体がすごくおっきい。見上げるって言うか、なんかこう山って感じ。でも、革職人なんだ? ならアンリもいつか作ってもらおう。靴がいいかな。


「私はアンリ。こっちがスザンナ姉ちゃん。こちらこそよろしくお願いします、ガープおじさん」


 アンリがそう言うと、ディア姉ちゃんが首を横に振った。それはアンリの挨拶は駄目って意味?


「ガープ君、私より年下だから。ガープお兄さんだね!」


「ええ?」


 オリスア姉ちゃんの四十歳越えというのも驚きだけど、これにも驚き。


 どう見てもアンリのおとうさん並なんだけど。それなのにガープおじ――兄ちゃんはディア姉ちゃんよりも年下。これはあれかな。不老不死の逆。ものすごく成長が早い。


「えっと、それじゃガープ兄ちゃん、よろしくお願いします」


「別にガープおじさんでも構わないぞ?」


「真実を知った以上はガープ兄ちゃんでいく。それじゃ改めてよろしくお願いします」


「そうか。なら、よろしく頼む。革製品が欲しかったらいつでも言ってくれ」


「うん、その時はお願いします」


 お金を稼げるようになったらお願いしようっと。


 ディア姉ちゃんとガープ兄ちゃんにお辞儀をしてから別の場所に移動する。次はあそこ。アンリやスザンナ姉ちゃんくらいの子達が十人くらいいる。みんな髪の毛が金髪で青い目だ。


 リエル姉ちゃんと一緒にいるみたいだし、もしかしてリエル姉ちゃんの兄弟とか姉妹かな?


 村にはアンリと同い年の子っていないからちょっとドキドキする。お友達になれるかな?


「リエル姉ちゃん。ここにいる皆はどちら様?」


「おう、アンリか。ちょうどよかった。紹介するぜ。昨日少し説明したよな? 俺の子供たちだ!」


 リエル姉ちゃんはそう言うと胸を張った。そして周りにいる皆は嬉しそうにしている。


 昨日説明した……もしかして女神教にいた孤児の人?


「えっと、孤児の人達? ソドゴラ村に孤児院を建てるって言ってたっけ?」


「おう、その通りだ。でも、ちょっと違うな。こいつらはもう孤児じゃねぇ、もう俺の子供だからな! まあ、名義上、ソドゴラ村に作るのは孤児院だけど、孤児じゃないからそこは間違えんなよ?」


 相変わらずリエル姉ちゃんはワイルド。そしてフェル姉ちゃん並みに男前。


 リエル姉ちゃんのその発言には涙ぐんでる子もいる。よく分からないけど、嬉しいんだと思う。


「アンリと歳の近い子もいるから一緒に遊んでやってくれな?」


「もちろん。村に住むならみんな家族。全力で遊ぶと誓う」


「おう、頼むぜ。えっと、アンリと同い年がいたよな……お、マナ、こっちに来てくれ」


 リエル姉ちゃんが手招きすると、アンリくらいの女の子がやってきた。でも、すぐにリエル姉ちゃんの足にしがみついて体を半分隠しちゃった。


 でも、こっちに興味があるのかアンリをジッと見つめている。


「なんだよ、人見知りしてんのか? まあ、今までずっと閉じ込められていたようなもんだから、同い年の子が珍しいのかも知れねぇな!」


「それはアンリも同じ。村に同い年の子がいなかったから、ちょっと新鮮。あ、自己紹介するね。私はアンリ。ソドゴラ村で村長をやっているおじいちゃんの孫。村のナンバースリーと言っても過言じゃない。だからアンリと仲良くしておくと後々色々なメリットがある」


 アンリがそう言うと、マナちゃんはさらにリエル姉ちゃんの後ろに隠れちゃった。アンリとお友達になると色々な特典があるというアピールだったんだけど、ダメだったかな?


