第211話 特訓と技の名前

 

 昨日、フェル姉ちゃんはちょっと落ち込んでいたみたいだけど、アンリ達と食事をしたら結構元気になってた。


 あれ以上背が高くならないとか色々あるみたいだけど、太らずにたくさん食べられるというのはすごいメリット。それに怪我も普通の人よりは早く治るみたい。メリットもデメリットもあるけど、どちらかといえばメリットの方が大きいのかな?


 それに何年か経てばアンリがお姉ちゃんになる。うん、フェル姉ちゃんをアンリの部下にするためにもそれはいいと思う。何て呼ぼうかな? スザンナ姉ちゃんみたいに、フェルちゃん、かな?


「アンリ殿、素振り中に色々考えるべきだとは言ったが、雑念では意味がないぞ?」


「ごめんなさい、師匠」


 いけない。今は訓練中。こっちに集中しないと。


 今日は午前中からオリスア姉ちゃんに特訓してもらってる。スザンナ姉ちゃんも一緒だけど、サルガナおじさんはいないみたい。ドレアおじさんと一緒にアムドゥアおじさんのとこへ行ってるとか。何をしているのかは知らないけど。


 スザンナ姉ちゃんは昨日からずっと水を操っているみたい。それこそ寝る前まで操ってた。いままでは頭で考えて水を操作していたけど、体の一部のように操れるまでずっと操作するとか言ってたかな。今もその訓練中みたいだ。


 よし、アンリも負けないように頑張ろう。


 重力がかかった体で魔剣フェル・デレを振る。


 オリスア姉ちゃんが言うには、疲れている時こそ余計な力がなくなり、理想の攻撃が出来る瞬間だとか。それを疲れていないときにもやれるように体に覚えさせるって言ってた。


 でも、アンリはまだ子供だからこれから体も大きくなるし、訓練方法だけ覚えてくれればいいって言われた。それにオリスア姉ちゃんは村に戻った後、ルハラへ行くことになる。直接教えてもらえるのもそれまでだから、一人でも訓練できるようにってことらしい。


 ルハラ帝国……アンリも大きくなったら行ってみたいな。なんだか暑いところだって聞いたことはある。それに最近までトラン国と戦争してたから結構強い人もゴロゴロいるとか。それにダンジョンも多いって聞いた。


 いつかダンジョンで冒険したいな。


 ……いけない、また雑念がある。ちゃんと剣のことを考えよう。


 ブンブン、と魔剣フェル・デレを振る。


 たしか、オリスア姉ちゃんがやった技はこう、地面に叩きつける感じの攻撃。アンリもいつか地面をボコってへこませるくらいになりたい。


 そうだ、オリスア姉ちゃんに聞きたいことがあった。


「そういえば、師匠が勇者にやった技って何て名前なの?」


「名前……?」


「うん、必殺技みたいだから名前があるじゃないの? 必殺技は名前を言いながら使うのがオシャレ」


 武器破壊のスキルや紫電一閃のような剣技だったら言葉に魔力を乗せる必要があるから名前を言うのは必須。でも、これはオリスア姉ちゃんオリジナルの技。重力魔法は併用しているみたいだけど、魔法を使わなくても格好いいから名前を言いながら使いたい。


「む……むむ? 名前をいいながら剣を振るうのがオシャレだとは知らなかった。たしかにレモがそんなことを言いながら戦っていたか? 滅鬼暗黒斬とかなんとか」


「そう、そんな感じの名前。もしかして名前がなかったりする?」


「確かにないな。なら、オリスアスペシャルとかどうだ――ずいぶんと微妙な顔をしているな?」


 いけない、顔に出ちゃった。


「格好いい技だからもうちょっと考えたほうがいいかも」


「うむ。なら考えてみるか。後世まで残るような技だったら格好いい名前のほうがいいだろうからな! だが、難しいものだな……今度レモに相談してみるか……」


 それはそれでどうかと思うけど、大丈夫かな? まあいいや。技の名前よりも技そのものが大事。素振りをしながらマスターしよう。




 あれから一時間。結構様になってきたと思う。いつかアンリもオリジナルの技を編み出したい。


「うむ! アンリ殿はなかなか筋がいいな!」


「素振りは好き。絶対あの技を覚えて見せる」


「お前達、何をやっているんだ?」


 声がしたほうを見ると、フェル姉ちゃんがいた。昨日と違って今日は元気そう。


「フェル様! 体の方はもうよろしいのですか!? 目を覚ましたと聞いて駆けつけたかったのですが、ドレア達に止められまして、すぐに向かえなかったのです! まったく! アイツらときたら!」