「アンリ、お前、そういうこと言うなって」


「お友達になるためなら手段を選ばない感じで行こうと思った。この誘いはダメ?」


「俺やフェルたちとの関係を知ってるだろ? メリットがあって親友をやってるわけじゃねぇんだ。お前らも損得で友達になったりするなよ? メリットがなくなったら友達関係も解消されちまうじゃねぇか」


 リエル姉ちゃん、意外といいことを言った。確かにそうかも。損得で友達になっちゃいけない。


「それはその通り。リエル姉ちゃんと親友なのは結構デメリットも多いけど、みんな親友をしてる。もちろんアンリやスザンナ姉ちゃんも。それを考えたら今の自己紹介は間違ってた」


「おう、アンリ、ちょっと向こうで話そうか。だいたい、俺のデメリットって何だよ。これでも聖女だぞ? メリットだらけじゃねぇか。お得だぞ?」


 さっきと言ってることが違うけど、リエル姉ちゃんならさもありなん。ならちゃんとデメリットを説明しておこう。


「リエル姉ちゃんが親友だと、結婚を妨害される可能性が高い。九割五分は堅いと思う」


「それは否定しねぇ。でも、親友なら当然だろ?」


 親友ってなんだろう。本気で言ってそうなところがちょっと怖い。冗談だとは思うけど。


 そう思ったら、リエル姉ちゃんの背後からクスクスと笑いをこらえるような声が聞こえた。


 もしかしてマナちゃんが笑ってる?


「リエルおかあさんもアンリちゃんも冗談がおもしろい。リエルおかあさんがそんなことをするわけないのに」


「おう、時と場合によってはしないぜ!」


 それって時と場合によってはするって言ってるのと同じだと思うんだけど、その言葉にマナちゃんはさらに笑った。


 現実は残酷だけど、それをマナちゃんに教えてあげる必要はないかな。村に来れば徐々に分かると思う。子供は現実を知って大人になるって大人の人はみんな言ってるし。


 マナちゃんはひとしきり笑ってからリエル姉ちゃんの足に隠れたままアンリ達のほうを見た。


「えっと、私はマナ。五歳。将来はリエルおかあさんみたいになる予定。ソドゴラ村に住むことになるから仲良くしてね」


 マナちゃんはそう言うと、またリエル姉ちゃんの後ろに顔を半分だけ出して隠れちゃった。でも、ちゃんと自己紹介してくれた。


「うん。全力で仲良くする。だからそっちも仲良くしてください」


 そういうとマナちゃんはニコッて笑った。ほかの皆もよろしくって言ってくれる。スザンナ姉ちゃんと同い年の子もいるみたいだし、これから村は楽しくなりそうだ。


「おう、それじゃアンリ、みんなを紹介しに行くからまた後でな!」


「うん、それじゃまた後で」


 マナちゃんに手を振ると、向こうも手を振り返してくれた。うん、ファーストコンタクトは良かった気がする。これからもっと仲良くなろう。


 あれ? スザンナ姉ちゃんがずっとリエル姉ちゃんのほうを見てる。どうかしたのかな?


「スザンナ姉ちゃん、何か気になることでもあるの?」


「ううん、そうじゃないよ。私もアンリと一緒で同い年の子とあまり一緒にいたことがないんだよね。だから新鮮だったよ。これから村がにぎやかになりそうだね」


「うん、すごく楽しみ」


 リエル姉ちゃんを助けに来て、新しい出会いがあった。そして出会った人の大半はソドゴラ村へ来るみたい。村は今までも楽しかったけど、人が増えてこれからもっと楽しくなる予感がする。


 これもフェル姉ちゃんのおかげ。フェル姉ちゃんのおかげで村はすごく活気づいてる。これから村はどんどん大きくなるかも。いつか町くらいになるほど大きくなると思う。


 それならアンリが村を受け継ぐ頃は町長?


 うん、立派な町長になって、さらに都市と言われるくらいにまで大きくしよう。そして最終的には国を目指す。ソドゴラ国。アンリがソドゴラ国の初代国王になるのも悪くない。フェル姉ちゃんは宰相で、スザンナ姉ちゃんは親衛隊の隊長さんかな。


 ……いけない、ちょっと考えすぎちゃった。アンリ達はバーベキューに出遅れた気がする。午後も特訓があるし、お腹を満たしておかないと。


 でも、アンリには最初にやるべきことがある。


 それはピーマンの除去。


 まずはピーマンをほかの人に食べさせてアンリが食べる分を減らさないと……フェル姉ちゃんがいいと思う。


 ピーマンオンリーの串をフェル姉ちゃんのために焼いてあげよう。そしてアンリはトウモロコシオンリーの串をガツガツ食べるぞ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る