「ああ、うん。もう大丈夫だ。心配をかけたな」


 オリスア姉ちゃんはサルガナおじさん達に止められていたんだ? うん、オリスア姉ちゃんは普段からテンション高いから危険だと思われたのかな?


「えっと、アンリの剣を見てやっているのか?」


「はい。どうやらアンリ殿は私が女神教の勇者を倒していた所を見ていたようで、あの技を教えて欲しいと懇願されまして」


「あの技は素敵。アンリが望む攻撃を体現していた。一撃必殺」


 そう、一撃必殺。勇者であるバルトスおじさんを一撃で粉砕した。もちろん脇腹を怪我して代償もあったけど、あの薬がなかったらオリスア姉ちゃんの勝ちだったはず。


 フェル姉ちゃんはスザンナ姉ちゃんのほうを見た。


「スザンナは何をしているんだ? えっと、水を操っているのか?」


「うん。私も魔水操作に磨きをかけてる。サルガナって人に教わった。無意識に操れるくらい、普段から操作していた方がいいみたい」


「そうか、サルガナがそんなことを言ってたか」


 その後も色々とお話をした。でも、オリスア姉ちゃんが模擬戦をしますか、って聞いたら、フェル姉ちゃんは顔をしかめた。病み上がりで模擬戦はきついと思う。不老不死でもそれは良くない。


 それにフェル姉ちゃんはこれからジョゼちゃん達に会いに行くみたい。


「そうでしたか。残念ですが仕方ありません。なら引き続きアンリ殿やスザンナ殿と特訓しておりますので」


「うん。特訓する。フェル姉ちゃんより強くなる」


「私も。次は勝つ」


「まあ、頑張ってくれ。だが、私ももっと強くなるつもりだからな? 私以上に特訓しないと強くなれないぞ? それじゃ、オリスア。二人が怪我しないようにちゃんと見てやってくれ」


 フェル姉ちゃんがそう言った後、オリスア姉ちゃんからジョゼちゃん達がいそうな場所を聞いてこの場を離れた。


 病み上がりなのに色々忙しそう。むしろジョゼちゃん達なら部屋へ呼べばいいと思うんだけど。


「フェル様はいつもああやって色々な場所へ向かわれるのだ」


「え?」


 オリスア姉ちゃんがフェル姉ちゃんの後ろ姿を見つめながらそんなことをつぶやいた。


「フェル様は魔界にいたときもあのような感じでな、困っていることがないか、問題が発生していないか、常に色々なことを考えながら魔都ウロボロスを歩き回っていた。それに知らないことがあれば、我々のような年寄りに頭を下げて勉強されてもいたな」


「そうなんだ?」


「その姿に我々魔族は心を打たれたものだ。フェル様は魔王として我々魔族を見守ってくださっているとな。我々魔族は魔王に従う。それは強い者に従うという本能的なものだ。だが、心はまた別だろう。過去の魔王のことは良く知らんが、横暴な魔王もいたと思う。だから私は幸せ者だ。心からフェル様に従うことができるからな」


 オリスア姉ちゃんはフェル姉ちゃんを好きすぎる気がする。まあ、それに関してはアンリも負けていないけど。


「む! 先ほどの技名だが、フェルクラッシュはどうだろうか!? 技と共にフェル様の名前を後世に残すというのはアリだ!」


「それはフェル姉ちゃんを叩き潰す感じでちょっとどうかと思う。でも、クラッシュという言葉は好き」


 ネーミングはなかなか難しい。これはセンスが問われる。アンリもオリジナルの技を作った時のために今のうちから名前を考えておこう。

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